転職者実態調査 医療福祉の中途採用3点【2026】

「うちの中途採用って、結局いつも穴埋めなんですよね」

先週の金曜、名古屋市内の訪問先で、介護施設のA理事長が会議室のホワイトボードを見ながらそう言いました。愚痴の口調ではありません。事実を読み上げるような、乾いた言い方でした。私はその場ですぐに返せませんでした。

同じ日、厚生労働省が5年ぶりの統計を公表しています。開いてみたら、A理事長の一言がそのまま数字になっていました。


医療・福祉の採用は、半数が「穴埋め」から始まっている

令和7(2025)年「転職者実態調査」の結果が、厚生労働省の報道発表資料に2026年9月25日付で掲載されました。5人以上の常用労働者を雇用する約17,000事業所と、そこで働く転職者約13,000人が対象。2025年10月1日現在の状況を調べたものです。前回は令和2(2020)年。5年に一度の調査です。

まず、転職者がいる事業所の割合。全産業で38.2%のところ、「医療,福祉」は48.8%でした。不動産業、情報通信業に次ぐ3位です(結果の概要 表1)。半分近い事業所に中途入職者がいる、という状態が業界の標準になっています。

問題は、その採用で何を重視したかです。

全産業では「人員構成の歪みの是正」が48.3%で最多。医療・福祉はこれが54.2%まで上がります。一方で「既存事業の拡大・強化」は全産業39.5%に対し、医療・福祉は29.7%にとどまりました(結果の概要 表3)。

伸ばすために採っているのではない。欠けたところを埋めるために採っている。A理事長の「穴埋め」は、個別法人の反省ではなく業界の構造でした。


賃金の決め方が、免許と資格に寄りすぎている

もうひとつ、同じ調査で目が止まった数字があります。転職者の賃金を決めるとき、何を考慮したか。

全産業の1位は「これまでの経験・能力・知識」で59.2%。2位が「年齢」35.3%、3位が「賃金の世間相場」34.2%、「免許・資格」は30.6%です。

医療・福祉を見ると、順序が変わります。

  • これまでの経験・能力・知識:66.9%
  • 免許・資格:62.0%
  • 賃金の世間相場:32.9%
  • 年齢:26.3%

免許・資格が全産業の2倍です(結果の概要 表5)。国家資格が業務の前提になる業界ですから、当然といえば当然です。ただ、当然であることと、それでいいことは別です。

資格の有無で賃金が決まるなら、同じ資格を持った人はどこの法人へ行っても似た金額になります。自法人で働く理由が、金額では作れない。

離職の側も見ておきます。直前の勤め先を辞めた主な理由は「自己都合」が81.3%。令和2(2020)年調査の76.6%から上がりました。その自己都合の中身が、上位3つでほぼ横並びになっています(結果の概要 表10・表11)。

  • 賃金が低かったから:25.5%
  • 会社の将来に不安を感じたから:25.2%
  • 満足のいく仕事内容でなかったから:24.7%

賃金だけで辞めているわけではありません。将来が見えないことと、仕事の中身が、ほぼ同じ重さで並んでいます。


採用する気はあるのに、誰を採るかが決まっていない

今後3年間の採用予定も聞いています。ここが一番いびつでした。

全産業では63.6%が「採用予定がある」と回答。医療・福祉は68.4%と、全産業より高い。人を採る意思は、業界平均より強いわけです。

ところが内訳を見ると、「転職者を優先」は36.9%。「新規学卒者を優先」は10.2%。残った「どちらとも言えない」が53.0%を占めました(結果の概要 表7)。全産業では転職者優先が40.0%ですから、医療・福祉のほうが「決めていない」側に寄っています。

採る気はある。誰を採るかは決めていない。この2つが同居している状態を、私は現場で何度も見てきました。


決めていないから、紹介会社が決めることになる

方針が決まっていない法人に欠員が出ると、手順はいつも同じです。現場から「人が足りません」と上がってくる。理事長が紹介会社に連絡する。提案された候補者を面接する。採る。

このとき、採用の基準を作っているのは自法人ではありません。紹介会社の手元にいる候補者の顔ぶれが、そのまま基準になります。手数料は、その代行料です。

逆算すると、やることは3つに絞れます。

  1. 欠員の穴埋めと、増員を台帳で分ける。今年採った人を1行ずつ書き出し、「辞めた人の後任」か「新しく増やした枠」かを記入する。医療・福祉の54.2%が前者だとして、自法人の比率はいくつか。数えるまで誰も知りません
  2. 資格以外の賃金根拠を1つ作る。夜勤回数でも、実務年数でも、委員会の担当でもかまいません。資格手当だけで説明が終わる賃金表は、同業他社の賃金表と見分けがつきません
  3. 「転職者優先か新卒優先か」を紙に書く。53.0%が答えられなかった問いです。理事会で1回決めて議事録に残せば、次の欠員のときに紹介会社へ電話する前の判断材料になります

どれも制度改正の対応ではありません。今週の理事会でも着手できます。

うちが法人の本部業務をお預かりするときも、最初にやるのはこの台帳づくりです。人が足りない話は、たいてい採用の前段で詰まっています。A理事長とは、次回までに直近1年分の入職者リストを出してもらうことにしました。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度・統計の内容は改定される場合がありますので、最新情報は各公式サイトでご確認ください。


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