紹介会社 返戻金は半年で5% 院長が契約前に見る3点【2026】

「早く辞められても、紹介手数料は戻ってくる」。院長の間では常識のように語られます。でも契約書の数字を読むと、ほぼ当てになりません。

返戻金は日を追うごとに減り、半年が近づくころには5%前後しか戻らないのが一般的です。そもそも返戻金の制度そのものが、国の指針では「設けることが望ましい」とされているだけで、法的な拘束力はありません。

紹介会社と契約する前に、院長が契約書のどこに印をつけておくべきか。3か所に絞ってお伝えします。

材料は、日本医師会と四病院団体協議会が2026年3月に公表した有料職業紹介事業に関するワーキンググループ報告書です。病院団体がまとめた資料ですが、契約書の読み方は、看護師1人の欠員で慌てるクリニックにこそ効く内容でした。

先月、刈谷市の内科クリニックのG院長から連絡をもらいました。看護師の退職が決まり、紹介会社と契約するところだと言います。私も契約書を一緒に開きました。返戻金の欄まで来たとき、G院長は「辞めたら返ってくるんでしょう」と言いかけて、6か月の行で指を止めました。


返戻金は、半年たつとほとんど残らない

報告書によれば、多くの紹介事業者で返戻率はこう下がります。1か月以内で80~50%。2~3か月以内で30%程度。3~6か月以内では5~10%程度。ほとんど返金されない状況だ、と書かれています。例として載っている返戻率は次のとおりです。

  • 就職後1週間以内:100%
  • 1か月以内:50%
  • 2か月以内:30%
  • 3か月以内:10%
  • 6か月以内:5%

手数料100万円で計算すると、5か月目に辞められた場合に戻るのは5万円です。残りの95万円は戻りません。

では、半年以内に辞める人はどれくらいいるのか。厚生労働省の職種別の手数料と離職状況の集計では、紹介会社経由で令和4年度に就職した看護職のうち6か月以内に離職した割合が、紹介事業所ごとの平均で10.5%でした。全体の実数ではありませんが、目安は10人に1人です。同じ資料は、手数料率の高い紹介会社ほど離職が少ないとは言えず、手数料率の高低で離職率に大きな差は見られなかったとしています。

見落としやすいのが起算日です。返戻期間を就職日ではなく「契約締結日」から数える事業者もあると、報告書は注意を促しています。入職の1か月前に契約した場合、そのぶん返戻期間は実質1か月短くなる計算です。地味ですが、効きます。

報告書は、紹介会社を使ううえでの課題として「紹介された人材がすぐに離職してしまう」ことを取り上げています。返戻期間を過ぎた直後に辞めるケースが多いという声も載っていました。


本当に怖いのは、断った応募者をあとで採ったとき

返戻金より金額が大きくなりやすいのが、違約金の条項です。

紹介会社経由で応募してきて、不採用にした人がいたとします。報告書によると、その人を一定期間内に同じ医療機関や同一法人内の別事業所が直接応募やハローワーク経由で採用すると、紹介会社から高額な違約金を請求される可能性があります。他社のサービスやハローワーク経由、直接採用のいずれでも違約金を払う条項を設けている場合がある、とも書かれています。

見学だけで採用に至らなかったのに、後日「1日でもいれば手数料が発生する」と請求された例も報告されています。見学だけで、です。

分院を持つ医療法人では、契約が法人全体にかかるかどうかで影響がまるで変わります。本院で断った人が、半年後に分院の求人へハローワークから応募してきた。こういう場面で効いてくるのが、この条項です。

2025年4月からは、紹介事業者が利用料金や違約金をあらかじめ明示することが義務になりました。条件は書面に書いてあるはずです。そこを読むのは、判を押す院長の仕事です。


今年度から、ハローワークのほうが訪ねてくる

ここで、もう一つの選択肢を足しておきます。ハローワークです。

ハローワークインターネットサービスによると、2026年4月から全国のハローワークで「医療・福祉ささえる求人充足プロジェクト」が始まり、医療・介護・保育分野の支援が重点的に行われています。報告書では、全ハローワーク(544所)の最重点事項として通年で実施すると説明されています。

厚生労働省の事業者向けリーフレット「採用をハローワークがささえます」の流れは、まずハローワーク職員が事業所を訪問し、課題や採用ニーズを聞くところから始まります。求人条件や求人票の記載内容の見直しも提案してくれます。登録も相談も無料です。

リーフレットでは「急募求人」を、配置基準を満たすために迅速な対応が求められる求人と定義しています。急募求人は、就職面接会の早期開催や有資格者への迅速な情報提供の対象です。自院の欠員がこれに当たるかどうかは、窓口で確かめるのが早いと思います。

この取り組みには前段があります。報告書によると、令和7年度に試行した医療分野の病院訪問(6月~8月)は1,329回。開拓した求人は14,757件で、10月末時点の充足数は1,418人でした。2023年度の医療分野の就職者を見ると、ハローワーク経由48,686人に対し民間の紹介事業所経由は112,114人。民間が約2.3倍です。国がハローワークを医療機関に向かわせているのは、この差を詰めるためです。

看護職なら、都道府県ナースセンターもあります。報告書では、ナースセンターは2024年度に9,128人を就職に結びつけたとされています。厚生労働省のプロジェクトのページにも、ナースセンターでも採用や定着のサポートを無料で行っているとあります。愛知県内では、愛知労働局によると5つのハローワークに人材確保対策コーナーがあり、看護・介護の巡回相談も行われています。


判を押す前に、院長が決める3つ

私がG院長と決めたのは、次の3つでした。

  1. 返戻率を表に書き出す。期間ごとの返戻率と、起算日が入職日か契約締結日か。紙1枚にまとめておけば、紹介会社を比べるときにも使えます
  2. 他ルート採用と契約範囲の条項に印をつけ、書面で質問する。不採用にした人を直接応募やハローワーク経由で採ったときの扱い、契約がこの診療所だけか法人全体か。報告書も契約前の確認項目として挙げている部分です。回答はメールで残します
  3. 欠員が出たら、紹介会社と同じ日にハローワークへ連絡する。事業所訪問を頼み、求人票の見直しから始めます。どちらで決まっても、契約書の条項を確認済みなら慌てずに済みます

それでも請求をめぐってもめたときは、各都道府県労働局の「医療・介護・保育」求人者向け特別相談窓口に相談できます。

G院長は結局、返戻率と法人全体の条項について書面で質問を送り、その日のうちにハローワークにも連絡を入れていました。契約書の確認や求人票の手直しは、診療の合間に院長が一人で抱えると、後回しになりやすい仕事です。事務の手が足りないなら、外の事務チームに下読みを任せる手もあります。

あなたのクリニックが前に結んだ紹介会社の契約書、返戻金の起算日はいつになっていますか。


出典・参考情報

※ 返戻率・違約金の条件は紹介事業者ごとに異なります。記事中の返戻率は報告書に掲載された例であり、実際の条件は各社の契約書でご確認ください。


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