保育所 公定価格の人件費491万円 誤読3点【2026】

491万円。令和8年度の公定価格で、保育士1人あたりに積算されている人件費(年額・全国平均)です。

この数字を「うちが出せる上限」と読んだ瞬間、給与テーブルの設計がひとつ狂う。

通知の注記には、それをやるなと明記されています。


491万円は、どこから出てきた数字なのか

こども家庭庁が令和8年7月31日付で出した通知(こ成保第536号)に、私立保育所の公定価格の内訳が載っています。基本分単価の構造はこうです。「公定価格の基本分内訳 基本分単価=事務費(人件費、管理費)+事業費」(こども家庭庁「令和8年度における私立保育所の運営に要する費用について【改正後全文】」)。

この人件費の中身が、通知の2ページ目に表で示されています。まず本俸基準額。保育士は月額254,694円、主任保育士は286,416円、所長は294,200円、調理員等は228,800円です。主任保育士と保育士には、これとは別に特殊業務手当基準額が付きます。主任保育士9,300円、保育士7,800円。

その下に、職種ごとの「人件費(年額)」の表があります。全国平均で並べるとこうです。

職種本俸基準額(月額)人件費(年額・全国平均)
所長294,200円572万円
主任保育士286,416円559万円
保育士254,694円491万円
調理員等228,800円429万円

この「人件費(年額)」が何を含んでいるかも、注記に書いてあります。「賞与や地域手当等を含めて算出した予算積算上の人件費の年額である」。つまり月給×12ではなく、賞与込みの年収ベースの積算値です。全国平均は、地域手当の全国平均値を使った加重平均で出しています。

ここまでは表を眺めればわかる話。問題は、この通知がいつ確定したかのほうです。


7月22日に出た通知は、9日後に廃止されている

同じ通知の1ページ目、末尾にこの一文があります。「「令和8年度における私立保育所の運営に要する費用について」(令和8年7月22日こ成保第512号こども家庭庁成育局保育政策課長通知)は廃止する。」

7月22日に出た通知が、7月31日付の通知で廃止されました。9日です。そしてこども家庭庁のサイトに掲載資料として上がったのは、さらにその後。ページには「※令和8年8月3日に掲載資料を更新」と付いています(こども家庭庁「子ども・子育て支援新制度」)。同じ日に、公定価格FAQも第32版(令和8年7月24日時点版)へ差し替わりました。

7月下旬に印刷して理事会の資料に綴じた園は、廃止された通知を配ったことになります。うちのクライアントでも、名古屋市内の認可保育所で1件ありました。7月末に事務長が刷った資料を、8月の運営会議でそのまま使う予定になっていた。刷り直しは5分で済みました。ただ、私が通知番号を見ていなければ、半年間そのまま流れていた。そこは正直、冷や汗をかきました。

私立保育所の運営費は、認定こども園や小規模保育の施設型給付とは性格が違います。市町村が児童福祉法第24条第1項に基づいて保育の実施義務を負い(e-Gov法令検索「児童福祉法」)、その委託費として支払われるからです。通知の書き出しにも「市町村からの委託費として運営に要する費用が支給されることとされており、その性格上、一定の使途範囲が定められている」とあります。使途に枠がある以上、経営側は数字の出どころを正確に押さえておく必要があります。

差し替えた通知を手元に置いたところで、読み方を間違えれば同じこと。現場で見る誤読は、3つに集約されます。


経営者がやりがちな3つの誤読

誤読1:491万円に処遇改善等加算が入っていると思っている

入っていません。通知の注記4に、こう書かれています。「なお、「人件費(年額)」には、処遇改善等加算区分1、処遇改善等加算区分2及び処遇改善等加算区分3は含まない。」

491万円は、あくまで基本分単価に積まれた人件費です。実際の人件費原資は、これに処遇改善等加算が乗ります。区分1の加算率は職員1人当たりの平均経験年数で決まり、10年以上なら12%加算分(内訳は人件費10%+管理費2%)、1年未満でも2%加算分(人件費0%+管理費2%)が付く設計です。

ここを勘違いしたまま「491万円がうちの原資」と計算すると、賃金改善計画の分母が最初からずれます。

誤読2:491万円を上限とみなして、給与を下げにいく

通知が最も強く釘を刺しているのがここです。注記1に2文あります。

1文目。「本通知で示す人件費と実際に支払われる人件費との差額のみをもって単純に給与水準の適否を判断することはできないこと。」

2文目。「・本通知で示す1人当たりの人件費を理由に給与水準を低下させることは不適切であること。」

職員数も経験年数も賃金体系も園ごとに違う。配置基準を超えて職員を雇っている園なら、1人当たりの給与水準はその人数に応じて下がります。それは経営努力の結果であって、給与を下げる根拠にはならない。国が明文で「不適切」と書いている以上、Reliefとしては「491万円に合わせて調整しましょう」という提案はしません。

誤読3:全国平均だけを見て、地域区分を見ていない

491万円は全国平均です。地域区分別に見ると、保育士の人件費(年額)は20/100地域で548万円、その他地域で458万円。90万円の開きがあります。自園がどの区分かを確認せずに全国平均で試算すると、区分の低い地域では過大、高い地域では過小な数字になります。

なお、令和6年人事院勧告を踏まえた地域区分の見直しは、令和8年4月からは実施されていません。「令和9年度に向けて引き続き検討」と整理されています(こども家庭庁「令和8年度公定価格・基準等の見直し事項」)。今年度の区分は動かない前提で試算して差し支えありません。


今週、園長と1時間で終わる確認

やることは3つだけです。

  1. 手元の運営費通知の番号を見る。「こ成保第512号」なら差し替え対象。8月3日更新版のこ成保第536号を落とし直します
  2. 賃金改善計画の分母を分解する。基本分単価の人件費(保育士491万円ベース)と処遇改善等加算を別行にして、混ざっていないか確認します
  3. 自園の地域区分を表の上で指差す。全国平均の491万円ではなく、該当区分の数字を使って年間人件費を引き直します

令和8年度の処遇改善は、令和7年人事院勧告の+5.3%を反映して積まれています。原資は上がっている。それを職員の給与に届けるか、通知の数字を見て手を止めるか。分かれ目は、表の読み方ひとつです。

今週の運営会議、資料の1ページ目に載っている通知番号だけでも見てください。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度・単価は改定される場合がありますので、最新の情報は必ず各機関の公式サイトでご確認ください。


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