来年度介護報酬改定 議論開始──『改定を待つ経営』はもう詰む【2026】

「改定を見てから対応する」── これがいちばん経営を弱くする選択になった。

議論が始まった瞬間から告示までの1年で、人と金が抜けていく施設と、静かに体力を蓄える施設に分かれる。決め手は、議論開始の段階で何を動かすかだ。

来年度の介護報酬改定をめぐる議論が、先週から動き始めた。


5月25日、いったい何が始まったのか

厚生労働省は2026年5月25日、社会保障審議会・介護給付費分科会を開き、来年度(令和9年度)の介護報酬改定に向けた個別サービスの議論をスタートさせた。最初に取り上げられたのは、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護(GH)の3類型だ(厚生労働省 給付費分科会 議事資料ページ)。

論点として明示されたのは、人材難、サービス提供体制の確保、賃上げを見据えた報酬の底上げと適正配分、夜間を含めた人材の有効活用、人員配置基準の見直し、医療ニーズに対応する事業所の評価、地域密着型サービスの位置付け、そして既存加算の整理。守備範囲が広い(介護ニュースJoint 2026年5月26日報道)。

厚労省は、具体策の検討を秋以降に本格化させる方針を示している。秋までの数か月は、議論の方向が固まる前の「素地」の期間。経営者にとっては、ここで何を観測し、何を仕込むかが翌年の損益を左右する。

と書くと「気が早い」と感じる人もいると思う。けれど、ここを甘く見て痛い目を見た施設を、私は何度も見てきた。


なぜ「改定を待つ経営」が詰むのか

「告示が出てから対応する」が通用したのは、報酬改定が今より単純で、加算の選択肢が少なかった時代の話だ。いまは違う。

うちのクライアントの介護施設のA理事長から、3月にこんな相談があった。「うちは小多機なんですが、今回の改定で人員配置のどこが触られそうですか」。話を聞くと、すでに夜勤体制の見直し、ICT導入、賃上げ原資の確保まで仕込みを始めていた。改定告示の半年以上前から、議論の方向に合わせて手を打っていたわけだ。

一方で、同じ業種・同じ規模なのに、改定告示を見てから動いた別の施設は、夜勤の人員確保が間に合わずショートステイの受け入れを絞ることになった。半年で売上は2桁減った。同じ制度、同じ条件、判断のタイミングだけが違う。

議論開始の段階で動ける施設は、3つの優位を取っていく。
ひとつは採用と定着のリードタイム。人を採るには半年以上かかる。
ふたつめはICTや夜勤体制の組み替え。これも準備に数か月。
みっつめは加算の取りこぼし棚卸し。現状の加算配分を整える時間が要る。

議論が始まった瞬間に動ける施設は、この3つに半年の時間を確保できる。待ってから動く施設は、ゼロから準備して間に合わない。差はここで開く。


議論開始の今、Reliefが現場でやっている3つの動き

うちが今週からクライアントに勧めているのは、次の3つだ。秋の本格議論までに完了させておきたい仕込みを並べてある。

1つ目:現行加算の取りこぼし棚卸し

今回の議論には「既存加算の見直し」が明示されている。整理・統合の方向に動けば、いま取れていない加算は来年度から取りにくくなる。介護給付費分科会の今後の資料でも、加算の再編・廃止議論が出るたびに直前駆け込みでは届け出が間に合わない事例が積み上がってきた。
まずは現状の加算届出を棚卸しし、「取れているのに届け出ていないもの」「要件を満たしているのに失念しているもの」を全部洗い出す。これは改定の方向がどう転んでも無駄にならない作業だ。

2つ目:夜間体制とICTの再設計

分科会の論点には「夜間を含めた人材の有効活用」「人員配置基準の見直し」が並んだ。配置基準が緩むのか、より厳しい質的要件が入るのか、議論次第で振れ幅は大きい。
ただ、どちらに振れても損をしない打ち手はある。夜勤の業務分解と、ICTでの記録・連携の自動化。これは改定がどちらに転んでも、人件費の固定費を1割圧縮しておけば耐えられる。AIで記録を音声化したクライアントは、夜勤1人あたり40分の業務時間を毎晩浮かせている。

3つ目:賃上げ原資のキャッシュフロー設計

論点には「賃上げを見据えた報酬の底上げと適正配分」と明記された。賃上げ原資は誰かが負担する。厚労省か事業者か、その負担構造の比率が改定で固まる。
事業者側で見るべきは、来年度の賃上げに耐えられるキャッシュ残高があるか。介護施設のB理事長は「処遇改善加算でなんとかなる」と思っていたが、計算したら2年で運転資金が底をつく試算が出た。賃上げ原資の手当ては、報酬改定が決まる前から始める案件だ。


秋までの数か月で経営者が外せない論点

秋以降に厚労省の議論が具体策へ進む。逆に言えば、それまでは方向だけが少しずつ見えてくる期間だ。情報の追い方も変えたほうがいい。

追うのは3つ。
給付費分科会の議事資料(厚生労働省 介護報酬ポータル)。
業界メディアの分析記事。
業界団体・職能団体の意見書。

うちでは毎週月曜の朝に給付費分科会の更新をスタッフが確認し、論点に動きがあればクライアントに15分以内で1次報告するルールにしている。専門家を抱えていない中小施設なら、業界メディアのメール購読と、同業の勉強会で十分間に合う。情報源を多く持つ必要はない。同じ情報源を継続的に追う体力のほうがずっと大事だ

議論開始の段階で動く経営者は、改定の告示が出たときに「あの議論のあの論点が、こう着地した」と読める。読めれば、次の改定までの3年が短く感じる。

来週から、議論はもう一段深まる。日曜の夜にこれを読んでいるあなたが、明日の朝いちばんに何を見るか。そこで来年度の決算が、もう半分は決まる。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。最新の情報は各発行元の公式サイトをご確認ください。


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