歯科技工士 採用と処遇改善 ─ 賃金設計3点【2026】
31,733人。──これが今の日本の就業歯科技工士の全数だ。
前回調査から 1,209人(3.7%)減少した。65歳以上が19.3%を占める一方、29歳以下は全体の約1割しかいない。第7回 歯科技工士の業務のあり方等に関する検討会 資料1「歯科技工士の現状について」(令和8年3月2日)の数字だ。
先月、歯科のC先生から「うちの技工士がもう一人退職しそう」と相談を受けた。話を聞き終えて、私はまず先生のスマホでこの資料を開いた。「先生、これは先生のクリニックの問題じゃない。全国で起きている供給ショートです」と伝えた。今日はその夜の続きを書いておく。
「うちの技工士は来年もいる」という前提はもう成立しない──数字で確認しておく
まず現状の輪郭を数字で押さえておく。厚生労働省の同資料によれば、令和6年末時点の実態はこうだ。
- 就業歯科技工士:31,733人(前回比 -1,209人 / -3.7%)
- 歯科技工士免許登録者数:125,093人(うち就業割合 25.4%)
- 年齢構成:65歳以上が19.3%(最多層)。29歳以下は約1割
- 歯科技工士国家試験合格者数(令和7年):684名(10年間で約2/3以下に減少)
- 歯科技工所数:20,278か所(2年で -563か所 / -2.7%)
免許を持っている人の4分の3は、もう技工の仕事に就いていない。そして就業している人の5人に1人は65歳以上だ。この2つの数字を並べただけで、「うちの技工士は来年もいる」という前提がどれだけ危ういか、直感でわかる。
C先生のクリニックは常勤の院内技工士1名と、地元の外注技工所1社で回している。院内の技工士は58歳。外注先の代表は67歳、後継者はまだ決まっていない。診療は回っている、来月も回る。半年後がわからない。うちが預かっている歯科医院の3件に1件は、似た構造を抱えている。
ではこの前提のうえで、経営者は何から手を打てばいいのか。
先に賃金の相場を確認する──「うちだけ払えていない」を思い込みで判断しない
採用の話に入る前に、賃金の実額を押さえる。相場と自院の差分がわからないままだと、求人票も面談も感覚論で終わる。
令和6年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)の職種別データで、歯科技工士(10人以上規模企業ベース)の賃金は以下の水準にある。
- 平均年収:約454万円
- きまって支給する現金給与額(月給):約32.9万円
- 年間賞与その他特別給与額:約59.2万円
- 入社初年度(経験年数0年)の所定内給与:約20.7万円/月
ここで見るべきは2点ある。1つ目は、月給と賞与のバランス。年収454万円のうち賞与が59万円ということは、残り約395万円が月次で支払われている。月給ベースで職業として魅力を作らないと、他業種の若手にはまず届かないという現実がここに出る。
2つ目は初任給。20.7万円は、今の若手が他の医療系職種の求人を並べて見比べたときに、率直に言って弱い。歯科衛生士の初任給と同水準か、下手をすると少し下だ。10年後の職場をイメージさせる材料が、この額だけでは足りない。
C先生のクリニックに戻る。院内技工士の月給を計算し直してもらったら、平均月給よりやや高め、賞与はやや低め、年収ではほぼ平均だった。「うちだけ払えていない」と思い込んでいたが、実額はそこまで負けていない。ただし、院内技工士に求めているスキル(補綴設計+CAD/CAMオペレーション+院長との症例ディスカッション)に対しての賃金としては、平均レンジのままでいいのかという論点は残る。ここが処遇改善の起点になる。
採用難時代の求人票と処遇改善──賃金設計3点で書き換える
うちが歯科医院の採用・処遇改善で入るときに、経営者と一緒に必ず書き換える3項目がある。順に出しておく。
1点目:月給レンジを「単一額」から「等級付きレンジ」に変える
求人票の月給欄が「月給 25万円〜」で止まっている歯科医院はまだ多い。この書き方だと、経験のある技工士ほど「上限が読めない」と応募を避ける。
Reliefの判断としては、以下の書き方に変える。
- 等級を3段階(例:J1 補綴補助/J2 単独補綴/J3 CAD/CAM+症例責任)に分ける
- 各等級の月給レンジを最低額と最高額の両方を明示する
- 賞与は「基本給×○か月+実績連動加算あり」と、算定式まで書く
これだけで応募の質が変わる。相場を知っている経験者ほど、レンジと算定式が書かれた求人票にしか反応しない。「月給25万円〜」の求人に応募してくるのは、相場を知らない未経験層になりがちだ。
2点目:CAD/CAM習熟への「手当」を切り出す
賃金全体を一律に上げるのは、経営体力の問題で難しい歯科医院が多い。であれば、技工士の希少スキルに対して、基本給とは別枠で手当を新設するのが現実的だ。
うちで提案しているのはCAD/CAM習熟手当だ。CAD/CAM冠の保険適用が拡大した一方で、機器を回せる技工士は限られる。院内で回せる人材には、月2〜3万円の技能手当を独立させておく。ここは基本給と切り離して、退職時の退職金算定基礎から外しておくのがポイントだ。人件費の固定化を避けつつ、希少スキルへの処遇を可視化できる。
3点目:外注技工所との「共同雇用」の可能性を残す
院内で1名フルタイム雇用が難しい規模の歯科医院は、外注先の技工所と 週2日ずつのシェア雇用 を組めないか検討する余地がある。歯科技工所の平均事業所規模は縮小傾向にあり、外注先も「うちだけで抱えるには単価が下がっている」と悩んでいるケースが多い。
共同雇用は労働契約上の整理(雇用主・社会保険・労災)が要るので、うちがコンサルで入るケースでは社労士と組んで進める。ただ、この選択肢を求人票に書ける歯科医院は、まだ非常に少ない。「週2日は院内、週3日は外注技工所」という形で、若手にキャリアパスを2軸で見せられるのは、今の局面では強い差別化になる。
この夏、C先生のクリニックで動かす3手
相談から1か月、C先生のクリニックで今動かしているのは次の3手だ。
- 相場の再確認:院内技工士の年収を 令和6年賃金構造基本統計調査 の水準と比較し、月給・賞与のバランスを組み直した。年収は据え置きだが、月給比率を上げた
- CAD/CAM手当の新設:月額2.5万円の技能手当を独立させ、基本給と分けて就業規則を改定準備中
- 外注技工所との共同雇用の打診:外注先の代表と面談を設定した。技工士1名を共同で雇う設計を、社労士を交えて検討している
3手のうち2手は、実は求人を出す前に社内で終わらせる話だ。求人票を書き換える前に、賃金と処遇の器を作り直す。順序を逆にすると、面接で内定を出しても辞退される。ここで急ぐと失敗する。
正直に書くと、この3手を全部やっても、31,733人という母数は増えない。減少は続く。だから、今の職場を選び続けてもらう理由をこちらが用意するしかない。「うちの技工士は来年もいる」という前提を、こちらが行動で作り直す。それだけの話だ。
あなたのクリニックの技工士は、来年もいるだろうか。この夏のうちに、賃金台帳を一度開いて、平均年収454万円のラインと並べてみるところから始めてほしい。
出典・参考情報
- 第7回 歯科技工士の業務のあり方等に関する検討会 資料1「歯科技工士の現状について」(厚生労働省、令和8年3月2日、確認日:2026年7月2日)
- 第7回 歯科技工士の業務のあり方等に関する検討会(開催案内・資料一覧)(厚生労働省、確認日:2026年7月2日)
- 歯科技工士の業務のあり方等に関する検討会(厚生労働省、確認日:2026年7月2日)
- 令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況(厚生労働省、確認日:2026年7月2日)
- 歯科技工士の養成・確保に関する検討会 報告書(厚生労働省、令和2年3月31日、確認日:2026年7月2日)
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