就労継続支援B型 スコア方式と生産活動シート【2026】

昨日の夕方、名古屋市内の就労継続支援B型事業所。作業室の奥のデスクで、C理事長が厚生労働省の資料を1枚ずつめくっていました。9月28日の検討チームに出た、就労系サービスの論点資料です。

「阪本さん、これってうちの工賃の計算が変わるってことですよね」

理事長が指で押さえていたのは、B型の基本報酬を平均工賃月額だけで決めるのをやめ、いくつもの項目で評価する「スコア方式」の図でした。私は隣の椅子に座って同じページを読みました。読み進めるほど、変わるのは報酬の計算だけではないと分かってきます。帳簿の分け方、年度初めの届出、ホームページに載せる書類。令和9年度の改定案は、事業所の事務の奥まで入ってきています。

令和8年9月28日、厚生労働省は第64回 障害福祉報酬改定検討チームを開き、「令和9年度障害福祉報酬改定に向けて(就労系サービス)」を議題にしました。資料の本体は125ページ。B型の経営者が年末までに押さえておきたい論点は、スコア方式・平均工賃月額の計算式・生産活動の収支・生産活動シート・在宅支援の5つに絞れます。

先に規模を確認しておきます。資料によると、B型は令和8年4月の国保連データで20,401事業所、利用者は432,419人。令和7年度の費用額は約7,151億円にのぼります(第64回資料「就労系サービスに係る報酬・基準について」)。これだけの額になれば、国は「何に対して払っているのか」を細かく問い直してくる。今回の案は、その問い直しの結果だと私は読んでいます。


平均工賃月額だけで報酬が決まる仕組みが終わる

いまのB型の基本報酬には、「平均工賃月額」に応じた報酬体系と、「利用者の就労や生産活動等への参加等」をもって一律に評価する報酬体系の2つがあり、事業所がどちらかを選びます。前者は、工賃が高いほど単価が上がる仕組みです。

この前者について、資料は平均工賃月額のみによる評価では「障害の程度が重い利用者に対する支援が適切に評価されていない」という指摘がある、と書きました。根拠はもう一つあります。令和6年度予算執行調査で、利用時間が4時間未満の事業所の事業活動収支差率が高い状況が示されていたことです。短い時間しか支援していない事業所ほど利益が残っている。財政の側からは、そう見えているわけです。

そこで出てきたのが、平均工賃月額のみではなく多様な観点で評価する「スコア方式」でした。資料に示された評価指標のイメージは、主たる項目3つと従たる項目5つの計8項目です。

  • 主たる項目 ①平均工賃月額 ②支援時間(1日の平均サービス提供時間で評価) ③障害の程度
  • 従たる項目 ④地域連携活動 ⑤個別支援 ⑥支援体制(福祉分野の従事年数や有資格者の配置) ⑦事業の透明性 ⑧指定基準の遵守

見落としやすいのは⑧でした。指定基準のなかで特に遵守すべき項目が未達成の場合に「厳しく評価」するとされています。加点ではなく、減点の側に効く項目が入るということ。⑦も、第三者評価や、児童系サービスで導入されている自己評価を行った場合に評価する案になっています。

A型では、すでにスコア表の公表が求められています。A型の経営者がスコア表の点数と公表の手間に追われてきた姿を、うちは近くで見てきました。B型にも同じ種類の事務が乗ってくる。そう考えて準備を始めたほうが早い、というのが私の見立てです。

点数の配分や単位数は、B型については今回の資料にまだ出ていません。ただ、配点を待たずに動ける論点があります。計算式の話です。


269日の上限で、平均工賃月額が下がる事業所がある

平均工賃月額は、令和6年度の改定から次の式で計算しています。

年間工賃支払総額 ÷(年間延べ利用者数 ÷ 年間開所日数)÷ 12月

資料の指摘はこうです。事業所の年間開所日数が利用者の年間利用日数の上限である269日を超えると、利用者が皆勤しても計算上の平均工賃月額が実際に支払われた工賃額より過大になってしまう。そのうえで、年間開所日数は269日を上限にしてはどうか、と提案しています。

式を見ると、開所日数は分母の中の分母に入っています。ここが269日で頭打ちになれば、開所日数が269日を超えている事業所は、同じ工賃を払っていても計算上の平均工賃月額が下がる。祝日や土曜を開所日にして年間の開所日数を増やしてきた事業所ほど、差が大きく出ます。

C理事長の事業所も、祝日の一部を開所日にしていました。「工賃の評価が一段落ちるかもしれない」と言ったときの理事長の顔は、正直、見ていてつらかった。令和8年6月には区分の基準額が3千円ずつ引き上げられたばかりで、そこへ算定式の見直しが重なるからです。6月の見直しの中身は就労継続支援B型 平均工賃3万円の壁が動いた【2026】に書きました。

そして理事長が本当に気にしていたのは、この式の分子の側でした。


生産活動の赤字を報酬で埋める運営が、基準違反になる案

ここからは会計の話になります。就労継続支援では、事業所の運営に係る「福祉事業会計」と、利用者が従事する生産活動に係る「生産活動会計」を分けることになっています。

A型には、生産活動に係る事業の収入から必要な経費を引いた額を利用者に支払う賃金の総額以上にしなければならない、という規定があります。指定基準の第192条第2項です(e-Gov法令検索)。一方でB型の第201条が定めているのは、生産活動の収入から必要な経費を引いた額を工賃として支払うこと、工賃の月平均額を3,000円以上にすることまで。資料も「就労継続支援B型には当該規定が設けられていない」と書いています。

今回の案は、B型にも「生産活動の収支が利用者に支払う工賃の総額以上となること」を指定基準として位置付けるものでした。生産活動が赤字なのに工賃を払えているなら、その差額は支援のための報酬(自立支援給付)から出ている。そういう理屈です。

括弧書きで添えられた一文もあります。運営法人の資金や寄付等から利用者に金銭を払った場合、その額は基本報酬の算定に用いる平均工賃月額から除く、という取扱いの案です。

C理事長が私に最初に見せたかったのは、実はこの一文でした。

「仕事が少ない月は、法人から少し足して工賃をそろえているんです」。利用者さんの手取りが月によって大きく揺れないように、という配慮からです。善意で続けてきた上乗せが、案のとおり決まれば平均工賃月額には数えられなくなる。では、生産活動そのものの売上をどう立てるか。理事長と私は、その日の残り時間をほとんどこの話に使いました。

資料は、関連法人からの受注を一律に悪いとしているわけではありません。運営法人が運営する別の福祉施設で清掃をするような仕事は、利用者が社会の中で役割を持って働くことにつながる場合があるとして、「一律に不適切とすべきではない」と書いています。問題にしているのは別の形です。事業所と発注元が結託して給付費を委託費などの名目で発注元に流し、それを原資に作業を発注させる。取引先の顔ぶれそのものではありません。


生産活動シートを出す場面は3つある

令和7年11月28日、厚労省は「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン」を自治体向けに出しました(障障発1128第1号)。ところが、指定権者が事業所に強制力をもって働きかけるのは難しいという意見があったと、今回の資料は書いています。そこで、ガイドラインの中身の一部を施行規則や指定基準に位置づける案が出ました。

その中心にあるのが「生産活動シート」です。生産活動の適切性を確かめるための書類で、案では次の場面で指定権者に提出します。

  • 運営指導のとき
  • 指定更新のとき
  • 毎年度初めの届出のとき

作ったシートは、A型のスコア表・経営改善計画書・財務諸表などと一緒に、事業所のホームページの分かりやすい場所に載せる案です。行政に出すだけの書類ではなく、外から誰でも読める書類になります。

新規指定の場面では、収支予算書の段階で、生産活動の計画について次の点が分かる資料(財務諸表や業務委託契約書など)を出すことも挙げられています。

  • 利用者の賃金・工賃を払える生産活動収入が見込まれるか
  • 生産活動の具体的な内容と収入見込みに整合性があるか
  • 継続的な事業見込みがあるか
  • 利用者が作業に従事できる時間
  • 取引先の情報(単一の取引先だけでなく、複数の取引先を確保しているか等)

既存の事業所にとって大事なのは運営指導のほうでしょう。資料に載ったガイドラインの概要図では、通常の運営指導の着眼点として、生産活動シートを活用して生産活動収支と取引先情報を確認する流れが示されています。取引先ごとの売上と経費を、生産活動会計の中で説明できる状態にしておく。それが今からできる備えです。運営指導の頻度や処分基準の見直しについては障害福祉の運営指導 3年に1回へ 処分基準も明示【2026】で整理しています。

シートの話が終わったところで、C理事長がもう一つ聞いてきました。在宅で通っている2人の利用者さんのことです。


在宅支援は「通所より効果が上」と説明できるか

コロナ禍以降、在宅支援の対象者は「在宅でのサービス利用を希望する者であって、在宅でのサービス利用による支援効果が認められると市町村が判断した場合」まで緩められています。この判断に特段の基準はありません。資料は、在宅支援と称して就労に必要な知識や能力の向上に寄与しない自習を行わせているような、不適切な事業運営があると指摘しました。令和8年度予算執行調査でも、「在宅利用者がいる事業所の収支差率が高い」ことが指摘されたそうです。

案では、在宅支援の対象者を「通所を上回る支援効果が認められる者」に絞り、次の3つに分けます。

  • 通所が困難な者(重度者、離島・豪雪地帯などの地理的要因)
  • 通所支援を行うために、まずは在宅支援を必要とする者(ひきこもり状態である者等)。在宅の支給決定の上限は3か月とし、市町村が3か月ごとに更新の要否を判断する
  • 在宅での一般就労に向けて、在宅での支援を必要とする者。原則として就労移行支援に限る

3つ目が原則として就労移行支援に限られるという点は、B型の経営者には重い。在宅での一般就労をめざす利用者をB型で受けているなら、その支援をどこで続けるかを考え直すことになります。

事業所側の要件も付きます。在宅支援は基本報酬を一定程度引き下げ、定員に対する在宅支援利用者の割合にも上限を設ける。積極的な在宅支援を行っている場合は、従前どおりの単価で割合の上限も設けない。在宅支援を提供したい事業所は、あらかじめ指定権者に「在宅支援の内容に関するチェックリスト」を提出する。訓練状況や支援状況を動画ファイルや静止画像などで保存しておくことは、現行の努力義務から必須条件へ引き上げる案になっています。

Joint介護の報道によると、厚労省は来年度改定の大枠の方向性を固める年末に向けて、具体的な要件や報酬を詰めていく方針です。10月に入った今、残りは3か月もありません。


単位数が出る前に、帳簿は今月から直せる

配点も単位数も、まだ決まっていません。それでも、決まってから動いたのでは間に合わない部分があります。C理事長と話して、10月中にやることを3つに絞りました。

  1. 前年度の生産活動会計を、工賃総額と横に並べる。生産活動の収支が工賃総額に届いているか。届いていなければ差額はいくらで、どこから出ているか。法人資金や寄付からの上乗せがあるなら、月ごとの金額を書き出しておく。
  2. 年間開所日数を数える。269日を超えていたら、開所日数を269日に置き換えて平均工賃月額を計算し直してみる。あくまで試算値で、実際の取扱いは今後の告示や通知で確定します。
  3. 在宅の利用者を3つの類型に当てはめる。どれにも当てはまらない利用者がいれば、通所へ移る計画を本人や相談支援専門員と話し始める。

3つとも、厚労省の資料を読んでいるだけでは進みません。手を動かす相手は、通帳と売上台帳と出勤簿です。うちが事務長代行で入る事業所でも、最初はほとんど数字を集めるだけで時間が過ぎていきます。

帰り際、C理事長は資料の束をクリップで留めながら「法人から足している分、来月から別の科目で記帳しようか」と言いました。それで十分だと思います。年末に方向性が固まったとき、自分の事業所の数字を先に持っている経営者とそうでない経営者とでは、打てる手の数が違ってくるので。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の詳細や最新の取扱いは、必ず所管の自治体および一次情報でご確認ください。


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