介護報酬改定2027 特養・老健 経営準備3点【令和9年度】
1.4%と0.6%が意味すること──全平均4.7%との乖離
厚生労働省が第260回社会保障審議会介護給付費分科会(2026年7月9日開催)に提出した資料によれば、令和6年度決算ベースの税引前収支差率は以下のとおりだ(令和7年度介護事業経営概況調査、第260回分科会資料ページ)。
- 特養(介護老人福祉施設):1.4%
- 老健(介護老人保健施設):0.6%
- 全サービス平均:4.7%
月額に換算すると、特養で約41.7万円、老健で約22.6万円のプラス。数字だけ見れば「赤字ではない」と読める。ただ、介護職員の賃金は全産業平均と比べ8.2万円低く、消費者物価指数(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)は2026年5月時点で前年同月比1.8%上昇している(いずれも老施協が第260回分科会に提出した要望書より)。この状況で、1.4%のマージンは風が強い日の砂の城に近い。
さらに、全国老人福祉施設協議会(老施協)が独自調査した数字では事情が変わる。老施協の収支状況等調査(集計対象・集計方法が厚労省概況調査と異なる)では、特養の令和6年度収支差率は0.0%と過去最低水準に達し、赤字施設の割合は49.5%まで増加している。老施協は第260回分科会に提出した要望書で、この状態を「事業の継続運営が成り立たない危険水域」と表現した(小泉委員提出資料「令和9年度介護報酬改定に向けた要望」)。
2つの数字(厚労省1.4% vs 老施協0.0%)はどちらが正しいか、ではなく「どちらの視点から見ても余裕がない」と読むべきだろう。集計方法の違いで生じる差なので、両方を知っておく必要がある。
なぜ施設系だけが薄いのか──3つの構造的な理由
介護サービス全体の平均が4.7%なのに施設系だけが1%前後に落ちる。これには3つの構造的な理由がある。
1つ目は、固定費の高さ。施設系介護は建物・設備・人員配置基準が訪問系や通所系に比べて厳しい。夜間の人員体制も維持しなければいけない。変動費を削る余地が他のサービス類型より小さい。
2つ目は、基本報酬が低いまま据え置かれてきた経緯。直近の改定(2024年度)でも施設系の基本報酬そのものは大きく動かなかった。処遇改善加算や各種加算を「積み上げる」ことで総収入を補う形になっているため、加算が取れない施設ほど手取りが細い構造だ。
3つ目は、物価・人件費上昇の直撃。食材費、光熱費、修繕費の上昇は在宅系より施設系のほうが金額的に大きい。介護職員の離職防止のために独自で賃上げをすると、収支差率がさらに圧迫される。
この3つが同時に効いている。7月9日の分科会では日本医師会委員から「異次元の増額が不可欠」という言葉が出た。言葉が強かったのは、数字の深刻さが背景にある。
2027年4月改定まで9ヶ月──審議会が示した3つのシグナル
令和9年度(2027年4月)の介護報酬改定に向けて、第260回分科会では施設系4類型(特養・老健・介護医療院・特定施設)が議論の俎上に乗った。今の議論のトーンから、私が読み取った3つのシグナルを書く。
シグナル1:基本報酬の底上げは「ほぼ既定路線」に近い。業界団体・学識委員・与党議員連盟(自民ケアマネ議連が7月7日決議)が足並みをそろえて引き上げを求めている状況は、2018年や2021年の改定前とは温度感が違う。ただし「いくら上がるか」は別の話で、これから秋〜冬にかけての審議で方向が決まる。
シグナル2:加算の再整理が来る可能性がある。2024年度で処遇改善加算が一本化されたが、それ以外の加算群(栄養管理・口腔機能・リハビリ・看取り)の算定実態にも分科会はメスを入れはじめている。算定率が低い加算の要件緩和か廃止かという議論が並行して進む。今取っている加算が「簡単に取れるものに変わるかもしれない」し、「要件が厳しくなるかもしれない」という両面がある。
シグナル3:人員配置基準の見直しが本格的に議論される。施設系では夜間体制の人員基準が経営圧迫の一因だ。ICT・介護ロボット活用を前提にした配置基準の緩和が議論テーブルに乗っている。ここは2027年改定の目玉になる可能性がある。
2027年4月まで9ヶ月──今週動かないと「改定後も赤字」になる3点
審議会が動いているのは分かった。では施設の経営者として今週何をすべきか。
1. 自施設の収支差率を、厚労省の集計ベースで計算し直す。老施協の数字と厚労省の数字で乖離があるように、自分の施設の「本当の収支差率」が集計方法によってどう変わるか把握しておく。改定後の影響を試算するとき、前提となる数字がずれていると判断が狂う。
2. 現在の加算取得状況を洗い出す。栄養マネジメント強化加算・口腔衛生管理加算・排せつ支援加算など、2024年度改定で算定要件が変わって「取りそびれている」加算がないか確認する。改定の波を追いかけるより、まず現行制度での取りこぼしを拾う方が確実だ。
3. 人員配置の現状を記録しておく。2027年改定で夜間人員基準が緩和された場合、「今の配置から何人削減できるか」あるいは「ICT化でどこをカバーするか」のシミュレーションは、審議が固まってから始めると遅い。今のうちに現状の配置パターンをデータで持っておくことが、来年春の審議確定後の意思決定を速くする。
うちのクライアントの特養理事長と先週話したとき、「改定待ちで今は何もしない」という人が意外と多いと気づいた。改定は来る。でも改定前の9ヶ月で施設の体力をどれだけ温存できるかが、改定後の利益水準を決める。
審議会の議論は秋以降も続く。次の注目日程は厚労省が令和9年度改定の論点整理を公表するタイミング(2026年秋〜冬と予測)。今月はまず足元を固める9ヶ月だ。
出典・参考情報
- 第260回社会保障審議会介護給付費分科会(令和8年7月9日)(厚生労働省、確認日:2026年7月12日)
- 介護老人福祉施設(特養)関連資料PDF(厚生労働省、確認日:2026年7月12日)
- 介護老人保健施設(老健)関連資料PDF(厚生労働省、確認日:2026年7月12日)
- 特養・老健の基本報酬「異次元の増額を」審議会で有力団体から要請(介護ニュース Joint、確認日:2026年7月12日)
- 第260回介護給付費分科会 小泉委員提出資料「令和9年度介護報酬改定に向けた要望」(全国老人福祉施設協議会)(厚生労働省、確認日:2026年7月12日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度・報酬は改定により変わる場合があります。最新情報は厚生労働省公式サイトをご確認ください。
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