就労継続支援B型 平均工賃3万円の壁が動いた【2026】
「工賃を上げれば報酬区分が上がる」。この業界の常識は、令和8年6月から半分しか成り立たなくなりました。基本報酬の区分を分ける基準額が、一律で3千円引き上げられたからです。
工賃を3千円伸ばして、やっと今の区分に踏みとどまる。それが6月以降の景色です。すでに施行されています。
先週、名古屋市内の就労継続支援B型を運営するE管理者と事務室で数字を並べていて、この話になりました。手元の工賃実績は前年から2千円ほど伸びている。悪くない数字です。ただ、それだけでは足りない。
「工賃が上がったのに区分が下がる」が起きる仕組み
そもそも、なぜ基準額を上げる話が出てきたのか。原因は令和6年度報酬改定で平均工賃月額の算定式が変わったことにあります。
旧い算定式は、こども家庭庁の改定資料によれば「工賃総額(イ)÷工賃支払対象者の総数(ア)により1人当たり平均工賃月額を算出」というものでした。分母は工賃を受け取った人の数です。
これが令和6年度から、こう変わりました。
年間工賃支払総額 ÷(年間延べ利用者数÷年間開所日数)÷ 12月
分母が「一日当たりの平均利用者数」に置き換わったわけです。週2日しか通えない方を多く受け入れている事業所ほど、分母が小さくなる。障害特性で利用日数が伸びない方を支えている現場を評価するための見直しでした。
意図は正しい。ただ、結果として全国の平均工賃月額が約6千円押し上がりました。同資料はこう書いています。
平均工賃月額の算定方式の見直しにより、平均工賃月額が約6千円上昇し、想定以上に高い報酬区分の事業所の割合が増加したことに対応し、基本報酬区分の基準の見直しを行う。
つまり、事業所の努力ではなく計算式の都合で区分が上がった分を、制度側が回収しにきた。それが今回の改正です。告示改正で、施行は令和8年6月。この夏、もう動いています。
3万円の壁は、すでに3万3千円の壁になった
引き上げ幅は一律3千円です。資料には「基準額の引き上げ幅は、平均工賃月額の上昇幅(約6千円)の1/2である3千円に留める」とあります。上がった分の半分を返す、という設計ですね。
具体的にどう動くのか。就労継続支援B型サービス費(Ⅰ)、人員配置6対1で定員20人以下の場合を並べます。
- 区分三(758単位)は、これまで平均工賃月額3万円以上3万5千円未満でした。6月の施行後は3万3千円以上3万5千円未満です
- 区分四(738単位)は2万5千円以上3万円未満から、2万8千円以上3万3千円未満へ
- 区分五(726単位)は2万円以上2万5千円未満から、2万3千円以上2万8千円未満へ
- 最上位の区分一(837単位)は4万5千円以上から4万8千円以上へ
どの境界もきっちり3千円ずつ動いています。例外がひとつだけあって、区分七と区分八を分ける1万円のラインは据え置きです。令和6年度改定で単価を下げた区分なので、そこはさらに厳しくしない、という配慮でした。
「3万円を超えれば区分三」という、現場に染みついた目安。これはもう効きません。工賃実績が3万1千円で着地した事業所は、旧基準なら区分三、いまは区分四です。
いきなり単価が落ちるわけではない
ここで安心してほしいのは、制度側が着地の柔らかさを用意している点です。配慮措置が3つ入っています。
- 令和6年度改定の前後で区分が上がっていない事業所は、そもそもこの見直しの適用対象外(判定手順は就労継続支援B型 報酬区分見直し 対象外の確認3点にまとめています)
- 見直しで区分が下がる事業所については、基本報酬の減少額が3%程度に収まるよう中間的な区分を新設
- 令和6年度改定で単価を引き下げた区分七と八の間の基準は引き上げず据え置き
2つめの「中間的な区分」が実務では効きます。定員20人以下のケースだと、4万5千円以上4万8千円未満の区分A(812単位)、3万5千円以上3万8千円未満の区分B(781単位)、2万円以上2万3千円未満の区分E(705単位)、1万5千円以上1万8千円未満の区分F(682単位)が新しく置かれました。段差を細かく刻んで、落差を小さくしてある。
それでも、下がるものは下がります。区分三から区分四に落ちれば単位は758から738。1人1日あたり20単位です。定員20人の事業所が月22日稼働すれば、月8,800単位。地域区分を掛ける前の粗い試算値ですが、年間で見れば無視できる額ではありません。
そしてもう一点。障害基礎年金1級の受給者が半数以上いる場合に平均工賃月額へ2千円を加えるという扱いは、新しい算定式の導入にあわせて廃止されています。旧算定式の記憶で計算していると、ここでも数字がずれます。
全国平均24,141円を目標に置くと、たぶん外す
厚生労働省が公表した令和6年度工賃(賃金)の実績によると、就労継続支援B型事業所の平均工賃月額は24,141円、対前年比106.6%。集計対象は18,245施設です。参考として掲げられた令和5年度は22,649円。ちなみにA型は91,451円(105.4%)、4,220箇所でした。A型はA型で経営改善計画の未提出による減算という別の地雷があります。
この24,141円という数字を、そのまま自分の事業所の目標に据える。よく見る光景ですが、これはおすすめしません。理由は2つあります。
ひとつは、この平均値がすでに新算定式ベースだということ。同じ資料には、令和5年度の実績を23,053円から22,649円へ、対前年度比を104.7%から106.6%へ修正したと注記が入っています。令和8年3月の追記です。数字そのものが動いている最中の指標を、単年の目標値に固定するのは危うい。
もうひとつ。区分は全国平均で決まるのではなく、告示の基準額で決まります。あなたが見るべきなのは24,141円ではなく、自分の事業所が今どの区分にいて、改定後の基準額まであと何円かという1つの数字だけです。
やることは、多くありません。
- 直近の年間工賃支払総額、年間延べ利用者数、年間開所日数を新算定式に入れて、今年度見込みの平均工賃月額を出す
- その額を改定後の基準額に当てて、区分が維持できるか、下がるか、中間区分に着地するかを判定する
- 下がると出たら、あと何円積めば戻るかを逆算する。3千円上げるのか、1千円で中間区分に届くのかで打ち手はまるで変わります
うちが支援に入るときも、最初にやるのはこの3つです。作業単価の引き上げや新規受注の話は、そのあと。順番を逆にすると、必要のない設備投資に走ってしまうことがあります。
報酬区分は前年度の平均工賃月額で決まります。つまり、いま積み上げている今年度の実績が、次の区分判定にそのまま乗る。年度末まで残り7か月ほどです。3千円を積むには短くない期間ですが、算定式の分母が変わったことに気づかないまま年明けを迎えると、打てる手はほとんど残りません。
分母の数え方が報酬を左右するのは、B型に限った話ではありません。生活介護の所要時間も、実時間ではなく計画時間で数えます。
自分の事業所の分母、正しく数えていますか。
出典・参考情報
- 令和6年度工賃(賃金)の実績について(厚生労働省、確認日:2026年08月26日)
- 令和6年度工賃(賃金)の実績について(本文PDF)(厚生労働省、確認日:2026年08月26日)
- 令和8年度障害福祉サービス等報酬改定について(こども家庭庁、確認日:2026年08月26日)
- 令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について(PDF)(こども家庭庁、確認日:2026年08月26日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の詳細は必ず最新の告示・通知をご確認ください。
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