基金の主役は、建物ではない。

地域医療介護総合確保基金は建物と病床のための金だ、という業界の常識は、今年の数字と合っていません。

厚生労働省が令和8年9月4日に各都道府県あて内示した令和8年度 地域医療介護総合確保基金(医療分)の第1回内示で、基金規模の合計は1,008.4億円。うち医療従事者の確保に526.1億円、勤務医の労働時間短縮に188.4億円。人に関する2つの枠を足すと714.5億円になります。

私は内示額一覧のPDFを開いて、頭の中にあった配分図をその場で書き直しました。今日はその書き直しの手順を、そのまま置いていきます。


1,008.4億円の内訳を並べて、私は前提を捨てた

まず言葉の整理から。地域医療介護総合確保基金は、平成26年6月に公布・施行された「地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律」に基づき、消費税増収分等を財源として各都道府県に設置されている基金です(静岡県公式サイトの説明)。国が事業者に直接配るのではなく、都道府県に置いた財布に国が金を積む建付けになっています。

その財布の中身が、事業区分ごとにどう積まれたのか。厚生労働省の内示額一覧から第1回内示分を並べます。

  • 区分Ⅰ-1 医療機関の施設又は設備の整備:193.3億円(国庫負担は基金規模の2/3)
  • 区分Ⅰ-2 病床の機能又は病床数の変更:41.8億円(国庫負担は10/10)
  • 区分Ⅱ 居宅等における医療の提供:58.7億円
  • 区分Ⅳ 医療従事者の確保:526.1億円
  • 区分Ⅵ 勤務医の労働時間短縮に向けた体制の整備:188.4億円

建物と病床、つまり区分Ⅰの2つを足しても235.1億円です。区分Ⅳ単独に負けています。区分Ⅳと区分Ⅵを合わせると714.5億円で、全体1,008.4億円の70.9%にあたります(内示額一覧の値からの単純合算・除算による試算)。この基金の主語は、いつの間にか「箱」から「人」に移っていた、という話です。

正直に書くと、私の中の優先順位は数年前の記憶で止まっていました。改修や医療機器の整備を相談されたときに「確保基金の枠を見ましょう」と反射的に答えていた。反射は、たいてい古い。


愛知県 22.9億円のうち、建物に回るのは0.9億円だけ

全国合計だけ見ても自分の県の話にはなりません。同じPDFの都道府県別を読みます。うちの本拠地である愛知県の第1回内示は22.9億円。内訳はこうです。

  • 区分Ⅰ-1 施設又は設備の整備:0.9億円
  • 区分Ⅰ-2 病床の機能・病床数の変更:(内示なし)
  • 区分Ⅱ 居宅等における医療の提供:0.5億円
  • 区分Ⅳ 医療従事者の確保:9.9億円
  • 区分Ⅵ 勤務医の労働時間短縮:11.5億円

区分Ⅳと区分Ⅵを足すと21.4億円(同じく単純合算による試算)。愛知県に来た22.9億円のほとんどが、人の確保と勤務医の労働時間短縮に振られています。病床の機能変更はゼロ。ここまで極端だと、県の政策の重心がどこにあるかは読み間違えようがありません。

参考に東海圏の他県も。岐阜県15.9億円、静岡県36.5億円、三重県14.5億円。最大は神奈川県の74.2億円で、宮城県74.1億円、東京都65.2億円が続きます。愛知県は人口規模から想像するより控えめな位置にいます。

名古屋市内の中規模病院の事務長と話していて、この一覧を一緒に眺めたことがあります。彼が最初に指した数字は総額でした。次に指したのが区分Ⅵ。「当院、宿日直許可の整理でずっと止まってるんですよ」。県が11.5億円を積んでいる領域と、その病院が止まっている論点が、きれいに重なっていました。


窓口は厚生労働省ではない。ここを間違えると1年溶ける

報道発表の本文はこう書かれています。「標記につきまして、本日、別添のとおり各都道府県あて内示いたしましたのでお知らせします」。内示の宛先は都道府県です。病院やクリニックが厚生労働省に手を挙げる仕組みではありません。

基金は都道府県に設置され、都道府県が計画をつくり、都道府県が事業を実施します。だから医療機関側の実務は、厚生労働省のサイトを見張ることではなく、自分の県の医療担当課(愛知県なら医務課)が出す募集を拾うことに尽きます。県の担当課名と募集ページを、今日ブラウザのお気に入りに入れておくだけで、来年の動きが変わります。

9月の内示を見て「じゃあ手を挙げよう」と動き始めた時点で、そのお金の行き先はもう決まっています。内示は、県が積み上げた計画に国が金額を返した結果です。うちが支援に入っている法人でも、この順番を取り違えて1年空振りしたケースがありました。悔しいという言葉では足りない類の空振りです。

県の募集は、国庫負担の割合によって自己負担の重さが変わります。区分Ⅰ-2だけは国庫負担が10/10、それ以外の区分は2/3です(内示額一覧の脚注)。同じ「基金の事業」でも、手元から出る金額はまったく違う。募集要領を読むときに最初に確認すべきはここです。


内示の紙から読み取るべきことは、3つだけ

医療機関の経営者が今週やることに落とします。

  1. 自分の県の内示額と、区分別の内訳を確認する。総額だけ見ても意味がありません。区分Ⅳが厚い県なら人材確保系、区分Ⅵが厚い県なら勤務医の労働時間短縮系の募集が出やすい、という読み方をします
  2. 県の担当課の募集ページを情報源として固定する。愛知県なら医務課系の所管です。国のサイトではなく県のサイトが一次窓口になります
  3. 来年度に出したい取組を、今から言語化しておく。募集が出てから中身を考えると間に合いません。計画書に書くべき「何を導入して、どの業務が何時間減るのか」を、平時に書き溜めておく作業です

3つめが一番地味で、一番効きます。うちがバックオフィスの支援に入るとき、最初にやるのは業務の棚卸しです。誰が何に何分使っているかを紙に落とす。この紙があると、補助金の計画書は転記で書けます。無いと、締切前の3日間で作文する羽目になる。作文で通る補助金は、そう多くありません。

基金の主役が「人」に移ったということは、申請書に書く内容も「箱をどうするか」から「人の時間をどう作るか」に移ったということです。前者は見積書で証明できます。後者は、日々の記録がないと証明できない。

あなたの法人は、その記録を持っていますか。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の詳細・募集要領は必ず所管の都道府県および各省庁の最新情報をご確認ください。


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