介護の残業代未払い 監督署が見る3点【2026】

厚生労働省から令和7年の監督指導結果が公表されました。


保健衛生業が、金額でも人数でも1位だった

厚生労働省は令和8年8月21日、賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和7年)を公表しました。全国の労働基準監督署が取り扱った賃金不払事案は22,605件、対象労働者数は173,016人、金額は128億5,782万円。件数は前年より251件増えています。

問題は業種別の内訳です。別紙を開くと、金額の1位は保健衛生業で27.1億円(21.1%)。対象労働者数の1位も保健衛生業で47,033人(27.2%)。ところが件数は3,620件(16.0%)で、商業4,701件・製造業4,370件に次ぐ3位です。件数では先頭ではないのに、金額と人数では両方とも先頭に立っている。1件あたりが大きい、ということです。

「保健衛生業」は医療機関だけを指す区分ではありません。厚労省の統計では、保健衛生業の内訳として「うち医療保健業」と「うち社会福祉施設」が並記されます(令和7年における労働災害発生状況)。介護施設は後者に入ります。今回の別紙は保健衛生業までしか分解されていないので、介護施設だけの件数や金額は公表されていません。ただ、この区分が先頭にいるという事実は動きません。

では、立入調査で何を見られるのか。別紙に載った是正事例のうち、介護の入所施設でそのまま再現しやすいものを3つ挙げます。


1つめ。勤怠の「15分丸め」が残っていないか

是正事例1は、自動車・同付属品製造業の事業場です。ICカードで労働時間を管理していながら、始業直前・終業直後の15分間を、業務に従事していたかどうかにかかわらず一律に切り捨てていました。別紙には「当該処理は慣例となっており」と書かれています。悪意ではなく、慣例です。

介護は製造業ではありません。それでも、この構図は入所施設で起きます。夜勤明けの申し送り。記録の入力。家族からの折り返し。打刻の前後に業務が挟まる場面が、介護には多すぎるほどあります。そこに15分単位や30分単位の丸めをかけていれば、切り捨てられた分はそのまま未払いです。

労働時間の把握については、平成29年1月20日に策定された労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインがあります。原則は、使用者の現認か、タイムカード・ICカード等の客観的な記録を基礎とすること。打刻を丸めた瞬間に、客観的な記録は加工された記録に変わります。

うちが施設の勤怠を預かるとき、最初に開くのは就業規則ではありません。勤怠システムの丸め設定です。導入時の初期値が「15分単位・切り捨て」のまま何年も動いている法人は、珍しくありません。


2つめ。固定残業代の超過分を、誰も数えていない

是正事例2は建設資材等の卸売業です。固定残業代として月20時間分の割増賃金を支払い、出退勤や時間外労働の状況も把握していました。それでも是正勧告を受けています。20時間を超えた時間外労働について、固定残業代を支払っていることを理由に確認・管理を行っていなかったからです。あわせて深夜労働の割増賃金も支払われていませんでした。労働基準法第37条違反にあたります。

固定残業代について、別紙は留意点を2つ挙げています。

  • 就業規則等において、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別できるようにすること
  • 割増賃金に当たる部分の金額が、実際の時間外労働等の時間に応じた割増賃金の額を下回る場合には、その差額を支払うこと

介護施設で固定残業代を入れている法人は、募集要項に書いた「みなし残業20時間込み」をそのまま何年も運用していることが多い。差額の再計算が毎月動いていなければ、支払っているつもりで未払いが積み上がります。

手当の名前を見てください。「業務手当」「職務手当」とだけ書かれていて、それが割増賃金に当たる部分なのかどうか、給与規程を読んでも判別できない。そういう法人が、実際にあります。


3つめ。深夜割増は、夜勤のある施設ほど抜ける

事例2でもう1つ見落とせないのが、深夜労働の割増賃金です。時間外の話に気を取られている間に、深夜帯の割増が丸ごと抜けていました。

特養も老健も認知症グループホームも、夜勤は毎日回ります。夜勤手当を1回いくらで固定している施設は多い。その手当が深夜割増を含んでいるのか、含んでいるとして何時間分なのか。ここを即答できる法人と、できない法人があります。

令和7年の送検事例は2件でした。1件は労働者7名に定期賃金の全額(合計約130万円)を所定支払日に支払わなかった疑い。もう1件は労働者2名の時間外労働と深夜労働に対する割増賃金(約12万円)を支払わなかった疑いです。金額の大小ではありません。どちらも是正勧告を受けた後、是正が図られなかったことで捜査に着手されています。

指摘そのものより、指摘の後に動けるかどうか。送検された2件を分けたのは、そこです。


では、勤怠と給与計算は自前で持つべきか

3点を挙げましたが、どれも「気をつけましょう」で片づく話ではありません。丸め設定の見直し、固定残業代の差額計算、夜勤手当の内訳整理。いずれも毎月の実務として回り続けて、はじめて意味を持ちます。

介護の本部は、たいてい人が足りていません。事務長ひとりが採用も請求も労務も抱えている法人で、給与計算の内訳まで毎月点検するのは、正直なところ無理があります。無理があるまま数年動いた結果が、今回の数字の一部だと私は見ています。

分け方は単純です。ルールを決める仕事は自前で、毎月同じ手順で回す仕事は外に出す。就業規則と給与規程をどう設計するかは経営の判断で、これは外注できません。一方、丸め設定の点検、超過分の差額計算、夜勤の深夜帯集計は、手順さえ決めてしまえば誰が回しても同じ結果になります。

令和7年の賃金不払事案のうち、監督署の指導によって令和7年中に解決したのは、金額ベースで109億9,703万円、全体の85.5%でした。裏を返せば、指導を受けてもなお支払いに至っていない部分が残っている。そちら側に入る前に、勤怠システムの設定画面を1つ開いてみてください。15分。その丸めが生きていたら、今日が見直しの日です。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度・通知は改正される場合がありますので、実務判断の際は必ず最新の一次情報をご確認ください。


あわせて読みたい


株式会社Reliefのサービスで、事業運営を強力サポート!

株式会社Reliefは、医療機関や介護・福祉・保育施設の運営をトータルサポートする専門企業です。
業界特化型のオンラインアシスタント「セレナ」
月一回からはじめる事務長アウトソーシング「困ったときのじむちょー君」
バックオフィスの業務改善・効率化、MoneyForwardクラウドICT・クラウドDX導入支援
経営課題の解決や業務効率化を実現し、貴社の発展を全力でサポートいたします。

現場の事務負担を減らす自社開発アプリも無料で公開しています。
PC・ソフトの台帳づくりを自動化するIT資産管理ツール
社用車・送迎車の記録を一元管理する車両管理アプリ
最新情報のお知らせは公式LINEでお届けしています。お気軽にご登録ください。