介護職員の採用──紹介依頼47.3%を仕組みにする【2026】
「求人広告、今年はもう出さないつもりです」
先週、名古屋市内の訪問介護事業所を訪ねたときのことだ。管理者のAさんは、事務室の壁に貼ったシフト表から目を離さないまま、そう言った。
人が集まらないから諦めた、という話ではない。広告費を積むだけの原資がもう残っていない、という話だった。
昨日公表された令和7年度の「介護労働実態調査」に、Aさんが探していた答えがそのまま載っている。
不足8割の中身を分解すると、打ち手の順番が変わる
公益財団法人介護労働安定センターが令和8年7月29日に公表した令和7年度「介護労働実態調査」結果の概要によると、従業員が不足していると答えた事業所は65.8%でした。前年度は65.2%。わずかですが上がっています。
職種別に見ると景色が変わります。訪問介護員は82.9%。調査対象7職種のうちで不足感が最も高い職種です。そのうち「大いに不足」と「不足」を足しただけで58.6%、およそ6割に達します。介護職員は同じ計算で69.8%と36.2%。訪問介護の現場が置かれている水位は、施設系とは明らかに違う。
ここで数字の読み方に一つ罠があります。訪問介護員の82.9%は、前年度より0.5ポイント下がった数字です。ところが同じ調査で、内訳の「大いに不足」と「不足」の合計は上昇しています。全体の不足感がわずかに緩んだように見えて、深刻な層はむしろ増えている。楽になったわけではありません。
採用と離職の側はどうか。訪問介護員と介護職員を合わせた2職種の離職率は12.4%で横ばい、採用率は14.6%で2年ぶりに上昇しました。ただし上昇幅は0.3ポイント。厚生労働省の福祉人材確保専門委員会に出された資料でも「介護関係職種の有効求人倍率は、依然として高い水準にあり、全職業より高い水準で推移している」と整理されています。
求人媒体で正面から人を取り合う勝負は、うちのクライアントの規模ではまず勝てません。では、どこに入口があるのか。
求人費を積む前に、数字が指している入口はどこか
同じ調査には、働いている側の答えも載っています。今の法人に就職した主な経路の1位は「友人・知人からの紹介」で33.8%。2位のハローワークが19.4%ですから、差は14ポイント以上あります。
「昔からの縁で入った人が多いだけだろう」と読みたくなるところですが、勤続1年未満に絞っても順位は変わりません。紹介が29.3%で1位、次が求人情報サイトの21.3%。今この瞬間の入職経路でも、紹介が先頭に立っています。
事業所側の数字と並べると、もっとはっきりします。「職員に対して友人・知人などの紹介を依頼」を実施している事業所は66.0%、「ハローワークや福祉人材センターの担当者に相談」は64.8%。実施率はほぼ同じ。ところが実施した事業所のうち「採用に効果があった」と答えた割合は、紹介依頼が47.3%、ハローワーク相談が41.8%です。
5.5ポイントの差。しかも紹介依頼には掲載料も成功報酬もかかりません。
それでも、うちが訪問介護や通所介護の現場に入って最初に見るのは、だいたい同じ光景です。朝の申し送りで「誰か知り合いいませんか」と一度呼びかけて、そのまま数か月。あれは依頼ではなく雑談です。効果47.3%という数字は、雑談を続けた事業所も含めた平均値だと考えたほうがいい。
依頼を仕組みに変えるとき、決めることは3つしかありません。
紹介依頼を仕組みに変える3つの決めごと
- 声をかける相手を職員に丸投げしない。「知り合い」では範囲が広すぎて、人は思い出せません。「以前一緒に働いていた元同僚」「子どもの手が離れた元ヘルパー」「担当を離れた利用者のご家族」と、こちらから層を名指しします。有資格で今は現場を離れている人を狙う設計です。
- 依頼のタイミングを既にある行事に固定する。思い出したときに言うから続きません。毎月のシフト確定日に、埋まっていない枠だけを書いたA4を1枚配る。「募集職種:訪問介護員」ではなく「火曜と木曜の午前、2時間だけ空いています」と書く。紹介する側が友人に転送できる粒度まで落とすのがコツです。
- 紹介が来たあとの返事の速さを先に決める。うちが提案しているのは「3営業日以内に見学日を返す」。紹介者は自分の顔を貸して人を連れてきています。返事が2週間止まった時点で、その人からの2人目は永久に来ません。
3つとも、稟議も予算も要りません。決めるのは順番と締切だけ。
それでも「結局は賃金だろう」という反論は必ず出ます。この調査は、そこにも数字で答えています。
賃上げ38.4%でも、辞める理由は消えない
採用について「効果があった」とされた方策の1位は、たしかに「賃金水準の向上」で38.4%です。賃上げが効くのは事実。ここを否定するつもりはありません。
賃金そのものも動いています。月給者の通常月の平均月収は254,951円で、前年度比2.4%の増加。職種別の伸び率は訪問介護員が4.1%と最も高く、介護職員の3.1%を上回りました。処遇改善の原資が現場まで届き始めた形跡は、たしかにあります。
それでも人は辞める。直前の仕事が介護関係だった人が辞めた理由の1位は「職場の人間関係に問題があったため」で27.3%。その具体的な中身の1位が「上司や先輩からの指導や言動がきつかったり、パワーハラスメントがあった」で、人間関係を理由に辞めた人のうち45.8%を占めます。約半数。
満足度をD.I.(満足と答えた割合から不満足と答えた割合を引いた指標)で見ると、賃金水準はマイナス12.3ポイントです。ところが、それより大きいマイナスがもう一つある。「人員配置体制」のマイナス18.5ポイントです。一方で「職場の人間関係」はプラス38.2ポイントと、全項目のなかで最も高い。
職員が最も不満を持っているのは、給与明細ではなくシフト表だった。
そして定着に効果があった方策の1位は「有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」で57.9%。実施率も75.4%で最多です。賃上げには原資が要ります。休みと勤務変更のしやすさは、シフトの組み方を変えれば今月から動かせる。順番はここで決まります。
来週の月曜に決めることは1つしかない
もう一つ、経営者として直視しておきたい数字があります。29歳以下の離職率は17.3%で、他のどの年齢階層よりも高い。若い人を採るほど抜けていく構造が、全国平均として出ています。
労働条件や仕事の負担についての悩みの1位は「人手が足りない」で52.3%。人手が足りないから辞め、辞めるから足りなくなる。この輪の中に、求人広告費だけを投げ込んでも輪は止まりません。
ただ、悲観だけの調査でもない。訪問介護員は「働きやすい」が72.7%、「働きがいがある」が68.3%で、介護職員の63.3%・56.8%を上回っています。仕事そのものが嫌われているわけではないという事実は、採用の現場では強い武器になります。
新しい入口も出てきました。過去1年間にスポットワークを利用した事業所は8.9%。そのうち28.0%が、スポットワークから正社員等への雇用につなげています。使っている事業所はまだ1割に届いていません。試すなら、まだ早い側です。
だから月曜に決めるのは、今月の求人予算をいくら増やすかではありません。紹介依頼の宛先を誰にするか。それだけです。名刺入れではなく、辞めていった元職員の名簿を開くところから始まります。
Aさんはあの日、シフト表の余白に元ヘルパー3人の名前を書きました。あなたの事業所の余白には、何人の名前が書けるだろうか。
出典・参考情報
- 令和7年度「介護労働実態調査」結果の概要について(公益財団法人介護労働安定センター、資料提供 令和8年7月29日、確認日:2026年07月30日)
- 介護労働実態調査(調査結果一覧)(公益財団法人介護労働安定センター、確認日:2026年07月30日)
- 令和7年度 事業所における介護労働実態調査 結果報告書(公益財団法人介護労働安定センター、確認日:2026年07月30日)
- 介護人材確保の現状について(第1回社会保障審議会福祉部会 福祉人材確保専門委員会 資料5)(厚生労働省社会・援護局、令和7年5月9日、確認日:2026年07月30日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度・統計の内容は今後の公表・改定により変わる可能性があるため、実務判断の際は必ず最新の公表資料をご確認ください。
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