障害福祉報酬改定 令和9年度 改定前に整える運営体制【2026】
「改定率が出てから考えればいいですよね」
愛知県一宮市で就労継続支援B型を運営するD管理者から、先週の夕方に電話をもらいました。私は受話器を持ったまま、すぐには返事ができませんでした。厚生労働省が8月27日に公表した資料を、ちょうどその日の昼に読み終えたところだったからです。
結果から書きます。令和9年度の障害福祉報酬改定について、事業所が何を問われるかは、改定率よりずっと前に、もう文章になって出ています。
8月27日の資料に、答えの半分はもう書いてある
令和8年8月27日(木)に第62回障害福祉報酬改定検討チームが開かれ、資料2として「令和9年度障害福祉報酬改定に向けた主な論点(案)」が示されました。厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部と、こども家庭庁支援局障害児支援課の連名の資料です。
資料に整理された論点(案)は4本あります。
- 持続可能なサービス提供体制の確保
- 希望する地域等での生活の支援や多様なニーズへの対応
- サービスの質の確保・向上と制度の持続可能性の確保
- 地域差や人口減少への対応等
資料には「上記の論点は現時点のものであり、今後議論を進めていく中で変更することがあり得る」という注記も付いています。確定事項ではありません。ただ、確定していないからといって読まない理由にはならない、と私は考えています。
4本のうち、事業所の日々の運営に一番直接ぶつかってくるのは3番目です。
名指しされたのは虐待防止措置・情報公表制度・業務継続計画
論点3の(1)は「事業者の質の確保」という見出しで、その中にこう書かれています。
虐待防止措置の実施や情報公表制度の対応、業務継続計画の策定など、事業者に求められる対応を着実に進めるための検討が必要ではないか。
3つとも、いま初めて出てきたものではありません。すでに義務化されている、あるいは経過措置を経て求められてきた対応です。それが改定の論点として改めて名前を挙げられた、という点に意味があります。
同じ箇所には、加算についての記述もあります。「本来の制度趣旨に沿わないで加算を算定する事業者も散見される」として、令和8年度の報酬改定でも一定の対応を図ったが、更なる対応を検討する必要があるのではないか、という書き方です。
あわせて、これまでに発出された3つのガイドライン、すなわち「指定就労継続支援事業所の新規指定及び運営状況の把握・指導のためのガイドライン」「共同生活援助における運営や支援に関するガイドライン」「障害福祉サービス事業者等の指定のガイドライン」の内容も踏まえて検討すべきではないか、と書かれています。就労継続支援と共同生活援助が、名指しで最初に挙がっています。
さらに、改正労働施策総合推進法の内容等を踏まえ、利用者の障害特性等も考慮しながらカスタマーハラスメント対策を検討する、という一文も入りました。職員を守る側の話が報酬改定の論点に入ってきたのは、現場を預かる立場としては歓迎したいところです。
ここまで読むと、次に出てくる問いは一つだと思います。うちの事業所は、この3つをどこまで説明できる状態か。
D管理者に、電話でお願いした3つの棚卸し
電話口でD管理者にお願いしたのは、資料を読むことではありませんでした。手元の書類を並べて、日付を見てください、という話です。
- 虐待防止措置:委員会の直近の開催日、研修の実施日と参加者名簿、責任者の氏名。この3つが1枚で出せるか。年度が変わって責任者が異動したまま、規程の名前が古いという事業所を私は何度も見ています
- 情報公表制度:最後に公表内容を更新したのはいつか。定員、職員数、加算の算定状況が今の実態と合っているか。実態とずれたまま公表されている状態は、質の確保という論点の下では説明が苦しくなります
- 業務継続計画:作った日付と、直近で訓練をした日付。策定済みでもファイルを開いたのが2年前、というケースが本当に多い
この棚卸しは、外注しなくても管理者と事務担当の2人で半日あれば終わります。逆に、半日で終わらなかったとしたら、それ自体が改定を待たずに手を打つべきサインです。
資料の<想定される検討事項>には「管理者等の要件や研修など、支援の質の確保を図るための方策」も挙がっています。管理者個人の力量ではなく、事業所として説明できる仕組みを持てているか。問われているのはそこだと受け止めています。
改定率が出てから動くのでは、たぶん間に合わない
D管理者の「改定率が出てから」という感覚は、まったく自然だと思います。経営者として最初に知りたいのは単価だからです。
それでも先に動くべき理由が、同じ資料の「はじめに」に書かれています。障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)の施行から20年が経ち、障害福祉サービス等の利用者は約170万人、国の予算額は約2兆3千億円で施行時と比べて約4.5倍になった、という記述です。
そして令和6年度の障害福祉報酬改定は改定率+1.12%でしたが、その後の総費用額は+12.1%の伸びとなりました。内訳は一人あたり総費用額が+6.0%、利用者数が+5.8%です。改定率の数字と、実際に動いた費用の数字が、これだけ離れている。
この状況を受けて、令和8年度には従事者の処遇改善に加え、サービスの質を確保しつつ制度の持続可能性を確保する観点から、臨時の報酬改定がすでに実施されています。
国の方針としても、経済財政運営と改革の基本方針2026(令和8年7月21日閣議決定)が同じ資料に参考として引かれ、障害福祉サービス等の費用の急伸への対応を含め、サービスの質の確保・向上と制度の持続可能性の確保のための報酬や制度の在り方を検討する、と書かれています。
質を説明できる事業所に配分し、そうでないところには配分しない。論点(案)の文章は、そう読めます。
就労系については論点3の(2)にも記述があり、新たに始まった就労選択支援の状況や「障害者就労に係る雇用福祉横断検討会」の議論の状況を踏まえて、更なる方策を検討すべきではないか、とされています。B型・A型を運営しているなら、この検討会の動きも並行して見ておく価値があります。
令和9年度の改定率も、個別の算定要件も、現時点では決まっていません。決まっていない部分を予想しても仕方がない。決まる前から書かれている部分を、先に埋めておく。私がD管理者に電話で伝えたのは、それだけです。
棚卸しをして、日付が古い書類が3つ出てきたら、そこが今日の仕事です。
出典・参考情報
- 第62回「障害福祉報酬改定検討チーム」資料(厚生労働省、令和8年8月27日開催、確認日:2026年9月5日)
- 令和9年度障害福祉報酬改定に向けた主な論点(案)(第62回 資料2・PDF)(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部/こども家庭庁支援局障害児支援課、確認日:2026年9月5日)
- 障害福祉サービス等報酬改定検討チーム 開催回一覧(厚生労働省、確認日:2026年9月5日)
- 経済財政運営と改革の基本方針2026(内閣府、令和8年7月21日閣議決定、確認日:2026年9月5日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。論点(案)は現時点のものであり、今後の議論により変更される可能性があります。令和9年度の改定率および個別の算定要件は本記事執筆時点で決定していません。
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