介護 事故報告書 新様式案 システム化で変わる5点【2026】

2時間ごと。厚生労働省が10月21日に示した事故報告書の見直し案では、事故が起きた時刻を「何時何分」ではなく、この幅で書きます。

今の標準様式は「西暦 年 月 日 時 分頃(24時間表記)」と、分まで書かせていました。それが「年月」と「時間帯」に変わる。利用者の氏名を書く欄も、案からは消えています。

事故報告書は、市町村の担当者が1枚ずつ読む書類から、国が全国分を集めて分析するデータへ作り替えられようとしています。

出どころは介護保険最新情報Vol.1548「介護現場において事故が発生した際の報告について」です。事故報告を一元的に受け付ける「介護現場における事故情報報告システム」を介護サービス情報公表システムのサブシステムとして作り、令和9年4月頃から稼働させる予定だと書かれています。様式の中身は「現在も調整中」としながら、システムが動き出したあとは、この様式の内容が入力フォームに反映される予定とのこと。来年度の入力画面の下書きが、もう届いたということです。

先週、名古屋市内の特養で事務室の机を借りていたとき、A施設長がこの事務連絡を印刷して持ってきました。「うちの事故報告書、市の書式をそのまま使っているだけなんですけど」。現行様式と並べて読み比べると、変わる点は5つありました。


名前の欄が消え、時刻は「2時間ごと」になる

現行の標準様式は、令和6年11月29日の介護保険最新情報Vol.1332で示されたものです。対象者の欄には「氏名・年齢・性別」が並んでいました。見直し案は「年齢・性別」だけ。発生日時は分単位から「年月」と「2時間ごとの時間帯」になり、サービス提供開始日や死亡日も、案では年月までの記入です。

かわりに増えた欄もあります。法人番号、室数、定員。障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)も、J・A・B・Cから選ぶ形で入りました。

誰が事故に遭ったかより、どんな規模の事業所で、どんな状態の方に起きた事故かを数えたい。様式の並びを見るかぎり、私はそういう設計だと読んでいます。事務連絡が引用している令和7年12月25日の社会保障審議会介護保険部会の意見も、同じ方向でした。全国レベルで事故情報を集めて傾向と原因を分析し、事故防止に役立つ情報を現場にフィードバックする必要がある、という内容です。

ただ、現場の書き手にとって楽になる欄ばかりではありません。


事故の種別に、熱中症と利用者間トラブルが増える

現行様式の「事故の種別」は、転倒、転落、誤嚥・窒息などの7項目に、自治体が足せる自由記載欄と「その他」が付く並びでした。見直し案で新しく加わった選択肢はこちらです。

  • 強打、圧迫
  • 所在不明
  • 火傷
  • 溺水
  • 熱中症
  • 自傷行為
  • 利用者間トラブル

「異食」は「異食、誤飲」に広がりました。「不明」と自由記載の欄は、案には見当たりません。

発生場所も細かくなっています。洗濯室、洗面所、エレベーター、玄関、階段。医務室・健康管理室も選択肢に入りました。そして車両(乗降時含む)。現行様式の選択肢なら「敷地外」か「その他」を選ぶしかなかった送迎まわりの事故に、専用の行ができたわけです。

選択肢が増えると、これまで「その他」に逃がしていた事故が種別ごとに数えられるようになります。利用者さん同士のトラブルでけがをした件数が、地域ごとに見えてくる。

そして、いちばん手間が増えるのは種別でも場所でもありませんでした。


いちばん書き手を選ぶのは、事故が起きる「前」の欄です

見直し案には、現行様式にない欄が加わっています。「事故発生前の利用者の状況・状態」。注意書きは「事故発生前の利用者の心身の状態(普段の様子との違い、疲労度や眠気等)を記入すること」です。

たった1行の追加です。

事故のあとのことは、その場にいた職員が覚えています。けれど、転倒の2時間前に「今日はいつもより眠そうだった」と気づいていたかどうかは、記録に残っていなければ誰にも書けません。報告書を作る段階で思い出そうとしても、もう遅い。

発生時の書き方も変わります。現行様式は「発生時状況、事故内容の詳細」と「発生時の対応」を別々の枠に書く形でした。案では「hh:mm」の時刻ごとに行を分け、何時に何が起きて、何時に誰が何をしたかを時系列で並べます。

発生時刻の欄は2時間の幅なのに、その後の経過は分単位で追う。

A施設長の特養では、夜勤帯の記録に「巡視時、異常なし」が並んでいました。これでは「前の状態」の欄は埋まらない。書けない。施設長自身、資料のその行を指でなぞったまま、しばらく黙っていました。

原因分析の欄は、もっと大きく形が変わっています。


原因分析は、作文からチェックの組み合わせへ

現行様式の原因分析は「本人要因、職員要因、環境要因の分析」を「できるだけ具体的に記載すること」という自由記述でした。要は作文です。

見直し案では、まず事故を2つに分けます。

  • 利用者の日常生活動作中に発生した事故
  • 介助中等、職員が関与した事故

そのうえで、事故の発生に関わった観点にチェックを入れて記入します。観点は次の7つで、複数選択ができます。

  • 利用者の行為や状態変化
  • 組織運営体制
  • マニュアル、手順
  • 環境、設備
  • 介護技術
  • 職員間の連携、情報共有
  • その他

再発防止策の欄も、同じ観点ごとに取り組む事項を書く並びです。

私は、楽になる面と厳しくなる面の両方があると見ています。

楽になるのは、文章の上手い下手が報告の質に出にくくなること。厳しくなるのは、「本人のふらつきによる転倒。見守りを強化する」で済ませていた報告が、形のうえで通りにくくなることです。原因の観点で「マニュアル、手順」にチェックを入れたのに、再発防止策に手順の見直しが1行もない。そういう報告は、読む側にすぐ分かります。


令和9年4月の稼働前に、施設で決めておく3つ

報告対象の範囲が変わるかどうかは、Vol.1548には書かれていません。現行の通知では、死亡に至った事故と、医師(施設の勤務医、配置医を含む。)の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故は、原則として全て報告することになっています。範囲の変更は要確認で、続報待ちです。第1報の期限は、案でも「遅くとも5日以内を目安」のまま変わっていません。

名古屋市の場合、いまは市の事故報告書に入力し、所定の報告フォームからアップロードする方法です(名古屋市 事故報告書)。市外の事業所でも利用者が名古屋市民なら報告が要ります。市内の事業所でも、利用者が市民でなければ報告が要る。愛知県も、被保険者の属する保険者と事業所が所在する保険者の双方へ報告するよう案内しています(愛知県 介護保険サービスに係る事故報告)。

稼働前に決めておきたいのは、この3つです。

  1. 施設内の事故報告書を、見直し案の項目に寄せて作り替える。厚労省自身が「令和9年度からの事務の便宜に資するため」に現時点の案を示したと書いています。市町村の様式が変わるのを待たず、内部様式から先に合わせておけば、稼働後は転記だけで済みます
  2. 介護記録に「いつもと違う」を書く欄を作る。眠気や疲れ、食事の進み具合。事故前の状態の欄は、日々の記録からしか埋まりません
  3. 事故の分類と原因の観点を、職員の間でそろえる。同じ転倒でも、見守り中か介助中かで分類が変わります。委員会で過去1年分の事故を新しい分類で振り分けてみると、ずれはすぐ見つかります

A施設長は帰り際、印刷した事務連絡をクリアファイルに挟みながら「まず内部の様式から変えます」と言っていました。様式の作り替えや記録欄の設計は、手を動かせる人が施設にいないと、後回しになりやすい仕事です。下書きまでを外の事務チームに任せる手もあります。

あなたの施設の介護記録には、事故の前の「いつもと違う」が、どこに書いてありますか。


出典・参考情報

※ 事故報告様式は厚生労働省が「現在も調整中」とする見直し案であり、今後変更される可能性があります。報告の方法・様式は所在地の市町村の案内をご確認ください。


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