処遇改善加算 令和8年度特例要件 誓約後にやる3点【2026】

「特例要件は、加入だけ済ませてあるので大丈夫です」

7月の定例ミーティング、Zoomの画面越しに、愛知県内で通所介護を2事業所まわしているA理事長がそう言った。資料をめくる音が聞こえるくらい、迷いのない声だった。

私はそのとき、共有していた画面を閉じて、別のファイルを開いた。厚生労働省のQ&A、問8-2。ここに書いてあることを読み上げるのが、その日のいちばん重い仕事になった。


「加入しました」で止まっている法人が、いちばん危ない

令和8年度の介護報酬改定で、処遇改善加算に新しい区分が2つ増えました。加算Ⅰロと加算Ⅱロです。改定率は+2.03%(処遇改善分+1.95%、基準費用額(食費)の引上げ分+0.09%)で、その処遇改善分の受け皿がこのロ区分にあたります。

ロを取るために必要なのが「令和8年度特例要件」です。中身は3つのうちいずれか。訪問・通所系ならケアプランデータ連携システムに加入して利用すること、施設系なら生産性向上推進体制加算ⅠまたはⅡを取ること、あるいは社会福祉連携推進法人に所属していること。

ここに、事務負担への配慮として例外が置かれました。「加算の申請時点では、利用又は取得の誓約で算定可能とする」という一文です。つまり、まだ使っていなくても「これから使います」と約束すれば、その時点からロ区分の加算率で算定できる。

通所介護でいうと、加算Ⅰイが11.1%、Ⅰロが12.0%。厚労省の加算率表に載っている数字です。0.9ポイントの差ですが、これは総単位数に効きます。仮に月の介護報酬が500万円規模の事業所なら、単純計算で月4.5万円、年54万円(報酬額は仮置きの試算値です)。誓約だけで取りにいく理由としては十分すぎる差です。

問題は、誓約には後半戦があるということです。そして今、多くの法人がその後半戦を誰の担当にもしていない。


やること1|連携システムは「使った証拠」を毎月とる

A理事長が言った「加入は済ませてある」が、なぜ危ないのか。厚労省のQ&Aにこうあります。

「令和8年度特例要件を満たすに当たっては、ケアプランデータ連携システムへの加入だけではなく、利用することが必要であり、実績報告書において、利用実績について記載することとする」

加入は入口です。要件は利用のほう。しかも、その利用実績を実績報告書に書けと明示されています。

では何を残せばいいのか。ここも同じQ&Aの中で、根拠資料の例として示されています。

「使用画面のスクリーンショット(データの送信又は受信の記録がわかるよう撮影されたものに限る。)」

ログイン画面ではありません。契約書でもありません。データを送った、あるいは受け取った記録が写っている画面。これを撮っておく必要があります。そして根拠資料の保存期間は2年間

ここで現場に起きることを想像してみてください。ケアマネ事業所とのデータ連携を実際に回しているのは、たいてい相談員か生活相談員です。その人は加算のことなど考えずに日々の業務としてシステムを使う。誰も撮らない。半年後、実績報告書の作成を外部に頼んだとき、こう聞かれます。「利用実績のスクリーンショットはどこですか」。

そこで初めて過去の分を撮ろうとしても、画面に残っている履歴の範囲でしか撮れません。うちが支援に入っている法人では、月末の締め作業のチェックリストに1行足してもらっています。「連携システムの送受信画面を撮ってフォルダに置く」。それだけです。所要時間は1分もかからない。

なお、同等のシステムとして認められるサービスも複数あります。厚労省のケアプランデータ連携システムの案内ページに最新の情報が置かれているので、自法人が使っているソフトが該当するかどうかは、ここで確認するのが確実です。施設系で生産性向上推進体制加算のほうを選ぶ場合は、介護分野の生産性向上ポータルに取組の例がまとまっています。


やること2|誓約には、令和9年3月末という別の締切が隠れている

特例要件を満たす事業所には、もう一つ誓約が使える場所があります。キャリアパス要件Ⅰです。

通知の原文はこうです。「処遇改善計画書において令和9年3月末までに上記一及び二の定めの整備を行うことを誓約した場合は、処遇改善加算の申請時点からキャリアパス要件Ⅰを満たしているものとして取り扱う」

就業規則や賃金規程の整備が間に合っていなくても、令和9年3月末までにやると約束すれば、申請時点で要件を満たしたものとして扱ってもらえる。ありがたい配慮です。

ただし、続きがあります。「当該誓約をした場合は、令和9年3月末までに当該定めの整備を行い、実績報告書においてその旨を報告することとする」

整備するだけでは終わりません。整備したことを実績報告書で報告する。この2段構えです。

私がこれまで見てきた中で、いちばん多い抜け落ち方はこれです。4月の申請のときは社労士さんと相談して誓約を選ぶ。そこで案件がいったん閉じる。夏が過ぎ、秋が過ぎ、年末年始の繁忙期が来て、3月末が来る。誰も規程に触っていない。

誓約は、期限のあるタスクを1年先に置く行為です。置いた瞬間に、誰がいつ着手するかを決めておかないと、置いたこと自体を忘れます。

もう一つ、日付の整理も添えておきます。「令和8年度特例要件については、基本的には、令和8年6月以降の処遇改善加算の算定に係る要件であり、令和8年4月及び5月に処遇改善加算を算定するための要件としては満たす必要はない」とされています。特例要件が効いてくるのは6月分から。4月・5月分は対象外です。ここを混同したまま「4月から要件を満たしていなかったのでは」と不安になっている理事長にも、この2か月で何人か会いました。


やること3|令和9年7月31日から逆算して、担当を1人決める

実績報告書の期日は、通知に明記されています。

「令和8年度の実績報告書の提出期日は、令和9年3月分の処遇改善加算の支払が令和9年5月であることから、通常の場合、令和9年7月31日となる」

この日から逆算すると、こうなります。

  • 令和8年6月〜令和9年3月:毎月、連携システムの送受信記録を撮って保存する
  • 令和9年3月末:キャリアパス要件Ⅰの誓約分、就業規則・賃金規程の整備を完了させる
  • 令和9年7月31日:実績報告書を提出。利用実績と、規程を整備した旨を書く
  • 提出後2年間根拠資料と併せて保存

提出先は自治体です。名古屋市であれば市の処遇改善加算のページに様式と提出方法が置かれていますが、指定権者が県か市かで窓口も期日の運用も変わります。ここは自法人の指定権者のページを必ず見てください。

そのうえで、決めるべきことは一つだけです。この3つのタスクを、誰の名前で持つか。

「事務方で」でも「相談員のほうで」でもなく、氏名で決める。私はこれを、支援先の議事録に必ず名前で書くようにしています。役職で書くと、異動や退職のときに宙に浮くからです。


外に出せる仕事と、本部に残る仕事の線

処遇改善加算まわりは、外注が最も効く領域の一つです。加算率の選定、計画書の作成、賃金改善額の配分設計、実績報告書の作成。このあたりは知識と様式の話なので、外の人間のほうが速いし正確です。うちもそこを引き受けています。

ただ、外に出しても本部から消えない仕事があります。今日の3つが、まさにそれです。

スクリーンショットは現場でしか撮れない。就業規則の整備は、内容を決める意思が法人側にないと進まない。担当者を氏名で決めるのは、経営の判断です。外部がどれだけ優秀でも、この3つは代われません。

逆に言えば、この3つさえ本部が握っていれば、残りはほぼ全部外に出せます。「処遇改善加算を丸ごと外注したのに、なぜか毎年バタバタする」という法人は、たいていこの線引きがされていない。全部渡したつもりで、渡せない部分だけが宙に浮いている状態です。

A理事長とのミーティングは、そのあと30分延びました。結論として決まったのは、月末チェックリストへの1行追加と、規程整備の着手を10月に置くこと、そして担当を事務長の名前で持つこと。それだけです。

令和9年7月31日は、まだ遠く見えます。ただ、誓約という言葉を使った以上、その日は必ず来ます。あなたの法人の計画書には、いま誰の名前が書かれているでしょうか。


あわせて読みたい


株式会社Reliefのサービスで、事業運営を強力サポート!

株式会社Reliefは、医療機関や介護・福祉・保育施設の運営をトータルサポートする専門企業です。
業界特化型のオンラインアシスタント「セレナ」
月一回からはじめる事務長アウトソーシング「困ったときのじむちょー君」
バックオフィスの業務改善・効率化、MoneyForwardクラウドICT・クラウドDX導入支援
経営課題の解決や業務効率化を実現し、貴社の発展を全力でサポートいたします。

現場の事務負担を減らす自社開発アプリも無料で公開しています。
PC・ソフトの台帳づくりを自動化するIT資産管理ツール
社用車・送迎車の記録を一元管理する車両管理アプリ
最新情報のお知らせは公式LINEでお届けしています。お気軽にご登録ください。