介護記録ソフト 選び方──導入失敗3施設の共通点【2026】
「うちの記録ソフト、誰も使ってないんです」
火曜の夕方、介護施設のA理事長から電話がきた。導入から半年。月額12万円が口座から落ち続け、現場のタブレットは充電器に挿さったまま画面が黒い。電話の声は、責められた人の声ではなく、自分を責めている人の声だった。今回はその夜から始まった、介護記録ソフト選びの話。
「動いていない」3つの施設に、共通点はあったのか
A理事長の電話を切ったあと、うちのチームと過去2年に伴走した介護施設30件を棚卸しした。ソフト導入で明確に失敗した施設は3つあった。30人定員の特養、20床のショート併設の小多機、入居45人のグループホーム。事業形態も規模もばらばら。それなのに、3施設の話を並べると同じ景色が浮かび上がった。
導入前の打ち合わせに、現場のリーダーが1人もいなかった。決めたのは理事長と事務長と、たまたま営業に来たベンダーの3人だけ。
3施設とも、稟議が通ったその瞬間が、失敗のスタート地点だった。残りの2つの共通点は、次の見出しで具体名を出す。
共通点その2、「現場の入力1分」を測らずに契約していた
2つ目はもっと地味で、もっと致命的だった。ケアの1場面を入力するのに何分かかるか、3施設とも一度も測っていなかった。
導入前にベンダーが見せたのは、整ったデモ画面と「業務時間が30%減ります」の数字。現場の介護職員がオムツ交換のあと、汗をかいたままタブレットを取り出して、何タップで記録が終わるのか。その1分が測られていない。
うちが事務長アウトソーシングで関わった特養では、導入直後に私が現場で15分だけストップウォッチを構えた。1記録に要した時間は平均1分47秒。前任の手書きが平均22秒だったので、5倍に膨らんでいた。職員は1日30件記録する。1人あたり1日37分の純増。20人体制なら12時間が消える。月で換算すれば、月額利用料の何倍かが人件費に化ける。
「効率化のために入れた道具で、現場の残業が増えている」。この倒立が、3施設すべてで起きていた。
共通点その3、LIFE連携を「あとで考える」にしていた
3つ目は、選定時の優先順位の話。3施設とも、LIFE(科学的介護情報システム)への連携を「いま急ぐ話じゃない」と判断していた。
厚労省のLIFE公式では、科学的介護推進体制加算、ADL維持等加算、個別機能訓練加算、リハビリテーションマネジメント加算、栄養マネジメント強化加算、口腔衛生管理加算、褥瘡マネジメント加算、排せつ支援加算、自立支援促進加算が「LIFEへのデータ提出」を要件にする加算として挙がっている。
ここで止まって考えてほしい。施設が今後取りに行く加算の半分以上が、LIFE提出を前提にしている。記録ソフトがLIFEのCSV連携に対応していなければ、職員はソフト入力のあとに、もう一度LIFE用にCSVを手で整える羽目になる。「あとで考える」と言った瞬間、加算は静かに溶けはじめる。
失敗した3施設のうち2施設は、加算を取り損ねていた。1施設は加算は取れていたが、月末2日間の残業代がLIFE手作業のために発生していた。
選定軸は「機能比較表」ではない、現場に出す問いはたった1つ
ここまで読むと、機能比較表を作って点数化したくなる。私もそうしていた時期がある。やめた。比較表は導入を決めるためのアリバイにしかならない。
うちが今クライアントに勧めているのは、現場のリーダーに1つだけ問いを出すこと。「あなたの1日のうち、この記録に置き換えたい行為は何ですか」。これに即答できる施設は、たいてい導入後3か月で軌道に乗る。即答できない施設は、ベンダーを変えても結果は変わらない。
機能の網羅性は2の次でいい。現場が「これを置き換えたい」と名指せる行為が、まず1つあるか。そこから逆算して、その1行為がいちばん速く打ち込めるソフトを選ぶ。1行為で軌道に乗れば、2つ目以降の置き換えは現場側から起きてくる。
補助金100〜260万円を取りに行く前に、施設内で踏む3点
選定の前に補助金を当てにする施設も多い。気持ちは分かる。介護現場のICT化は、厚労省「介護現場におけるICT化の推進について」に整理があり、地域医療介護総合確保基金から職員数に応じて100万円から260万円の補助が出る。対象は記録・情報共有・請求を一気通貫で扱える介護ソフト、タブレット端末、通信機器。申請窓口は各都道府県の介護保険主管課。
ただ、補助金が出るからソフトを入れる、の順序で進めた施設の多くが「動いていない」側に並ぶ。お金を取りに行く前に、施設の中で踏んでほしい3点がある。
- 現場リーダーを選定会議に1人以上入れる。理事長と事務長とベンダー3人だけで決めない
- 導入候補ソフトで、1日の主要記録を15分だけ実際に入力してみる。秒で測る
- LIFE連携の有無、CSV出力フォーマット、入力1記録あたりの所要秒数。この3点をベンダーに書面で出させる
うちが事務長アウトソーシングで入っている施設には、この3点を選定会議の議事録テンプレに最初から印字している。地味だが、これだけで失敗の半分は予防できる。
A理事長への電話のあと、私が出した処方箋
冒頭のA理事長には、その夜のうちに2つだけ伝えた。1つ目、契約は急に切るな。職員にもう一度デモを触らせて、置き換えたい行為を1つだけ言わせろ。2つ目、それでも誰も指名できなければ、月12万円の契約はそのまま継続せず、半額のもう1社に乗り換える検討に入れ。
翌週、A理事長から1通だけメッセージがきた。「現場のリーダー3人を呼んで聞いたら、入浴介助のあとの記録だけは置き換えたい、と言われました」。次の打ち手はそこから始まっている。
介護記録ソフトの選定で迷っている施設の方は、現場の1人に問いを出すところから踏み出してみてほしい。比較表を作るのは、そのあとでいい。
出典・参考情報
- 介護現場におけるICT化の推進について(厚生労働省、確認日:2026年6月3日)
- LIFE(科学的介護情報システム)公式(厚生労働省、確認日:2026年6月3日)
- 科学的介護の推進等について(厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会 関連資料、確認日:2026年6月3日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。一次情報の最新版は各省庁の公式サイトでご確認ください。
あわせて読みたい
株式会社Reliefのサービスで、事業運営を強力サポート!
株式会社Reliefは、医療機関や介護・福祉・保育施設の運営をトータルサポートする専門企業です。
業界特化型のオンラインアシスタント「セレナ」
月一回からはじめる事務長アウトソーシング「困ったときのじむちょー君」
バックオフィスの業務改善・効率化、MoneyForwardクラウドICT・クラウドDX導入支援
経営課題の解決や業務効率化を実現し、貴社の発展を全力でサポートいたします。
