訪問看護ステーションの採用難は「求人費」では解決しない【2026年版】

採用費を増やしても、訪問看護師は採れない。 理由は給与水準の低さではなく、求人票に書かれていない「オンコールの実態」が候補者の離脱を招いているからだ。 採用できているステーションが持っているのは予算ではない。候補者が最も不安に感じていることを、面接より先に開示する胆力だ。

「求人倍率4.54倍」という数字が示す、費用では動かせない構造

日本看護協会が公表した「2024年度 ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」によると、訪問看護ステーションの有効求人倍率は4.54倍で、施設種別で最も高い(病院200〜499床は2.49倍)。 ここまで読んで「給与を上げれば解決する」と判断した経営者は多い。実際、その結論に至って人材紹介会社への支出を増やし、求人サイトの広告枠を拡大したステーションを複数見てきた。 結果はほぼ変わらなかった。 理由は数字の読み方にある。求人倍率が高いことは「求人が多い」を意味するが、「なぜ看護師が訪問看護を選ばないか」は別の話だ。2024年末時点で、就業看護師136万3,142人のうち訪問看護ステーション勤務は9万1,022人(6.7%)にとどまる(厚生労働省 2024年衛生行政報告例)。全体の7%弱しか訪問看護を選んでいない。費用を増やせば増やすほど、選んでいない93%の中から採ろうとしていることになる。 そもそも訪問看護を選ばない理由を潰さない限り、広告費の投下先を変えても同じことが繰り返される。

求人票を見た後に離脱する、3つの「見えない理由」

うちが訪問看護ステーションの採用改善に入ったとき、最初にやったのは「応募しなかった看護師へのヒアリング」だった。ハローワークで求人を見たが応募しなかった、という人を8名追跡した。 繰り返し出てきた理由は3つに収れんした。
  • オンコールの実態が書いていない:「月4回程度」という記載はあるが、実際に深夜に出動した件数や対応時間の実績がない。聞きたいが「聞いたら悪印象を与えるかも」という心理が働いて応募しない。
  • 1日の訪問件数の上限が不明:自分の体力で続けられるかが計算できない。「標準的な件数」を書いていても、自分のステーションの実数なのかが分からない。
  • 一人で利用者宅に入ることへの孤立感:病院と決定的に違うのは、判断に迷ったとき相談できる先輩がその場にいないことだ。この不安を求人票で先回りして緩和しているステーションは少ない。
3点とも、給与や処遇とは無関係だ。情報がない、だから選べない。それが離脱の本当の原因だった。 採用費で解決できるのは「見てもらえる機会の数」だけで、見た後に選ばれる理由にはならない。ここを間違えると、費用だけが積み上がっていく。

ベースアップ評価料さえ届出できていないステーションが多い

給与で解決しようとしても、そもそも給与を上げる仕組みが使えていないケースが多い。 公益財団法人 日本訪問看護財団の公式サイト(jvnf.or.jp)には現在、こう書かれている。 「ベースアップ評価料の届出が伸び悩んでいます。計算が大変で難し……」 訪問看護ベースアップ評価料は、診療報酬上の仕組みとして看護師の基本給引き上げに使えるものだ。算定できれば財源が確保できる。それでも届出が進まない理由は「計算が大変だから」という事務管理上の問題に行き着く。 「給与を上げたいのに、上げるための手続きが回っていない」ステーションが実在する。採用費を論じる前に、こちらを整えることが先だと私は思う。届出ができていれば求人票に「ベースアップ評価料届出済み」と明記でき、それだけで他のステーションと差別化できる。

費用をかけずに採用できたステーションが実際にやっていた2点

うちが関わって採用改善につながったケースで、実際に効いた施策を2点書く。 ①オンコールの実績数値を求人票に記載する 「月の平均オンコール回数:3.2回(直近12か月実績)」「深夜実出動:月平均0.8回」のように、過去1年の実数を開示した。 これだけで「他のステーションより数字が見える」という比較が成立する。入職後のミスマッチも減った。「思っていたより夜は少なかった」と言ってくれた看護師が複数いた。 ②同行期間を月数と時間数で明示する 「独り立ちまで平均3か月、同行訪問100時間以上を保証」という文言を入れた。孤立感への不安を面接より前に緩和できる。特に病院から訪問看護へのキャリアチェンジを考えている看護師への刺さり方が違う。 どちらも新たな費用はかかっていない。変えたのは「求人票に書く情報の種類」だけだ。 2024年4月時点で全国17,329か所(全国訪問看護事業協会調査)まで増えた訪問看護ステーションの中で、候補者があなたのステーションを選ぶ理由を作れているか。採用費よりも、そっちが問いとして先にある。 求人票を、今夜10分かけて読み直してみてほしい。「オンコールの実績値を書いていない」ことに気づくステーションは、思ったより多い。

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出典・参考情報

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