業務改善助成金 9月1日開始──医療介護がやる3点【令和8年度】
火曜の朝9時、横浜の小さな介護施設の事務室。事務長のEさんが、令和8年度の業務改善助成金の案内PDFを開いたまま、もう30分動けずにいる。「申請開始、9月1日からなんですか」── 電話の向こうで、私に確認してきた声が少し低かった。今年の業務改善助成金は、去年までと別物になっている。
令和8年度の業務改善助成金は、去年とまったく違う制度に変わった
厚生労働省の発表によれば、業務改善助成金の令和8年度(2026年度)の交付申請受付開始日は令和8年9月1日。申請期限は「地域別最低賃金の発効日の前日」または「令和8年11月末日」のいずれか早い日まで、と短期集中型に変わった(厚生労働省 業務改善助成金)。
過去2年と比べて、変わったのはタイミングだけじゃない。コース体系も、対象事業場も、助成率の刻みもまるごと再設計されている。「去年と同じつもりで準備すると、9月になってから慌てて要件が合わないと気づく」── これがEさんが今、私に相談に来た理由だった。
うちのクライアントの中でも、医療・介護・福祉・保育の現場は労働者数の要件で中小企業に該当しやすく、業務改善助成金の射程に入っている事業所が多い。だからこそ、9月までに何を済ませておくべきかを、ここで整理しておきたい。
3つのコースに再編。30円・45円は消えた
令和8年度の業務改善助成金は、賃金引上げ額が 50円・70円・90円 の3コースに整理された。令和7年度まで存在した30円コース・45円コースは廃止。最も低いラインが50円以上の賃上げになる(補助金ポータル 業務改善助成金 令和8年度解説)。
つまり、これまで「とりあえず最小幅の30円だけ上げて申請しよう」という運用は不可能になった。経営判断としては、賃上げ額をいくらに置くかで助成上限額が大きく動く。たとえば10人以上の労働者を50円上げると上限130万円、90円上げれば上限600万円。引上げ幅と人数で、助成額に4倍以上の差が出る設計だ。
うちで支援している介護事業所の場合、6月の臨時介護報酬改定で処遇改善加算の取り扱いも動いた直後ということもあり、賃上げの原資設計を業務改善助成金とどう組み合わせるかは経営の腕の見せどころになる。「処遇改善で手当を増やし、助成金で設備を更新する」── この二段構えで、人件費の重さを少しずつ動かしていく。
助成率は1,050円ラインで切り替わる
助成率の刻みも、令和7年度の1,000円ラインから 1,050円ライン に引き上げられた。事業場内最低賃金が1,050円未満なら4/5、1,050円以上なら3/4。地方の介護施設や保育園の多くは、まだ事業場内最低賃金が1,050円を下回っている。つまり、設備投資の80%を国に持ってもらえる位置にいる事業所が多い、ということだ。
もう一つ、地味だが大きい変更がある。対象事業場の要件が、令和7年度までの「事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差が50円以内」から、令和8年度は 「事業場内最低賃金が地域別最低賃金を下回っていれば対象」 に実質拡大された(グロウライフ社労士法人 令和8年度業務改善助成金の変更点)。地域別最低賃金の改定でラインが上がる事業場が一気に対象に入ってくる、という変化だ。
地域別最低賃金は毎年10月ごろに発効するため、夏のうちに「自社の事業場内最低賃金が今年の改定額より下にいるか」を確認しておくと、業務改善助成金の窓を逃さずに済む。
9月までに、医療介護経営者がやる3つの準備
ここからが本題。9月1日の申請受付開始まで、残りは約3ヶ月。私がクライアントに伝えている準備リストは、シンプルに3つ。
1. 賃金引上げ計画書のドラフトを作る
50円・70円・90円のどれを選ぶかは、自社の人件費体力と助成上限額のバランスで決まる。介護施設のA理事長と一緒に組んだケースでは、常勤8人・パート5人の事業場で90円コースを採用し、上限額の上振れを取りに行った。引上げ計画書には、対象労働者の氏名・現在の時給・引上げ後の時給・引上げ日を一覧化する。9月の申請に間に合わせるには、夏のうちに就業規則の改定案まで詰めておきたい。
2. 設備投資の見積もりを2社以上から取る
業務改善助成金は、生産性向上に資する設備投資が必須要件。介護記録ソフト、見守りセンサー、自動釣銭機、POSレジ、福祉車両、厨房機器。クリニックなら電子カルテのリプレースや受付タブレット。物価高騰特例に該当すれば、パソコンやタブレット・スマートフォンの新規導入まで対象になる。注意したいのは、交付決定通知を受ける前に発注した経費は全額対象外になること。「先に発注して採択待ち」は事故のもとなので、見積取得までで止めておく。
3. 賃金台帳・就業規則・労働者名簿を最新化する
申請時の添付書類で、毎年一番つまずくのがここ。賃金台帳の引上げ前データ(直近3ヶ月分)、就業規則の最新版、労働者名簿。この3点が古いまま放置されている事業所が、想像以上に多い。歯科のC先生のところでも、申請直前に労働者名簿の住所が前の引越し時のままだと気づいて、書き直しに半日かかった。9月の混雑期に書類整備をするのは詰む。8月中には人事労務サイドで一度棚卸ししておく。
9月までの3ヶ月、何を捨てるか
業務改善助成金は、申請のタイミング・引上げ額・設備の組み合わせで助成額に数百万円の差がつく制度だ。9月1日に申請が始まり、地域別最低賃金の発効日前日か11月末で締まる短期決戦。「申請開始日から書類を準備する」では、たぶん間に合わない。
夏の3ヶ月、何を準備するかも大事だが、何を後回しにするかも同じくらい大事だと思っている。私のクライアントには「6月は賃上げ計画と設備見積もり、7月は就業規則改定、8月は申請書ドラフト作成」と月ごとに切って渡している。逆に、9月の繁忙期と被るような採用イベントや決算前倒し作業は、可能なら10月以降に倒してもらう。
9月の朝、業務改善助成金の電子申請画面を開いたとき、隣に整った賃金台帳と見積書が並んでいるか、白紙のフォルダしかないか。差はその瞬間に出る。
出典・参考情報
- 業務改善助成金(厚生労働省)(厚生労働省、確認日:2026年6月2日)
- 業務改善助成金とは【2026年・令和8年】生産性向上のための設備投資に最大600万円(補助金ポータル、確認日:2026年6月2日)
- 【2026最新】業務改善助成金で最大600万円!令和8年度の変更点と「設備投資」賢い活用法(グロウライフ社会保険労務士法人、確認日:2026年6月2日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。最新の制度内容・申請要件は必ず厚生労働省の公式案内でご確認ください。
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