介護BCP 運営指導で指摘される前にやる3点【2026】

7月の第1週、大阪のデイサービス施設長のA田さんから電話がきた。「来週、運営指導が入るんですが……BCPってファイルに挟んであれば大丈夫ですよね?」 少し間があった。「ファイルに挟んである」という言葉の意味が、瞬時にわかってしまったから。 2026年度の運営指導が確認しているのは、BCPが「存在するか」じゃない。「職員に説明したか」「訓練をやったか」「今年見直したか」。使ってきた証拠を見てくる年になった。

「ファイルに入れてあれば大丈夫」という勘違い

BCPの義務化は2024年4月から始まった。令和3年度の介護保険制度改正(運営基準の改正)ですべての介護事業所・施設に感染症と自然災害それぞれの業務継続計画の策定等が義務付けられ、3年間の経過措置を経て2024年4月1日に完全義務化された(杉並区「BCP(業務継続計画)について【令和6年4月1日から義務化】」)。多くの事業所が2023年度末にあわてて計画書を作り、それ以降は棚に入れたままというのが実態だ。 問題は、2026年度の運営指導が「計画書を作ったか」という確認から「計画書を使っているか」という確認に変わったことだ。 厚生労働省のBCP研修支援ページでは、策定後のPDCAサイクルでの運用が求められると明示されている。実地指導では次の書類の提示を求められる事例が増えている。
  • BCP文書の最終改定日(直近1年以内に改訂した記録があるか)
  • 職員への周知記録(説明会の開催日・参加者名簿)
  • 訓練・研修の実施記録(実施日・参加者・気づいた課題)
  • 連絡網(担当者名・電話番号の最新版、最終更新日)
  • 備蓄品の点検記録(点検日・品目・数量・補充状況)
「作っただけ」の事業所が実地指導を受けると、上記の書類が出てこない。指導員から改善指摘が入り、改善報告書の提出を求められるケースになる。 では、そもそもBCPが未策定のまま運営指導が来たらどうなるか。これが本題だ。

BCP未策定のまま実地指導を受けると3%減算──2025年4月からすでに発動している

BCP未策定減算は2024年度介護報酬改定で新設され、2025年4月1日から経過措置なしで適用されている(一部例外サービスを除く)。 減算率は以下の通りだ。
  • 施設・居住系サービス(特養・老健・グループホーム・特定施設等):所定単位数の3%減算
  • 訪問系・通所系・その他サービス(訪問介護・通所介護等):所定単位数の1%減算
施設系の3%というのは、月の介護報酬が500万円の特別養護老人ホームなら月15万円の減収になる計算だ。年間では180万円(※月500万円は説明用の試算値。実際の減算額は各施設の単位数・地域単価により異なる)。これが「気づかずに」続いているケースが実際に出ている。 もう一点。感染症のBCPと自然災害のBCP、どちらかが欠けていても減算対象になる。「感染症は作った、災害はまだ」という事業所も注意が必要だ。 BCP未策定のまま実地指導を受けると、指摘から改善報告書の提出へ進み、場合によっては行政指導という流れになる。業務継続計画未策定減算の詳細はこちらで確認できる。 指摘されてから動くのは精神的にも時間的にも消耗する。今週中に動けることは3点だ。

今週やる3点──証跡を作る最短手順

実際に指摘されていない施設を見ると、共通して3点の動きをしている。

1. BCPを開いて今日の日付で「見直し記録」を付ける

計画書の表紙か末尾に改定履歴の欄を作り、今日の日付と「〇〇を確認・変更点なし」の1行を入れる。これが証跡になる。内容を大きく変えなくていい。「定期的に見直した」という記録の積み重ねが評価される仕組みだ。

2. 職員への周知記録を1枚作る

BCPを朝礼で3分説明した記録を残す。「日付・説明した内容の要約・参加者一覧」の3項目があれば十分だ。年1回の実施が最低ラインで、直近1年以内の記録がなければ今週中に実施して記録を作る。運営指導で求められる書類の詳細はこちらにまとめられている。

3. 連絡網の電話番号を今日確認する

BCPの中で一番「腐る」のが連絡網だ。担当者の異動・退職で番号が変わっていることが多い。1件でも繋がらない番号があると実際の緊急時に使えない。運営指導員も同じ認識を持っているから、連絡網の最終更新日を確認してくる。今日、全員の番号に発信確認をして、更新日を記録するだけでいい。 この3点を週末のうちにやっておく。複雑な書類整備は来週以降でいい。まず「動かしている証拠」を作ることが先だ。

備蓄品と訓練を「毎年やる仕組み」に落とし込む

3点が終わったら次に進む。BCPの運用で継続して評価されるには、毎年確認できる仕組みを作ることだ。 うちのクライアントのB施設長は、BCPの訓練を「防災の日(9月1日)前後」に年1回固定してから、記録の空白がなくなった。「防災の日に合わせる」というアンカーを置くと、管理者が変わっても習慣が続く。 同じように備蓄品の点検を「年末の大掃除と一緒に」やっている事業所がある。飲料水の賞味期限切れや保存食の未補充を毎年確認して記録を残す。それだけで「実効性のある運用」として評価される。 BCPは一度作って終わりじゃない。「作り終えたとき」が運用の始まりで、日常のルーティンに組み込んで初めて機能する書類だ。 実地指導で「指摘される施設」と「されない施設」の分岐点は、BCPの厚さじゃない。動かしてきた記録があるかどうか、ただそれだけだ。

出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の詳細は厚生労働省等の公式情報でご確認ください。


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