クリニック・診療所のバックオフィス効率化 完全ガイド【令和8年6月改定版】

水曜の午後2時半、関西圏のD内科クリニック。院長のE先生は、診察の合間に空いた15分で施設基準の届出書類を引き出しから取り出していた。封筒に入れて、切手を貼って、地方厚生局に郵送する。毎年のこと、と言い聞かせながら。今年の6月1日を境に、その仕事のかなりの部分がPCの画面に移動した。 移動したのは、書類だけじゃない。E先生が「面倒くさい」と思っていたものの輪郭そのものが変わりつつある。

令和8年6月、クリニックのバックオフィスに何が起きたか

令和8年6月1日に、診療報酬改定の本体部分が施行された(厚生労働省、令和8年度診療報酬改定について)。 今回の改定が過去のものと違うのは、点数の増減だけでなく、医療機関の「事務の形」自体を変えることが明確に狙いの一つに入っていた点だ。厚生労働省が「医療DX」と呼んでいる取り組みの具体的な実装が、この改定から本格的に始まった。 クリニック経営者から見ると、影響は大きく3つに分かれる。
  • 施設基準の届出がオンライン申請に移行
  • 院内書類の署名・押印が一部廃止の方向に
  • 既存の医療DX加算が新しい体系に切り替わった
以下、順に整理する。

施設基準届出 324項目オンライン化で事務がどう変わるか

令和8年1月26日から、施設基準の届出オンライン申請の対象が324項目に拡大された(医療経営支援事務所、324届出がWeb申請可能に)。 「保険医療機関等電子申請・届出等システム」を使えば、月曜から土曜の8時から21時の間、いつでも提出できる。地方厚生局の窓口に合わせて動く必要がなくなった。審査状況もシステム上で確認できるので、「届いたかどうかが不安で電話した」という時間も減る。 実際にオンライン申請を使ってみたE先生からは、「郵送に比べて何日か早く受理される実感がある」という話を聞いた。封筒と切手と往復の時間が、まるごと不要になる。 ただし、注意点が一つある。324項目のすべてが診療所に関係するわけではない。自院で届け出ている施設基準を洗い出し、その中でオンライン申請に切り替えられるものを確認する作業が最初に必要になる。切り替えないまま放置すると、郵送のままで問題はないが、せっかくの効率化ツールを使い損ねる。 確認の手順は単純だ。地方厚生局のサイトにある施設基準の電子申請対象一覧と、自院の届出一覧を突き合わせる。うちのクライアントの何院かでは、この突き合わせ作業そのものを事務長が1時間でやり切っている。

6月改定で届出が必要になった項目の確認も同時に

オンライン化の話と並行して、6月1日の改定で新たに届出が必要になった項目の確認も欠かせない。改定前後で加算体系が変わったため、6月1日以降に算定を継続するには「改めての届出」が求められるケースがある。 特に電子的診療情報連携体制整備加算(後述)は、旧来の医療DX推進体制整備加算とは別の届出が必要だ。「以前から届け出ているから大丈夫」と誤解して算定漏れになったクリニックが実際にある。

「署名・押印廃止」の正しい読み方

「押印が廃止になった」という話が広がっているが、内容を正確に理解しておかないとトラブルになる。 廃止の対象は主に院内で完結する書類だ。入院診療計画書・リハビリ計画書・生活習慣病療養計画書など、患者に渡す書類の一部について、院長や医師の押印が不要になり、記名のみでよくなった。毎回の同じ署名作業が減る点では確実に楽になる。 一方、地方厚生局や保険者に提出する書類初回提出の施設基準届出などは従来通りの手続きが必要な場合も残る。「すべての押印がなくなった」と思い込んで手続きを省略すると、受理されないリスクがある。 うちのクライアントのF診療所では、この誤解が原因で一度、届出が差し戻しになった。「廃止されたはずでは」という問い合わせが事務長から来て、制度の適用範囲を一緒に整理した。院内書類と院外提出書類を分けて考える習慣をつけておかないと、同じことが起きる。 厚生労働省は医療DX推進ページで継続的に情報を更新している。実務上の判断に迷ったら、まず一次情報に当たる。

電子的診療情報連携体制整備加算、旧加算との違いと実務上の注意点

6月1日から、診療報酬の加算体系が切り替わった。 旧来の「医療DX推進体制整備加算(初診時8点)」と「医療情報取得加算(1〜3点)」は、2026年5月31日で廃止された。代わりに「電子的診療情報連携体制整備加算」(初診最大15点・入院初日最大160点)が新設されている(医療ケアサポートによる改定ガイド、確認日2026-07-15)。 初診時の点数が8点から最大15点に上がった点は、診療所にとってプラスに働く。ただし算定要件が変わっているため、旧加算の届出をそのまま引き継げるわけではない。 主な算定要件は次の通りだ。
  • オンライン資格確認システムの稼働
  • 電子処方箋の導入
  • 電子カルテシステムの導入
  • 電子カルテ情報共有サービスへの接続
電子カルテ情報共有サービスへの接続が要件に入った点が、以前との大きな違いだ。すでに電子カルテを導入しているクリニックでも、この接続対応が完了していないと算定できない。自院のシステム状況を確認した上で届出を出す必要がある。 なお、セキュリティ要件として「バックアップの複数方式保管とオフライン保管」が必須とされており、クラウドサービスのみのバックアップは要件を満たさない場合があると明記されている。IT部門または委託業者に確認を取ったほうが安全だ。

標準型電子カルテ(診療所向け令和8年度中)が意味すること

医療DXの中長期的な核の一つが、標準型電子カルテだ。厚生労働省は医科診療所向けの標準型電子カルテ(導入版)を令和8年度中に完成させる予定で開発を進めている(厚生労働省 医療DX推進ページ、確認日2026-07-15)。 「クリック操作を基本とした直感的に使いやすい」設計を目指しており、他院の診療情報や検査データを閲覧できる機能が搭載される予定だ。 これが実際に普及した場合、クリニックのバックオフィスに何が起きるか。推測で語るのは避けるが、制度として目指していることは明確で、「どのクリニックでも同じ基盤の電子カルテを使う状態」に近づけることだ。今使っている電子カルテが「標準型」に対応しているかどうかを、ベンダーに確認しておくのは今年中にやっておいていい作業だと思う。 現時点で導入済みの電子カルテを急いで変える必要はない。ただ、次回の更新タイミングや新規導入のタイミングで「標準型への対応」を選択肢に入れておくと、将来の加算要件変更にも対応しやすくなる。

バックオフィス外注の使い方 Reliefが実際に引き受けていること

「事務が楽になるツールが増えた」という話と「事務の量そのものは減っていない」という現実が、今のクリニックに同時に存在している。 令和8年6月改定で新しいツールと新しい届出が同時に増えた。オンライン申請の設定、新加算の届出確認、バックアップ要件のチェック。やることは増えている。 うちが「オンラインアシスタント セレナ」(assistant-serena.com)や「じむちょー君」(jimucho-kun.com)を通じて実際に引き受けているのは、こういう場面だ。
  • 施設基準の届出漏れチェック(改定ごとに棚卸し)
  • オンライン申請への移行サポート(ID発行から提出まで)
  • 新加算の算定要件確認と届出書類の作成補助
  • レセプト請求後の点検と差異確認
反対に、「外注できないもの」もある。算定するかどうかの経営判断、加算要件を満たすかどうかの医師としての判断、患者への説明。これはクリニックの院長・管理者が手放してはいけない部分だ。 何を任せて何は手放さないか。この線引きが、バックオフィス外注をうまく使えるかどうかの分かれ目になる。 マネーフォワードクラウドの導入と運用については、うちのサポートページに詳細を載せている。電子帳簿保存法への対応もセットで設計する診療所が増えている。

今月動くべき3点 診療所の優先順位

まとめとしてではなく、今週の実務として整理する。
  1. 施設基準の届出リストを引き出す
    今届け出ている施設基準を一覧にして、6月改定で変更・廃止・新設された項目がないかを突き合わせる。地方厚生局のチェックリストが公開されているので、それを使う。
  2. 電子的診療情報連携体制整備加算の算定要件を確認する
    旧加算を届け出ていたクリニックでも、改めて要件を確認して届出が必要かどうかを判断する。電子カルテ情報共有サービスへの接続対応が完了しているかがポイントになる。
  3. バックアップ体制をベンダーに確認する
    「クラウドのみ」のバックアップになっていないかを今のシステム担当者またはベンダーに確認する。要件に引っかかっていた場合、加算の算定停止リスクがある。
この3点は、どれも「今から取り組んでも間に合う」内容だ。6月施行から1か月半が経過しているが、算定要件の見直し・届出の整理は7月以降でも対応できる。 E先生のクリニックでは、7月に入ってオンライン申請への完全移行を終えた。「切手を買いに行かなくなった」と言っていた。それだけのことだけど、それだけのことだ。

出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度変更により内容が変わることがあります。最新情報は厚生労働省の公式サイトをご確認ください。


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