介護報酬 地域区分の見直し 単価が動く3条件【2026】

78。本来の級地よりも低い単価のまま回っている市町村の数です。

経過措置を使っている自治体は80。そのうち引き上げ側はわずか2で、残る78はすべて引き下げ側でした。同じ介護サービスを、同じ単位数で提供していても、受け取る金額が本来より薄い。それが78の市町村で起きている状態です。

そしてこの経過措置の期限が、令和8年度末。残り8か月を切りました。


78市町村で何が起きているのか

介護報酬は「単位数 × 1単位の単価」で決まります。この単価が地域ごとに違う。介護報酬は法律上、事業所が所在する地域等も考慮して設定することとされており(介護保険法第41条第4項等)、単価は10円〜11.40円の範囲で地域別・サービス別に置かれています

上乗せ割合は8段階。1級地20%、2級地16%、3級地15%、4級地12%、5級地10%、6級地6%、7級地3%、その他0%。訪問介護・訪問看護・居宅介護支援など人件費割合70%のサービスなら、3級地は11.05円、5級地は10.70円、その他地域は10円です。

月10,000単位を算定する訪問介護事業所で置いてみます。5級地なら107,000円、3級地なら110,500円。差は月3,500円(単位数は仮置きの試算値です)。1事業所・1か月なら誤差に見える。ところがこれが年12か月・全利用者分に効くので、事業所規模によっては年間数十万円から百万円単位の差になります。

ここで効いてくるのが経過措置です。平成27年度の見直しのときに、単価が急に下がる自治体の激変を緩和するため、市町村の意向を確認したうえで、見直し前後の支給割合の範囲内で選べる仕組みが置かれました。それが3年ごとに延長され続けて、いまは令和8年度末まで。令和6年度改定でも「令和8年度末までの延長を認める」と告示改正されています

この「選べる」の中身が、78という数字です。本来より高い級地を選んだ自治体が2、低い級地のまま据え置いた自治体が78。介護保険財政の負担を考えれば市町村の判断は理解できます。ただ、その判断で単価が薄くなっているのは事業所のほうです。


引き金を引いたのは、介護の外側だった

令和9年度改定で地域区分が議論の俎上に載ったのは、介護業界の要望が通ったからではありません。

級地は、公平性と客観性を担保する観点から、公務員の地域手当の区分に準拠することが原則になっています。その公務員側が、先に動きました。令和6年人事院勧告で、支給地域の単位を都道府県基本に広域化し、級地区分を7区分から5区分(20%、16%、12%、8%、4%)に再編する内容が示されています。引下げは4ポイント以内に抑え、1年1ポイントずつ段階的に。令和7年度から、もう動き始めています。

地方公務員も同じ方向です。総務副大臣通知「地方公務員の給与改定等に関する取扱いについて」(令和6年11月29日)で、見直し後の支給地域と割合が示されました。

つまり、介護報酬の級地が準拠すべき「土台」のほうが、7段階から5段階に組み替わった。土台が変わったのに上物だけ旧仕様のまま、というのが今の状態です。分科会の資料は現状と課題をこう整理しています。級地区分の段階数を7区分から5区分とする見直し内容が示され、令和7年度から段階的に実施されている。こうしたことを踏まえ、地域区分の設定について検討する必要がある、と。


愛知県内で、すでに数字がねじれている

抽象論だと入ってこないので、うちの地元で見ます。

現行(令和6〜8年度)の介護報酬の地域区分だと、愛知県で3級地15%なのは名古屋市・刈谷市・豊田市。豊明市・知立市・みよし市は5級地10%です。

ところが総務副大臣通知で示された地方公務員の新しい地域手当では、愛知県は県全体が4級地8%。そのうえで、県の級地と異なる地域として名古屋市・刈谷市・豊田市・豊明市・日進市が3級地12%に置かれました。

豊明市を見てください。介護報酬の世界では10%のまま、地方公務員の地域手当では名古屋市と同じ12%のグループ。同じ市の中で、2つの表がすでに食い違っています。

この「食い違い」は、経営者にとっては採用の話です。市境をまたいだ隣の事業所と募集要項を並べられたとき、原資の差はそのまま給与テーブルの差になる。政府もそこは把握していて、新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版(令和7年6月13日閣議決定)には、介護・障害福祉・保育における令和6年人事院勧告を踏まえた地域区分への対応について、隣接した市町村等との級地格差による人材確保への影響も踏まえ、早急に検討を行い、次期報酬改定までに必要な見直しを実施する、と書かれています。

「次期報酬改定までに」。つまり令和9年度改定が期限として名指しされている、ということです。


答えが出るのは令和9年1月。それまでにやる3つの確認

ただし、8月5日の分科会で示されたのは論点までです。「令和9年度介護報酬改定における対応についてどのように考えるか」という問いの提示であって、どの市町村が何級地になるかは決まっていません。予測記事に飛びつく前に、手元を固めるほうが先です。

スケジュール案では、令和8年10〜12月頃に具体的な方向性を議論し、12月中に基本的な考え方をとりまとめ、令和9年1月頃に諮問・答申。逆算すると、経営計画に織り込める材料が揃うのは年末です。それまでの数か月でやることは、3つに絞れます。

1つめ。自分の市町村の級地と、サービス別の単価を紙に落とす。訪問介護と通所介護では人件費割合が違うので、同じ市でも単価が違います。人件費割合70%の3級地は11.05円、45%の3級地は10.68円。複数サービスを持つ法人ほど、ここを一覧にしておく価値があります。

2つめ。いまの級地が「経過措置」や「特例」でできていないかを確認する。令和6年4月1日時点で、公務員の地域手当に純粋に準拠している自治体は1,544。それ以外に経過措置80、完全囲まれルール30、複数隣接ルール57、広域連合ルール20などがぶら下がっています。経過措置や特例で作られた級地は、原則に戻る局面でいちばん動きます。

3つめ。令和6年11月29日の総務副大臣通知で、自分の県と市がどう位置づけられたかを見る。準拠が原則である以上、ここが先行指標になります。県の区分と市の区分が違う場合は、必ず市のほうを確認してください。

ちなみに、令和6年度改定で実際に級地が変わった自治体は38(引き上げ35、引き下げ3)でした。1,741自治体のうちの38。3年に一度の改定で動くのは、この程度の規模です。ただし今回は準拠先そのものが7区分から5区分に組み替わっている。同じ感覚で構えると、たぶん外します。

もうひとつ。令和6年度改定の審議報告には、地域差を反映する費用の範囲についても、財政中立を原則として在り方を検討していくべきである、という一文があります。財政中立。誰かの単価が上がるなら、どこかの単価は下がる。そういう建て付けの議論だ、ということです。

年末に方向性が出たとき、自分の法人がどちら側に立っているのか。それを判断できる材料を、いま手元に持っているでしょうか。


出典

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