病床数適正化緊急支援事業 1床410万円の注意点【2026】

410万4千円。これが、病床を1床減らすたびに動く可能性のある金額だ。

令和7年度の補正予算で3,490億円を積んだ「病床数適正化緊急支援事業」が走り始めた。病院や有床診療所が病床を減らすとき、診療体制の組み直しや職員配置の見直しで現場にのしかかる負担を、国が給付金で支える仕組みになっている。

ただ、減らせばもらえる制度ではない。入り口で対象から外れる医療機関のほうが、おそらく多い。うちにも「うちの病棟は対象になりますか」という相談が増えてきたので、申請を考える前に押さえておきたい論点を、経営の目線で整理しておく。


そもそも、国はなぜ病床を減らす側にお金を出すのか

人口が減り、地域ごとの医療ニーズも変わっていく。これまでと同じ病床数を全国で維持するのは、もう現実的ではない。

一方で、病床を減らす医療機関には重い宿題が残る。診療体制を変え、職員の配置を見直し、入院患者の受け入れを調整する。どれも片手間ではできない。この負担を軽くして、地域に本当に必要な医療を残すために用意されたのが、この支援事業だ。

厚生労働省の資料では、令和7年度補正予算として3,490億円が計上され、病床数適正化緊急支援基金を通じて医療機関へ給付金が支給される、とされている。規模としては小さくない。だからこそ、要件は細かい。


対象になる病院、最初から外れる病院

対象は、病院と有床診療所。対象となる病床は、一般病床、療養病床、精神病床の3つだ。

大きく見ると、次のいずれかに当てはまる医療機関が対象になる。

  • 令和7年12月16日から令和9年3月31日までの間に病床を削減する
  • 令和6年12月17日から令和7年9月30日までに病床を削減し、都道府県へ病床数変更の届出を行った
  • 地域医療構想に関する調査で病床削減予定と報告し、実際に病床を削減した

ここで見落としやすいのが、過去に減らした病床でも対象になり得る一方で、すべての削減が自動的に対象になるわけではない点だ。申請の時期、届出の有無、過去の調査でどう答えたか。この3つを確認しないまま話を進めると、後から「実は対象外でした」というやり直しが待っている。


1床いくら入るのか

支給額は、減らす病床の状態で変わる。

区分支給額
通常の病床を削減する場合1床あたり410万4千円
休床を削減する場合1床あたり205万2千円

通常の病床を10床減らせば、単純計算で4,104万円。休床を10床なら2,052万円という計算になる。

ただし、これは基金の範囲内で支給される制度で、申請内容の審査がある。過去に別の病床機能再編支援事業で給付を受けている場合は、差額のみの支給になることもある。満額が必ず入る前提で資金計画を組むのは危ない。

そして「休床」の扱いが、地味に効いてくる。


「休床から先に減らす」という見えにくいルール

この制度でいう休床とは、申請時点で休棟中の病棟にある病床を指す。すでに削減済みの病床は、削減のときに休棟中だったかどうかで判断される。

災害などやむを得ない事情で休床になっている病床は、都道府県が認めれば休床ではない病床として扱われることもある。

注意したいのはここだ。削減する病床と同じ種別の休床がある場合は、原則として休床から申請する必要がある。休床を残したまま、稼働している病床を先に削減して満額を取りにいく、という順番は認められない。実務では、この順番を取り違えて支給額が想定より下がる例が出やすい。


申請で外れやすい、5つの落とし穴

病床を減らしても支給対象から外れることがある。とくに最初の段階で見落としやすいのが、次のようなケースだ。

  • 産科部門や小児科部門の病床を削減する場合
  • 同じ開設者の別の医療機関へ病床を融通する場合
  • 事業譲渡などにより病床を削減する場合
  • 病床種別を変更しただけの場合
  • 感染症法に基づく医療措置協定の対象病床を削減する場合
  • 特例病床等で、許可された用途に活用していない病床があるのに、その特例病床等を削減しない場合

とくに産科、小児科、感染症対応の病床は、地域医療への影響が大きい。「余っているから減らす」という説明だけでは前に進みにくい領域だ。削減後も地域で必要な医療を確保できるかどうかを、都道府県が確認する。

医療機関側の状況で外れることもある。代表的なのは、申請日の時点で入院医療を受け入れていない場合。病床削減によって入院医療の受け入れそのものを止める場合や、無床診療所へ変わる場合も、原則として対象外になる。令和9年3月31日時点で廃院や事業譲渡を予定している場合も同じだ。

ただし、地域の協議の場などで議論し、地域の医療提供体制に支障がないと認められれば、支給対象として扱われる余地は残る。ここは自己判断せず、都道府県との事前確認が欠かせない。


受け取った後に、10年以上ついて回るリスク

申請が通って給付金を受け取った後も、気は抜けない。次のような場合は、給付金全額の返還を求められる可能性がある。

  • 申請どおりに病床削減が行われていない場合
  • 給付金の支給を受けた日から令和19年3月31日までに病床を増やした場合
  • 必要な手続きを行わず、令和9年3月31日時点で廃院または事業譲渡などをしている場合
  • 申請内容に虚偽や不正があった場合

いちばん重いのは、令和19年3月31日までの病床増加だ。一度給付を受けたあと、将来の経営判断で病床を戻したくなっても、返還リスクが残り続ける。病床削減は、目先の資金繰りだけで決める話ではない。10年以上の事業計画とセットで判断する必要がある。


協議の場が要るケースと、申請の流れ

次に当てはまる場合は、医療法に基づく協議の場などで議論したうえで病床削減を進める必要がある。

  • 現に患者が入院している病床を削減する場合
  • 病床数を合わせて100床以上削減する場合
  • 都道府県が議論を必要と認める場合
  • 廃院や入院医療停止など、要綱上「手続きを経た上で」とされている場合

このときは、代わりとなる在宅医療や外来医療、ほかの医療機関での患者受け入れ調整まで踏まえて検討する。単なる経営判断ではなく、地域全体の医療提供体制として説明できる状態にしておくことが要る。

申請の大まかな流れはこうだ。

  1. 医療機関が必要書類を作成する
  2. 医療機関が都道府県へ申請する
  3. 都道府県が申請内容を審査する
  4. 都道府県が適当と認めた申請を厚生労働省の指定先へ提出する
  5. 基金管理団体が医療機関へ給付金を支給する

厚生労働省のページでは、申請様式、口座振込申出書、申請サイトが公開されている。申請様式は令和8年6月22日に更新された。申請様式では、医療機関の基本情報、病床機能報告における管理番号、病床削減の時期、病床稼働率、在宅医療の提供予定、感染症協定締結の確保病床数、支給申請額などを記載する。別添様式2では、病棟別に削減前後の病床数や運用状況を整理する。口座振込申出書には、医療機関名や金融機関名、口座名義などを記載し、通帳の見開きやインターネットバンキングの画面など、口座名義が確認できる資料の添付も求められる。


申請書を作る前に、まず固める5点

申請を考えている医療機関は、書類に手をつける前に、この5点を先に確認してほしい。

  1. 削減予定の病床が、一般病床・療養病床・精神病床のどれに当たるか
  2. 削減の時期が対象期間に入るか
  3. 休床か、通常の病床か
  4. 対象外になる病床が含まれていないか
  5. 削減後も入院医療を続けるか

この5点を飛ばして申請書の作成に進むと、対象外病床の除外、支給額の修正、都道府県との再調整が後から噴き出す。順番が逆なのだ。

うちがクライアントの病院から相談を受けるときも、最初にやるのは書類づくりではない。どの病棟をどう変えるのか、職員配置をどうするのか、患者の受け入れをどう調整するのか。ここを紙に落としてから、都道府県の担当窓口へ相談する。対象になるかどうかは、要綱だけで機械的に決まる部分と、地域医療への影響で判断される部分が混ざっている。自己判断で走らず、早い段階で確認したほうが、結局いちばん速い。

「いくら受け取れるか」より先に、「どの病床を、どう減らすのか」「減らした後の医療提供体制をどう説明するのか」「10年以上先の病床増加リスクを飲めるのか」。ここを整理してから動けるかどうかで、この給付金との付き合い方は大きく変わる。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。支給額・対象要件・申請様式は今後更新される可能性があるため、申請前に必ず厚生労働省の最新の実施要綱・申請様式および所管の都道府県窓口でご確認ください。


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