訪問看護 育休代替の助成金 新規採用より手当が得【令和8年度】

訪問看護ステーションの育休は、代わりの看護師を採用した方が助成金は大きい。令和8年度の制度では、これが逆になっています。

新規雇用でもらえる額は、育休が1年以上でも81万円で止まる。いっぽう既存スタッフに手当を出す「手当支給等」は、1か月あたり10万円を上限に、業務代替期間24か月分まで積み上がります。

名古屋市内で3拠点を回している訪問看護ステーションのDさんと、この差を電卓で確かめたのが7月の頭でした。


新規雇用は、1年以上でも81万円で止まる

使う制度は両立支援等助成金の「育休中等業務代替支援コース」です。育休を取ったスタッフの穴を、事業所としてどう埋めたかに対して出るお金だと思ってください。

埋め方は2通りあります。支給要領の言い方をそのまま借りると、ひとつは「育児休業取得者の業務を代替する労働者を新規雇用(新規の派遣受入を含む)した場合」。もうひとつが「育児休業取得者の周囲の労働者に手当を支給する等の取組を行い、業務を代替させた場合」です(育休中等業務代替支援コース 支給要領・令和8年4月8日改正)。

訪問看護の現場でまず頭に浮かぶのは、前者でしょう。1人抜けたら1人採る。訪問件数がそのまま売上になる商売なので、当然の発想です。

ただ、新規雇用の側は金額が期間ごとの定額で決まっていて、上に蓋があります。

  • 1か月以上3か月未満 27万円
  • 3か月以上6か月未満 45万円
  • 1年以上 81万円

1年でも1年半でも、81万円。ここが天井です。訪問看護師をひとり採るのに求人媒体と紹介手数料でいくら飛ぶかを知っている人ほど、この数字を見て黙ります。Dさんも黙りました。採用そのものの難しさについては訪問看護ステーションの採用難は「求人費」では解決しないにまとめています。


では、手当支給等はどこまで伸びるのか

手当支給等は、期間で区切った定額表がありません。計算式で決まります。

業務代替期間のあいだに業務代替者全員に対して支給した手当総額の4分の3が助成される。ただし1か月あたりの助成額には10万円という上限があり、対象となる業務代替期間は24か月が上限です。これに加えて、業務体制整備経費が1事業主1人目について1回限り6万円(育休が1か月以上の場合)。

数字を入れてみます。育休を取る訪問看護師の担当を3人のスタッフで分け、応援手当として毎月あわせて12万円を配ったとすると、助成金は月9万円。これが12か月続けば108万円で、業務体制整備経費6万円を足して114万円になります(いずれも上記の率と上限からの試算値)。上限いっぱいまで使い切れば、24か月で240万円に6万円が乗る計算です。

81万円と、この額。同じ1人の育休に対して出るお金の話です。

さらに、育休を取るスタッフが有期雇用労働者なら有期雇用労働者加算が10万円。育児休業取得率などを公表していれば情報公表加算が1事業主あたり2万円(いずれか1回限り)乗ります。

もちろん、手当支給等は「手当として実際に配った金額の4分の3」なので、配らなければ1円も出ません。人件費が外に出ていくことに変わりはない。それでも、その4分の3が戻ってきて、しかも渡した相手は今いるスタッフです。新規採用で入った人が3か月で辞めるリスクを背負うのとは、性質がまるで違います。


就業規則に1行ないと、この話は全部ゼロになる

ただし、ここに落とし穴があります。うちが助成金の相談を受けていて一番よく踏まれるのが、この穴です。

手当支給等で助成を受けるには、業務代替者に払う手当(業務手当、応援手当といった名前のもの)を業務代替期間の開始日までに労働協約または就業規則に規定していることが要件になっています。開始日まで、です。あとから規定を足して遡って申請する、という道はありません。

そしてもうひとつ。その手当は、労働時間に応じて支給される賃金、つまり残業代そのものであってはいけないと支給要領に書かれています。代替する職務内容や業務内容を評価する賃金である必要がある。

訪問看護ステーションでいちばん起きやすいのが、この2つの合わせ技です。育休に入るスタッフの担当を残りのメンバーで割り振り、増えた分は残業代で精算する。現場としては誠実な対応ですが、助成金の設計としては空振りになります。

金額の基準もあります。業務代替期間中に業務代替者全員に支払われた総額で1万円以上の増額が必要(業務代替期間が1か月に満たない場合は1日あたり500円との比較で低い方)。名目を作っただけで実額が動いていないと、要件を満たしません。

規定づくりに外部の社会保険労務士等へ委託した場合、業務体制整備経費が6万円ではなく20万円になる扱いもあります。この一本だけで委託費が出るケースもあるので、自前で書き切るかどうかは冷静に判断してください。


延べ10人の枠は、ステーションごとではありません

ここで多くの人が読み違えるのが、上限人数の数え方です。

支給要領は「助成金は、事業主単位で支給するものであり、事業所単位で支給するものではない」と明記しています。そのうえで、1年度あたりの支給対象労働者数は1事業主あたり、手当支給等(育児休業)・手当支給等(短時間勤務)・新規雇用(育児休業)を合計して延べ10人が上限。

訪問看護ステーションを3拠点、4拠点と展開している法人だと、拠点ごとに10人だと思って計画を組みがちです。実際は法人まるごとで10人。申請も、対象労働者が生じた事業所にかかわらず本社等が行うと定められています。

拠点の管理者にそれぞれ任せていると、書類の様式も手当の名前もバラバラになって、本社で束ねる段階で崩れます。Dさんのところは3拠点で就業規則が1本だったので助かりました。分かれていたら、この夏はそこからの作業でした。

なお、常時雇用する労働者が300人を超えない事業主は特定事業主に当たります。訪問看護ステーションを運営する法人のほとんどはここに入るはずです。同じ「事業主単位」の考え方はキャリアアップ助成金でも効いてくるので、あわせて見ておいてください。


8月に決めるのは金額ではなく、手当の名前と規定の日付

秋から冬にかけて産休に入るスタッフがいる法人なら、動くのは今月です。理由は単純で、規定が間に合うかどうかが業務代替期間の開始日で切られるから。9月1日受付開始の業務改善助成金と時期が重なるので、就業規則をいじる作業はまとめてしまった方が早いはずです。

Dさんと決めたのは、この3つでした。

  1. 手当の名前を「訪問応援手当」に決め、就業規則の賃金規程に条文として置く。残業代とは別建てにする
  2. 誰が何件を引き取ったら月いくら、という配分表を1枚作る。総額で1万円を下回らないように設計する
  3. 産休に入る日ではなく、業務代替を始める日を先にカレンダーに入れる。規定の施行日はその前日までに合わせる

金額の交渉から入らなかったのがポイントです。名前と日付が先。ここが決まっていれば、あとから配分は動かせます。

雇用関係助成金には共通のルールもあり、厚生労働省の共通要件のページには「雇用関係助成金を受給するためには共通要領に規定する要件等を満たす必要があります」とあります。かつての生産性要件は2023(令和5)年3月31日で廃止済みなので、そこを気にする必要はもうありません。

育休そのものの根拠は育児・介護休業法(平成3年法律第76号)です。制度は毎年動きます。同じ1人の育休でも、どちらの埋め方を選んだかで受け取れる額は変わる。その分かれ目は、就業規則を先に開いたかどうかです。

あなたのステーションの就業規則に、応援手当の条文はありますか。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の詳細および最新の取扱いは、必ず厚生労働省の公表資料および管轄労働局にご確認ください。


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