処遇改善加算 完全ガイド 2026 ─ 6月改定で何が変わるか
処遇改善加算の「3本柱」を知らないと、加算Ⅰは取れない
まず土台から確認したい。現在の介護職員等処遇改善加算は、2024年6月の改定で3つの旧制度が一本化されたものだ。
- 旧・介護職員処遇改善加算(賃上げの基本。キャリアパス要件が核心)
- 旧・介護職員等特定処遇改善加算(経験・技能のある介護職員への重点配分)
- 旧・介護職員等ベースアップ等支援加算(基本給・手当のベースアップ)
これが2024年6月に統合されて「介護職員等処遇改善加算(Ⅰ〜Ⅳ)」になった。算定率はサービス種別ごとに異なり、たとえば訪問介護は加算Ⅰで24.5%、加算Ⅳで12.4%という構造だった(2026年5月時点での現行率)。
この3本柱を理解しておかないと、2026年6月の改定で「何が変わったのか」が把握しにくい。処遇改善加算の要件は主に次の3層で成り立っている。
- キャリアパス要件:職位・職責・職務内容に応じた賃金体系の整備など
- 職場環境等要件:職場改善の取り組み(各区分で求められる取り組み数が異なる)
- 賃金改善要件:加算額を実際に賃金として支払うこと(ベースアップ等)
この3つがそろわないと加算Ⅰは算定できない。「とりあえず加算Ⅱで申請している」という施設も多いが、加算Ⅱと加算Ⅰでは加算率に大きな差がある。その差は2026年6月以降さらに広がる。
では、2026年6月の改定で何が起きるのか。次がその核心だ。
2026年6月改定で変わる加算率──上がる施設と上がらない施設はどこで分岐するか
2026年6月施行の介護報酬期中改定(令和8年度介護報酬改定について|厚生労働省)の全体改定率は+2.03%(国費+518億円)。これは通常の3年サイクルの改定ではなく、介護従事者の処遇改善を目的とした「期中の臨時改定」だ。
この改定の最大のポイントは2つある。
① 加算区分が6区分に再編される
現行の加算Ⅰ〜Ⅳの4区分が、2026年6月以降は「イ(従来要件)」と「ロ(生産性向上・協働化要件)」を組み合わせた計6区分に再編される。具体的には加算Ⅰイ・加算Ⅰロ・加算Ⅱイ・加算Ⅱロ・加算Ⅲ・加算Ⅳという構造になる(サービス種別によって設定区分は異なる)。
② 加算率が引き上げられる
訪問介護を例にとると、現行の加算Ⅰ(24.5%)は改定後の加算Ⅰイ(27.0%)に対応する。さらに生産性向上・協働化の取り組みを行う事業所が取れる加算Ⅰロは最大28.7%まで上昇する(令和8年度介護報酬改定に関する審議報告|厚生労働省)。
加算Ⅰロの「生産性向上・協働化要件」を満たすと、介護職員1人当たり月額7,000円の上乗せが実現する。介護職員全体としては最大月1.9万円(定期昇給0.2万円込み)の賃上げが可能になる設計だ。
ここで分岐が生まれる。従来の要件(キャリアパス・職場環境・ベースアップ)だけを満たしている施設は「イ」区分のみ取れる。生産性向上要件(ICT活用・業務改善の取り組み記録等)も満たせば「ロ」区分まで取れる。要件の整備に今から動けるかどうかが、6月以降の加算率の差を生む。
ただ、ここで見落としがちな話がある。新たに処遇改善加算の対象に加わったサービスの話だ。
訪問看護・居宅介護支援に新設された加算──管理者が5月15日に動かないと半年取れない
今回の改定で最も「気づいていない事業所が多い」と私が感じているのが、新規対象サービスへの処遇改善加算の新設だ。
2026年6月より、以下のサービスが新たに処遇改善加算の対象として追加される。
- (予防)訪問看護:加算率 1.8%
- (予防)訪問リハビリテーション:加算率 1.5%
- 居宅介護支援・介護予防支援:加算率 2.1%
これまで「処遇改善加算は介護系サービスだけの話」と思っていた訪問看護ステーションやケアマネ事業所が、今年の6月から申請できるようになる。
問題は届出の締め切りだ。新設サービスの体制届出期限は2026年5月15日、処遇改善計画書の提出期限は2026年6月15日となっている(令和8年3月13日付 厚生労働省老健局老人保健課事務連絡より)。
5月15日に体制届出を提出しないと、2026年6月1日からの算定が間に合わない。半年後の12月まで待つことになる。加算率1.8%や2.1%は小さく見えるかもしれないが、人件費ベースに乗じた金額で考えると、中規模の訪問看護ステーションでも年間で相当額の差になる。
「うちの事業所にも届出が必要とは知らなかった」という声が、この春あちこちから出てきている。今この記事を読んでいるあなたが訪問看護・ケアマネ事業所の管理者なら、今日中に計画書の準備に着手してほしい。
では、加算Ⅰロを取るために必要な「生産性向上要件」の中身を見ていこう。
生産性向上要件の正体──「Ⅰロ・Ⅱロ」で月額7,000円上乗せを狙う施設がやっていること
「生産性向上・協働化要件」という言葉は、最初に聞いたときは漠然としていて何をすれば満たせるのかが見えにくい。実際に要件を確認すると、大きく2つの柱がある。
① 生産性向上の取り組み
介護記録ソフトの活用、業務フローの見直し、センサー・ICT機器の導入など、「業務効率化の取り組みを記録・継続している」ことが求められる。既にICTツールを導入している施設は、その実績を記録として残しておくことで要件を満たしやすい。
② 協働化の取り組み
他の介護サービス事業者との連携や、職種間での業務分担・再設計を行っていることが評価される。たとえば介護職員と看護職員の業務境界の見直しや、外部サービスとの連携体制の構築などが該当する。
重要なのは、これらの取り組みを「やっている」だけでなく、書類に記録して届け出ていることだ。実態として動いていても書類化されていない施設は多い。うちのクライアントのA理事長(特別養護老人ホーム運営)も、ICT機器は入れているのに書類がなくて加算Ⅰロを諦めかけていた。実態を整理して文書化したら、要件を満たしていることがわかった。
生産性向上要件の詳細な確認・届出手続きは、厚生労働省の介護職員の処遇改善(制度概要)公式ページに様式とQ&Aが公開されている。処遇改善計画書の新様式(令和8年3月13日付通知で提示)に沿って作成することが必要だ。
次に、届出の全体スケジュールを確認しよう。
届出スケジュールと提出書類──5月15日を逃すと6月1日から算定できない
処遇改善加算の届出で混乱しやすいのは、書類が複数種類あり、提出先と期限がそれぞれ異なる点だ。整理しておく。
対象①:既存の処遇改善加算を算定している事業所- 体制届出(区分変更・加算率変更):2026年5月15日までに都道府県または市区町村の介護保険担当課へ提出
- 処遇改善計画書(新様式):2026年6月15日までに提出(様式が変更されるため要注意)
- 体制届出:2026年5月15日までに提出(これを逃すと6月1日からの算定不可)
- 処遇改善計画書:2026年6月15日までに提出
- 要件の取り組み実績を書類化した上で、体制届出時に加算Ⅰロ・Ⅱロを選択
- 特例として、令和8年度中(2026年度内)は移行準備期間として認められる可能性があるため、詳細は厚労省通知・都道府県担当課に確認
よくある失敗は「計画書は提出したが体制届出を出していなかった」というケースだ。体制届出と処遇改善計画書は別の書類で、提出先が異なる場合もある。都道府県によって提出窓口や様式が微妙に異なるため、必ず自治体の担当課に確認してほしい。
もう1つ気をつけたいのは、実績報告書の提出(翌年度)だ。処遇改善計画書に記載した賃金改善を実際に実施したかを報告する義務がある。計画書と実績が乖離すると、加算返還のリスクがある。計画書作成時から「どう賃金に反映するか」の設計まで一体で考えておく必要がある。
では、なぜ処遇改善加算を取れていない施設が生まれるのか。
加算を取り損ねている施設の共通点──あなたの施設は大丈夫か
私がこれまでクライアントの施設と向き合ってきた中で、処遇改善加算を取り損ねているケースには共通パターンがある。
パターン1:「事務担当者が変わったとき」に届出が止まった
処遇改善計画書・実績報告書・体制届出は毎年の業務だ。担当者が退職・異動したタイミングで「誰がやるのか」が不明確になり、気づいたら1年間届出を出していなかった──という事例を複数件見ている。加算は「申請している間は取れる」が「未申請は遡及できない」ため、空白期間は直接的な損失になる。
パターン2:キャリアパスの「文書化」が未整備
加算Ⅰの要件であるキャリアパスは、「制度がある」だけでなく「書面に明記されている」ことが必要だ。面接で口頭説明している、という状態では要件を満たさないと判断されるリスクがある。就業規則・給与規程・等級定義書の整備状況を今一度確認してほしい。
パターン3:職場環境等要件の取り組み数が足りない
加算Ⅰを取るには「職場環境等要件」として定められた取り組みを一定数実施することが必要だ(区分・サービス種別によって必要数が異なる)。この要件は毎年の改定で変更されるため、前回の計画書の内容が今年も有効かどうかを確認しないまま使い回しているケースがある。2026年6月改定後の様式・要件で改めて確認を。
この3パターンに当てはまると思ったなら、今月中に体制を確認することを強く勧める。5月15日まで1ヶ月を切っている。
2026年6月以降の加算設計──後手に回った施設がたどる最悪のルート
処遇改善加算は「取れるだけ取る」が正解ではない。加算率が高くなるほど、職員への賃金配分の設計が複雑になる。計画書に書いた配分比率が実態と乖離すれば、実績報告書での調整が必要になり、場合によっては返還が発生する。
だから、届出の前にやっておくべきことがある。
- 現在の人件費構造の把握:介護職員・他職種の基本給・手当の現状を棚卸しする
- 加算額の試算:算定する区分と加算率から、月間の加算収入の見込み額を計算する
- 配分ルールの設計:「介護職員に何%、他職種に何%」を明文化する(2026年改定では対象を「介護従事者全体」に拡大した分、設計の自由度が増したが責任も増した)
- 計画書と就業規則・給与規程の整合確認:計画書の記載が就業規則と矛盾していないかを確認する
「後手に回った施設がたどる最悪のルート」とはこうだ。届出を急いで出す→計画書の配分設計が甘いまま→実際の賃金改善が計画書と乖離→実績報告でNG→加算の一部返還→職員への説明が必要になる。このルートにはまると、加算で得たはずの利益が吹き飛ぶどころか、職員との信頼関係にも影響する。
今すぐ必要なのは「届出を急ぐ」ではなく「設計してから届出を出す」だ。5月15日の1週間前を目標に、設計と書類作成を終わらせておきたい。
リリーフでは、処遇改善加算の計画書作成・体制届出・実績報告書の作成支援を行っている。書類の作り方、配分設計の相談から都道府県への提出代行まで、まとめて依頼することもできる。
出典・参考情報
- 令和8年度介護報酬改定について(厚生労働省、確認日:2026年4月15日)
- 介護職員の処遇改善:TOP・制度概要(厚生労働省、確認日:2026年4月15日)
- 令和8年度介護報酬改定に関する審議報告(厚生労働省・社会保障審議会介護給付費分科会、確認日:2026年4月15日)
- 令和8年度版「介護職員等処遇改善加算」算定要件・配分ルール・計算方法(介護健康福祉のお役立ち通信、確認日:2026年4月15日)
- 【2026年6月施行】介護報酬改定で「処遇改善加算」はどう変わる?(社会保険労務士 Office ALMA、確認日:2026年4月15日)
※ 上記リンクは掲載時点(2026年4月15日)のものです。制度の詳細は各都道府県・市区町村の介護保険担当課にも確認してください。
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