処遇改善加算 令和9年度 基本報酬に組込みか【2026】
月額1,000円。介護職員と全産業平均の賃金の差が、1年で縮まった幅です。
令和6年度の差は8.3万円、令和7年度は8.2万円。処遇改善加算を一本化し、加算率を引き上げ、令和8年度には臨時の報酬改定まで打ちました。それで1,000円です。この数字は私が計算したものではなく、全国社会福祉法人経営者協議会が国の審議会に提出した資料に「縮まった差は月額1,000円程度」とそのまま書かれています。
そして令和8年9月10日と14日、令和9年度の介護報酬改定に向けた意見交換会で、関係団体が同じ方向の要望を並べました。加算を増やすのではなく、基本報酬を上げてほしい。算定率の高い加算は基本報酬に組み込んでほしい。介護と障害と保育で、処遇改善の仕組みを一元化してほしい。
つまり、いま私たちが前提にしている処遇改善加算の区分そのものが、令和9年度に作り替わる可能性が出てきたということです。
1,000円という数字は、どこから出てきたのか
出所は、令和8年9月14日に開かれた社会保障審議会の介護給付費分科会(第266回)です。この日は「令和9年度介護報酬改定に関する意見交換会」の2回目で、テーマは居住系・施設系サービス。全国社会福祉法人経営者協議会をはじめ、介護人材政策研究会、全国個室ユニット型施設推進協議会、日本認知症グループホーム協会、全国介護事業者連盟などが順に意見を述べました。
その席に出された経営協の資料に、賃金の推移を並べたグラフがあります。厚生労働省の賃金構造基本統計調査などを出典に、全産業平均と介護、保育の月収を時系列で比べたものです。そこに添えられていた注記が、こうでした。
※ 縮まった差は月額1,000円程度
令和7年度時点で、介護は全産業平均と8.2万円の差。障害福祉分野は7.7万円差、保育は5.3万円差。前年度はそれぞれ8.3万円、7.8万円、5.7万円でした。資料の見出しには「累次の処遇改善でも全産業との大きな格差」と書かれています。
私はこの1枚を見て、しばらく手が止まりました。うちが日々お手伝いしている届出書類の山、キャリアパス要件の整備、賃金改善計画書の作り直し。あれだけの事務量を全国の法人が積み上げた先にある数字が、月1,000円だという話です。
もちろん加算そのものに効果がなかったわけではありません。令和6年6月の一本化と加算率引き上げ、その後の補助金と臨時改定がなければ、差はもっと開いていたはずです。ただ、他産業の賃上げが同時に進んでいる以上、追いかけるだけでは追いつかない。その構造が、この1枚で可視化されてしまった。
では、その「あれだけの事務量」の正体は何か。令和8年度の改定で、加算の形はどう変わったのでしょうか。
令和8年度改定で、加算は6つの区分に膨らんだ
厚生労働省の処遇改善のポータルサイトに載っている改定資料を開くと、令和8年度に何をしたかが1枚にまとまっています。
- 対象を介護職員だけでなく介護従事者へ広げ、幅広く月1.0万円(3.3%)の賃上げを実現する措置
- 生産性向上や協働化に取り組む事業者の介護職員に、月0.7万円(2.4%)の上乗せ
- 合計で、介護職員について最大月1.9万円(6.3%)の賃上げ(定期昇給0.2万円込み)
- 対象外だった訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援等に処遇改善加算を新設
この「上乗せ」を入れたことで、加算Ⅰと加算Ⅱがそれぞれイとロに割れました。結果、いまの区分は加算Ⅰイ、Ⅰロ、Ⅱイ、Ⅱロ、Ⅲ、Ⅳの6つ。訪問介護なら27.0%、28.7%、24.9%、26.6%、20.7%、17.0%。介護老人福祉施設と地域密着型介護老人福祉施設、短期入所生活介護なら16.3%、17.6%、15.9%、17.2%、13.6%、11.3%。通所介護は11.1%から8.3%まで6段階です。
新しく対象になったサービスの加算率は、訪問看護が1.8%、訪問リハビリテーションが1.5%、居宅介護支援と介護予防支援が2.1%。
「ロ」に行くための令和8年度特例要件は、ア、イ、ウの3択です。
- 訪問、通所サービス等はケアプランデータ連携システムに加入し、実績の報告を行う
- 施設サービス等は生産性向上推進体制加算ⅠまたはⅡを取得し、実績の報告を行う
- 社会福祉連携推進法人に所属していること
申請時点では加入や取得の誓約でよい、という配慮措置つき。さらに従来のキャリアパス要件ⅠからⅤ、職場環境等要件も並走しています。改善後賃金年額440万円という要件Ⅳは、いまも加算Ⅰと加算Ⅱの分岐点です。
6区分×サービス種別×要件の組み合わせ。この表を初めて見た事務長がどんな顔をするか、私は何度も立ち会ってきました。名古屋市内で特養と通所を併設している法人のA理事長は、この表をプリントアウトして机に広げたまま、「うちはどこに立っているのか」を確認するのに半日かけていました。
複雑さは現場だけの問題ではなかったようです。同じ複雑さを、団体は国に向かって突き返しました。
9月10日と14日、団体は「加算をやめろ」と言った
令和9年度改定に向けた議論は、これまでの「団体ヒアリング」から名前が変わりました。第266回の資料1には、社会福祉法等の一部を改正する法律(令和8年法律第51号)の施行により令和9年度から制度改正が行われることも踏まえ、団体ヒアリングを発展的に見直して「令和9年度介護報酬改定に関する意見交換会」を実施する、と書かれています。
日程は3回。9月10日の第265回が介護系居宅サービス等、9月14日の第266回が居住系・施設サービス等、続く第267回が医療系サービスと中山間・人口減少地域関係です。
この2回で出た発言が、そろっていました。
9月10日、地域共生ケア全国ネットワークは訪問介護について「一時的な補助や加算ではなく、基本報酬の引き上げを」と主張しています。全国ホームヘルパー協議会と日本ホームヘルパー協会も、提出資料の項目名そのものが「ホームヘルパーが専門を生かし、誇りを持って働き続けられるための基本報酬の引上げ」でした。
9月14日、全国介護事業者連盟は提出資料のサービス横断的な要望として、こう書いています。
③処遇改善加算の拡充・一部基本報酬への組み込みとともに、簡素化に向けた抜本的な加算の仕組みの見直し
本文はさらに踏み込んでいます。「極めて算定率の高い加算分類の基本報酬への組込みを検討くださいますようお願いします」。そして「令和8年度臨時報酬改定によって一層複雑となった処遇改善加算の簡素化に向けて、抜本的な仕組みの見直しをお願いします」。
加算をもっとくれ、ではありません。加算という形をやめてくれ、という要望です。同じ資料では、報酬改定のサイクルを診療報酬と合わせて2年に1度へ見直すことも求めています。
なぜここまで言うのか。経営協の資料に、もう一つの答えが書いてありました。「令和8年度改定は、ほぼ全て処遇改善に充当」。介護報酬プラス2.03%、障害福祉サービス等報酬プラス1.84%という改定率が、そのまま職員の処遇改善に流れて、法人の運営資金には回らなかった、という主張です。
もう一つ、聞き慣れない言葉が資料に並んでいました。一元化です。
「一元化」は事務の話ではなく、配分の裁量の話だ
経営協の提出資料の最終ページは、「介護、障害、保育における処遇改善の一元化」という1枚でした。現行の課題として挙がっているのは3つ。
- 職員間の処遇格差、不公平感
- 人事交流、一体的運用の阻害
- 過重な事務負担
これに対する要望が3つ。算定要件と加算構造の制度横断的な統一。法人裁量の拡大と、施設や事業所の間での柔軟な配分の受容。そして申請と報告の窓口の一元化、提出様式の共通化とデジタル化。
事務負担の話だと読み流すと、本質を取りこぼします。核は2つ目です。
いま、介護と障害と保育を併設している社会福祉法人では、同じ法人の職員でありながら、所属する事業によって処遇改善の原資も要件も別建てになります。介護の加算で増えた原資を保育の職員に回すことはできません。人事異動をかけると、その職員の賃金の根拠が事業をまたいで変わる。だから異動がかけにくい。人が足りない事業へ、法人の中で人を動かせない。
うちが決算期のバックオフィス支援に入る法人でも、この壁は毎年出てきます。介護部門は加算で原資があるのに、隣の保育部門は別の仕組みで動いていて、賃金テーブルが揃わない。揃えようとすると、法人単独の持ち出しになる。
「法人裁量の拡大、施設・事業所間の柔軟な配分受容」という一行は、この壁を壊してくれという要望です。もしこれが令和9年度改定で一部でも通れば、複数事業を持つ法人の人員配置の考え方は根本から変わります。
ただし、これはまだ団体の要望であって、国が決めたことではありません。決まったこととして社内に説明するのは、まだ早い。
それでも、なぜ団体がここまで強く出ているのか。数字を見ると理由がわかります。
収支差率1.1%、赤字法人39.4%という足場
経営協が令和8年7月にまとめた「令和9年度報酬改定に向けた調査」の集計結果が、同じ資料に載っています。709法人、特養621施設の経営状況を集計したものです。
- 社会福祉法人全体の収支差率 1.1%
- 赤字法人の割合 39.4%
- 介護サービス主体の法人 49.7%が赤字
- 特別養護老人ホームの収支差率 マイナス0.5%
特養は、平均で赤字です。5法人に2法人が赤字で、介護が主体の法人に限れば半分が赤字。資料は「賃金上昇、物価高騰の長期化、建築工事費の高騰等の影響で悪化」と説明しています。
この足場の上で、処遇改善加算だけが積み上がってきました。加算は職員の賃金に充てる原資であって、法人の運転資金ではない。当たり前のことですが、改定率がまるごと処遇改善に向かった年が続けば、法人の手元は薄くなる一方です。
もう一つ、同じ9月14日の意見交換会で出た数字を挙げておきます。生産性向上推進体制加算の特養での算定率は、加算Ⅱが50.3%、加算Ⅰが4.3%(いずれも今年4月時点)。加算Ⅱは半分の特養が取っているのに、加算Ⅰは20施設に1施設も取れていません。介護人材政策研究会は加算Ⅰと加算Ⅱをつなぐ中間区分の創設を提案し、経営協は見守り機器を全利用者に導入する負担を理由に段階的な評価を求めました。
加算Ⅰが4.3%という数字は、処遇改善加算の「ロ」にも効いてきます。施設サービスが特例要件イで「ロ」を取るには、生産性向上推進体制加算ⅠまたはⅡの取得が前提だからです。加算Ⅱで足りるとはいえ、加算の要件が別の加算の要件になっている入れ子構造そのものが、簡素化を求められている当のものです。
では、経営者は何から手を付ければいいのか。
加算に乗せた賃金設計を棚卸しする3つの手順
改定の結論が出るのは年明け以降です。それを待ってから動くと、就業規則の改定も労使の説明も全部が3月に集中します。いまのうちに、足場の確認だけは済ませておきたい。
うちがクライアントと一緒にやっている順番は、この3つです。
手順1 賃金のうち「加算が原資の部分」を金額で切り出す
基本給、固定手当、処遇改善に紐づく手当。この3つを職員ごとに分けて、加算が原資になっている金額が月いくらかを出します。法人全体の人件費のうち何パーセントが加算由来か、という1つの数字まで落とすところまでやってください。
この数字が大きいほど、加算の区分が変わったときに揺れます。加算が基本報酬に組み込まれれば原資の出所は変わりますが、要件が変われば配分ルールは作り直しになる。いくら揺れるのかを知らないまま来年を迎えるのが、いちばん怖い。
手順2 いま自法人がどの区分に立っているかを、サービスごとに書き出す
加算Ⅰイなのか、Ⅰロなのか。ロを取っているなら、その根拠は特例要件のア、イ、ウのどれか。誓約で算定しているなら、その誓約の履行期限はいつか。
複数サービスを持つ法人ほど、ここがばらけています。通所はケアプランデータ連携システムで、特養は生産性向上推進体制加算で、と根拠が分かれているのは正常ですが、誰も全体を書き出していないことが多い。A4の1枚にまとめておくと、来年の議論を追いかけるときの地図になります。
手順3 「一元化されたら得なのか損なのか」を法人として判断しておく
介護と障害と保育を併設している法人なら、一元化は追い風になる可能性が高い。人を動かせるようになるからです。一方、介護単独で加算Ⅰを取り切っている法人にとっては、制度横断の統一が加算率の平準化につながる可能性もある。
どちらに転んでも困らない準備、という逃げ方はしません。自法人にとってどちらが望ましいのかを先に決めておけば、パブリックコメントにも団体経由の意見にも動けます。決めていない法人は、決まったものを受け取るだけになる。
紹介手数料と処遇改善、原資をどちらに置くか
ここまで制度の話をしてきましたが、経営者として本当に判断が要るのは、たぶんこの一点です。
人が足りない。だから人材紹介会社に依頼する。決まれば手数料を払う。半年で辞めればまた払う。この循環にいくら使っているかを年額で出してみると、処遇改善で配れる原資と同じ桁に乗っていることがあります。
加算は職員の賃金に充てるルールがあるので、紹介手数料の代わりに使うことはできません。私が言いたいのは、原資の置き場所の優先順位の話です。定着に効く手当と、採用のたびに出ていく手数料。同じ法人の財布から出ていく以上、どちらを厚くするかは経営判断でしかありません。
先ほどのA理事長は、この夏に紹介経由の採用を1件止めました。代わりに、夜勤の回し方を変えて既存職員の負担を減らす方に予算を振った。正しかったかどうかは、まだわかりません。ただ、加算の区分を追いかけることと、人が残る職場を作ることは別の仕事だと、あの人は分けて考えていました。
月額1,000円。全産業との差は、その速度でしか縮まっていません。制度がどう作り替わっても、この現実は当面変わらないはずです。
だとすれば、来年の改定を待つ理由はどこにあるでしょうか。
出典・参考情報
- 第266回社会保障審議会介護給付費分科会 資料6(全国社会福祉法人経営者協議会 提出資料)(厚生労働省、確認日:2026年9月15日)
- 第266回社会保障審議会介護給付費分科会 資料12(全国介護事業者連盟 提出資料)(厚生労働省、確認日:2026年9月15日)
- 第266回社会保障審議会介護給付費分科会 資料1(令和9年度介護報酬改定に関する意見交換会・実施要領)(厚生労働省、確認日:2026年9月15日)
- 介護職員等処遇改善加算の拡充(令和8年度報酬改定)(厚生労働省 介護職員の処遇改善、確認日:2026年9月15日)
- 社会保障審議会(介護給付費分科会)直近の開催内容(厚生労働省、確認日:2026年9月15日)
- 「加算ではなく基本報酬の引き上げを」 来年度改定へ要望相次ぐ(介護ニュースJoint、2026年9月12日、確認日:2026年9月15日)
- 【介護報酬改定】生産性向上加算を「もっと使いやすく」 関係団体から見直し要求相次ぐ(介護ニュースJoint、2026年9月14日、確認日:2026年9月15日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の内容は今後の審議で変わる可能性があります。最新の情報は各公式サイトでご確認ください。
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