職場の健康診断実施強化月間 診療所は年1回では不足【2026】

50万円。労働安全衛生法第66条第1項から第3項までに違反した事業者に科される、罰金の上限額だ。

健康診断をやっていない、という状態がここに入る(労働安全衛生法 第120条第1号)。

厚生労働省は2026年8月21日、9月を「職場の健康診断実施強化月間」とする発表を出した。診療所は健診を提供する側の施設だ。ただしこの月間で問われるのは、自院の職員に対して事業者として何をやったか。立場がまるごと反転する。


重点事項は5つ、そのうち診療所が落ちるのは1番目

厚労省の発表はこう始まる。

厚生労働省では、全国労働衛生週間(10月1日~7日)の準備月間である毎年9月を「職場の健康診断実施強化月間」と位置付け、労働安全衛生法に基づく一般健康診断の実施の徹底や事業者の健康保持増進措置等の適切な実施等を促すため、集中的・重点的に啓発を行っています。

厚生労働省「職場の健康診断実施強化月間」(9月)について

重点事項として並ぶのは5つ。一般健康診断の実施の徹底、ストレスチェック制度の適切な実施、健康保持増進措置、職場環境に起因する疾病の防止、治療と就業の両立支援。同じ8月21日には「労働者の健康保持増進の在り方に関する検討会」の報告書も公表されている(厚生労働省)。

この5つを並べたとき、無床診療所でつまずくのはほぼ1番目だと私は見ている。しかもつまずき方が「やっていない」ではない。回数が足りていない、という形で出る。


年1回で足りる職員と、半年に1回いる職員がいる

定期健康診断の原則は労働安全衛生規則 第44条にある。

事業者は、常時使用する労働者(第四十五条第一項に規定する労働者を除く。)に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。

読んでほしいのは括弧の中だ。「第四十五条第一項に規定する労働者を除く」と書いてある。44条の年1回は、45条に当たらない職員の話でしかない。

その45条が、特定業務従事者の健康診断を定めている。

事業者は、第十三条第一項第三号に掲げる業務に常時従事する労働者に対し、当該業務への配置替えの際及び六月以内ごとに一回、定期に、第四十四条第一項各号に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければならない。

六月以内ごとに一回。胸部エックス線検査と喀痰検査にあたる項目だけは一年以内ごとに一回で足りるという緩和が同じ条文に置かれているが、それ以外は半年に1回だ。

では第13条第1項第3号の業務とは何か。イからヲまで並ぶ中で、無床診療所に関係してくるのは主に次の2つになる。

  • ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
  • ヌ 深夜業を含む業務

レントゲン装置を置いている診療所。夜間の当番や当直がある診療所。どちらもこの2つと無関係ではいられない。該当するかどうかは「常時従事する」に当たるかの整理が要るので、線引きが読み切れないときは所轄の労働基準監督署へ照会するのが早い。


X線を扱う職員には、もう1本の健診がある

安衛則45条とは別に、電離放射線障害防止規則が独自の健康診断を課している。

事業者は、放射線業務に常時従事する労働者で管理区域に立ち入るものに対し、雇入れ又は当該業務に配置替えの際及びその後六月以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。

電離放射線障害防止規則 第56条

項目は次の5つ。一般の定期健診とは中身がまるで違う。

  • 被ばく歴の有無の調査及びその評価
  • 白血球数及び白血球百分率の検査
  • 赤血球数の検査及び血色素量又はヘマトクリット値の検査
  • 白内障に関する眼の検査
  • 皮膚の検査

実務的な緩和も同じ条文にある。第4項では、前年1年間に受けた実効線量が5ミリシーベルトを超えず、当年も超えるおそれのない者について、医師が必要と認めないときは2号から5号までの項目を行うことを要しないとされている。線量計の記録が残っていれば使える規定だ。裏を返せば、記録がなければ使えない。

撮影のたびに介助へ入る看護師は、管理区域に立ち入っているのか。ここを詰めないまま「うちは技師だけ」で整理している診療所は、一度洗い直す価値がある。


受けさせても、記録と報告で落ちる

健診を実施したあとにも、条文は義務を2つ置いている。

1つは記録だ。安衛則51条は、健康診断個人票(様式第五号)を作成して五年間保存しなければならないと定めている。人数の要件はない。職員が3人の診療所にもかかる。

もう1つが報告。安衛則52条は、常時五十人以上の労働者を使用する事業者について、定期健診を行ったら遅滞なく電子情報処理組織を使用して所轄労働基準監督署長へ報告するよう求めている。無床診療所の多くはこの人数に届かない。ただし医療法人で複数の事業場を持ち、そのうち1つが50人を超えているという形は珍しくない。

冒頭の50万円は、健診の実施義務(安衛法66条1項から3項)と、結果の記録(同法66条の3)の両方にかかっている。実施していない場合と、実施したのに記録が残っていない場合が、同じ条文の同じ号に並んでいる。


9月にやることは、名簿に2列足すところから

大がかりな整備はいらない。私が診療所に最初に勧めるのは、職員名簿に列を2本足すことだ。

  • 最後に定期健康診断を受けた年月日
  • 特定業務(安衛則13条1項3号)への該当の有無と、該当するなら号のどれか

この2列が埋まった瞬間に、半年に1回が必要な職員は自動的に浮き上がる。そのうえで管理区域に立ち入る職員を線量計の管理台帳と突き合わせ、最後に個人票が5年分そろっているかを年度ごとに数える。

9月の1か月で終わる分量だと思う。10月1日からは全国労働衛生週間が始まる。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度・条文は改正される場合がありますので、実際の運用にあたっては必ず最新の一次情報をご確認ください。


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