保育所BCP 義務化案 令和9年度へ備える3要件【2026】

火曜の15時、名古屋市内にある社会福祉法人の本部事務室。特養と認可保育所を1か所ずつ運営するH理事長が、厚いファイルと薄いファイルを机に並べています。厚いほうは特養のBCP(業務継続計画。災害や感染症が起きても事業を止めない、止まっても早く戻すための計画)で、薄いほうが保育所のものです。

2日前の10月26日、こども家庭庁の分科会に「保育所等のBCPを令和9年度中に義務化してはどうか」という案が出されました。問われるのは、薄いほうのファイルです。

うちはこの法人の本部に毎月、定例訪問で入っています。H理事長は薄いファイルをめくりながら言いました。「介護は減算があるから、職員総出で作った。保育は努力義務だったから、ひな形を埋めて終わりにしてしまった」。そのひな形を一緒に埋めたのは、実はうちです。耳が痛い。


義務化はまだ「案」。それでも、令和9年度中という時期は示された

出どころは、第16回子ども・子育て支援等分科会(令和8年10月26日、持ち回り開催)の資料2です。現行は努力義務になっている次の3つについて、令和9年度中に保育所等へ実施を義務化してはどうか、と提案されています。

  1. 業務継続計画の策定
  2. 職員への周知と、研修・訓練の定期的な実施
  3. 定期的な見直し

対象は保育所と認定こども園(幼保連携型・保育所型)。準備期間として、一定の経過措置期間を設ける案も添えられています。

いまの根拠は、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準の第九条の三です。条文は「必要な措置を講ずるよう努めなければならない」。この「努めなければならない」が外れるかどうかが、今回の論点です。

あくまで案の段階で、分科会では「一律で義務づけということにはならないのではないか」という慎重な意見も出ていました。施行日と経過措置の長さは、資料にはまだ書かれていません。ここは要確認として追いかけます。

それでも、時期が文字になった意味は大きい。H理事長の薄いファイルで足りるのかを確かめるには、求められる中身を見るのが早道です。


求められる中身は3つ。いちばん抜けやすいのは2つ目

資料2には、3つそれぞれの「要件イメージ」が載っています。

1つ目の計画には、災害と感染症それぞれの事前の対策と、リスク別のタイミングに応じた対策の両方を書きます。事前の対策は、備蓄品の確保や人員確保、関係各所との連携や情報収集など。タイミング別の対策は、発災時や感染症発生時の初動対応に加え、時間経過ごとや感染者の発生ステージごとの対応などです。

2つ目の研修と訓練は、定期的に、年に1回以上実施します。訓練の中身として例示されているのは、職員間の役割分担の確認と、災害や感染症が起きたときに実践する優先業務の演習でした。

3つ目の見直しは、訓練などで見えた課題を踏まえて計画の見直しを検討する、という建て付けです。

ここまで読むと、計画書があるだけでは足りないことが分かります。年1回の訓練をして、そこで出た課題を計画に戻す。この循環が回っているかどうかが問われます。

実態の数字も資料に出ています。令和7年度の調査研究によれば、保育所と認定こども園の自然災害のBCP策定率は、策定中を含めて約7割程度。自然災害以外、つまり感染症などのBCPは、それよりさらに低い水準にとどまります。

H理事長の保育所も、自然災害の計画はひな形どおり埋まっていました。感染症の章は半分が空欄。訓練の記録は、1枚もありません。2つ目が丸ごと抜けていた。


介護のBCPがある法人ほど、保育側の穴に気づきにくい

介護分野では、BCPはすでに義務です。令和6年度の介護報酬改定で、業務継続計画未策定減算が新設されました。計画がなければ、サービス種別ごとに定められた割合で報酬が減算されます(厚生労働省 令和6年度介護報酬改定の主な事項)。経過措置は令和7年3月31日までで、もう終わっています。

分科会でも委員から指摘がありました。介護ではBCPが義務で、策定していなければ減算される仕組みもある。保育と介護を同じ法人で経営しているところもある、という内容です。H理事長の法人は、まさにその形です。

落とし穴は、介護の計画を写せば済むと考えてしまうことです。資料2には、令和8年の熊本地震の被災地から寄せられた声がまとめられています。

  • 行政に固定電話の番号しか伝えておらず、連絡がとれないケースがあった
  • 保育所の開所の取扱いが、自治体ごとに異なっていた
  • 備蓄品として、電波時計・体温計・段ボールの必要性を感じた

どれも、特養の計画には出てこない論点です。開所するかどうかの判断は市町村とのやりとりで決まりますし、日中に子どもを預かっている施設なら、保護者への連絡と引き渡しの段取りも計画の中心になります。特養のファイルを横に置いても、保育所の空欄は埋まりません。


12月と年度末、2つの改訂を待ってから動くと間に合わない

国の側の予定も、資料2に書かれています。

  • 保育所における感染症対策ガイドラインに、感染症の集団発生時の保育継続に関する記載を追加。令和8年12月頃が目途
  • 業務継続ガイドラインとひな形の改訂。令和8年度中が目途
  • 市町村を中心とした、災害時の業務継続の在り方の周知。令和8年度中が目途

新しいひな形の目途は令和8年度中です。それを待ってから書き直そうと考える園長は少なくないはずです。私もH理事長に最初はそう言いかけました。

ただ、ひな形が変わっても変わらないものがあります。訓練をした記録と、そこで見つかった課題。連絡先が固定電話だけになっていないかの確認。訓練をして、課題を書き留め、計画に戻す。この循環は、計画書の様式と関係なく今日から始められます。改訂版が出たときに、訓練で出た課題をそのまま流し込めるからです。


H理事長と決めた、今年度中にやる3つ

定例訪問の残り30分で、H理事長と次の3つを決めました。

  1. 市役所の担当課に伝えている連絡先を確認する。固定電話だけなら、園長の携帯と法人本部の番号を追加で伝えます。熊本の声そのままの対策で、費用はかかりません
  2. 年度内に1回、保育所で訓練をする。役割分担の確認と、給食が止まった日の優先業務の演習。終わったら、出た課題を1枚にまとめて残します
  3. 特養と保育所のBCPを並べて、差分表を作る。開所判断、保護者への引き渡し、感染症の章。保育所にしかない項目を洗い出し、新しいひな形が出たら最初にそこを埋めます

H理事長は、その場で訓練の日付を手帳に書き込みました。薄いファイルは、まだ薄いままです。今日はそれでいい。年度末には、訓練の記録の分だけページが増えます。

あなたの園のBCPで、最後に訓練をしたのはいつでしょうか。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。保育所等のBCP義務化は分科会に示された案であり、施行日・経過措置期間は今後の決定事項です。最新の情報は各省庁の公式発表でご確認ください。


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