機能強化型訪問看護 届出 ─ 1〜4区分の選び方【令和8年】
金曜の19時、川崎の小さな訪問看護ステーション。所長のDさんは、机に4枚の様式6を並べて、長く息を吐いた。
「1、2、3、そして今年から増えた4。どれで出すか、もう何度ホワイトボードに書いては消したか分かりません」
令和8年度改定で 機能強化型訪問看護管理療養費 は3区分から4区分に増えた。Type4 は精神科訪問看護に特化した新区分だ。区分を1つ選び直すだけで、年間の管理療養費収入は 10〜20% 単位で動く。そして届出は、出した瞬間に止められない。Dさんが息を吐いた理由は、これだ。
4区分は「揃えた施設だけ届出できる」順番制ではない
うちのクライアントで一番多い誤解がこれだ。「1が一番すごい区分で、人員が揃わない順に2、3、4に降りていく」と思い込んでいるケース。違う。
令和8年度改定後の4区分は、「ステーションが向き合う患者層によって最初から別の道に枝分かれする」設計になっている。Type1〜3 は重症児・ターミナル中心の在宅医療ステーション向け。Type4 は精神科訪問看護に経営資源を集中させているステーション向けだ。両方を兼業している場合は、どちらの実績で勝負するかを「経営判断として」選ぶことになる。
つまり「人員が揃わなかったから1から2に落とす」のではなく、「うちはターミナル中心でいくのか、それとも精神科特化で生き残るのか」を最初に決める。区分はその経営方針が形になったものに過ぎない。ここを取り違えると、毎年の届出更新で迷子になる。
判断軸1:過去12か月のターミナルケア実績と超重症児比率
Type1〜3 を選ぶなら、最初に開くべきは 過去12か月のターミナルケア件数表 と 15歳未満の超重症児・準超重症児の延べ利用者数。この2つの数字が、Type1 と Type2 と Type3 のうちどこに着地できるかを決める。
各区分の人員配置・実績要件は 令和8年厚生労働省告示第75号(訪問看護ステーション基準)と 保発0305第20号(人員・運営基準の留意事項)に細かく書かれている。数値の閾値は改定のたびに動くため、年に1回はうちのスタッフも告示原文を引き直す。「去年と同じ運用」のつもりで届出を出すと、要件が改定で1段上がっていて、半年後に減額になっていた、という事故は実際に見た。
注意点を1つ。「ターミナル件数が一時的に閾値を超えた月があるから出せます」は通用しない。継続的に維持できる実績かを問われる。半年遡って数えて足りているのか、来年も同水準を続けられる体制になっているのか。届出を出す前に、所長と理事長で必ず確認してほしい。
判断軸2:看護職員の常勤換算と勤続年数の見通し
2つ目の判断軸は人だ。看護職員の常勤換算人数と、看護職員比率(看護職員 ÷ 全職員)。これが Type1 と Type2、Type2 と Type3 を分ける肝になる。
うちが訪問看護ステーションのバックオフィスを引き受けるとき、最初にお願いしているのは「常勤換算の根拠表を3か月遡って作り直してください」だ。給与計算ソフトの集計値と、シフト表から手計算した値が 0.3〜0.5 ずれているステーションは珍しくない。届出時はその差分が致命傷になる。
もう1つ、見落とされがちなのが 来年の人員見通し。届出は出した時点の体制で受理されるが、要件は「常時満たすこと」が前提だ。産休・育休・退職の予定を踏まえて、半年後も同じ区分で算定できる体制が組めるかを先に詰める。ここを甘く見ると、3か月後に区分降格届を出す羽目になる。
判断軸3:精神科患者の比率と地域内のポジショニング
Type4 を取りに行くかどうかは、ターミナル系の数字とは別軸で判断する。精神科訪問看護基本療養費を算定する利用者の比率と、地域内に同じ機能を持つステーションがあるかどうか。この2つだ。
精神科訪問看護に経営資源を集中しているステーションは、Type4 で評価される設計になっている。地域に1〜2施設しか精神科対応の訪問看護がない、というエリアでは、Type4 で名乗りを上げることが地域連携の入口にもなる。逆に精神科利用者が3割未満なら、Type4 ではなく、Type1〜3 のどれかで在宅医療側の評価を厚く取ったほうが収支は合う。
「精神科もやっているからとりあえず Type4 も視野に」は、たいてい途中で潰れる。届出時点で、向こう1年の利用者構成をどう作るかまで決め切ってから動いてほしい。
届出スケジュール:6月1日から算定したいなら5月7日〜6月1日必着
届出は月単位でロールする。九州厚生局の令和8年度の告知では、令和8年6月1日から算定するためには、令和8年5月7日(木)から令和8年6月1日(月)必着で別紙様式6を提出することになっていた。各厚生局で締切日が微妙にずれるため、自分のステーション所在地を管轄する地方厚生局のサイトを必ず確認する。
様式6は Type1〜4 共通の様式で、受理番号は 訪看機1 / 訪看機2 / 訪看機3 / 訪看機4 に分かれる。一度区分を確定して届出を出した後、別の区分に変更したい場合は、変更希望月の前月の指定日までに再度の届出が必要だ。月ベースで動くスケジュールなので、決算月や賞与月との兼ね合いを先に組んでおいたほうが、現場が混乱しない。
事務連絡で配布されている 令和8年度診療報酬改定に係る施設基準届出チェックリスト(事務連絡 令和8年4月20日) は、届出書を出す前のセルフチェックに使える。うちでは届出代行をするとき、提出の1週間前にこのチェックリストを所長と一緒に1項目ずつ確認している。これだけで差戻しの確率は体感で半分以下になる。
うちのケースで一番多い「3か月前から動けばよかった」
機能強化型の届出で一番もったいないのが、区分判断を届出締切月の中旬から始めてしまうパターン。ターミナル件数の遡り集計、常勤換算の作り直し、退職予定者の補充計画、すべてが間に合わなくなる。結果として「今期は今の区分のままで」と判断保留し、本来1段上の区分で算定できた半年分を取り逃がす。
うちが言いたいのは1つだけ。機能強化型の届出は、出すと決めた月の3か月前から動いてほしい。所長1人で全部抱え込むタスクではない。経理・人事・所長・理事長で持ち回りにする設計を、Reliefではバックオフィス支援の最初の打ち合わせで必ず一緒に作っている。
Dさんの机の上の4枚の様式6。あれは経営判断の地図だ。1枚に丸を付ける前に、3つの判断軸をホワイトボードに書き出してみてほしい。
出典・参考情報
- 訪問看護ステーションの基準に関する届出について(令和8年度診療報酬改定)(九州厚生局、確認日:2026年6月26日)
- 令和8年度診療報酬改定について(厚生労働省、確認日:2026年6月26日 / 告示第74号・第75号、保発0305第20号、保医発0305第9号 等)
- 令和8年度診療報酬改定に係る施設基準届出チェックリストの送付について(事務連絡 令和8年4月20日)(全日本病院協会経由、確認日:2026年6月26日)
- 訪問看護ステーションの基準に係る届出(関東信越厚生局)(関東信越厚生局、確認日:2026年6月26日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。届出様式・要件は告示の改正で更新されるため、提出前に必ず管轄の地方厚生局サイトで最新版を確認してください。
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