本部職員1名の採用と外注 コスト比較3点【2026】

火曜の16時、豊橋市の法人本部。事務室にいるのは理事長ひとりで、デスクの上には給与の確認印と請求の突合と来月の稟議が、同じ高さで積み上がっています。本部職員を1名採るか、外に出すか。その判断だけが、半年止まったままでした。

止まる理由はいつも同じです。採用の金額を、給与の金額だと思っている。ここがずれていると、比較そのものが成立しません。


年収400万円で採ると、会社の支払いはいくらになるのか

まず前提を置きます。以下は「年収400万円の本部職員を1名雇う」と仮定した場合の試算値です。実額ではありません。等級や賞与の払い方で動きます。

会社が負担するのは給与だけではありません。社会保険料の事業主負担が乗ります。厚生年金保険については、日本年金機構が「事業主と被保険者とが半分ずつ負担します」と明記しており、保険料率は18.3%で固定されています。健康保険料も同じ構造です。健康保険法第161条第1項は「被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料額の二分の一を負担する」と定めています(e-Gov法令検索)。

愛知県の健康保険料率は、令和8年度に10.03%から9.93%へ下がります(全国健康保険協会)。適用は本年3月分(4月納付分)からです。

この2つだけで計算してみます。

  • 厚生年金の事業主負担:400万円 × 18.3% ÷ 2 = 36万6,000円
  • 健康保険の事業主負担:400万円 × 9.93% ÷ 2 = 19万8,600円
  • 合計:約56万円(試算値)

採用する職員が40歳以上なら、ここに介護保険料率1.62%が加わります。事業主負担は半分で年3万2,400円、合計は約60万円です。さらに子ども・子育て支援金0.23%、労災保険、雇用保険が別に乗ります。

つまり年収400万円の求人票は、会社の財布から見れば456万円以上の意思決定です。ここまでは、計算すれば誰でも出せます。問題はこの先。


比較で抜け落ちる3点目が、いちばん効く

採用と外注を並べるとき、うちが必ず3つの軸で見ます。

1点目は、いま計算した法定福利費です。厚生年金と健康保険だけで、給与に対して約14%が自動的に上乗せされる計算になります。これを外して比較すると、外注が常に高く見えます。

2点目は、採用が決まるまでにかかる費用と時間です。紹介会社を使えば手数料が発生します。医療・介護分野でどの程度の水準なのかは紹介手数料の相場をまとめた記事に整理しました。求人媒体へ切り替えても、掲載費が消えるだけで応募が増える保証はありません。応募が来ない現場で効果があった経路を調べても、本部事務の職種は介護職よりさらに母集団が薄いのが実情です。

3点目が、抜けたときにゼロへ戻るリスク。これがいちばん重い。

本部職員が1名だと、その1名が業務のすべてを持ちます。給与ソフトのログイン情報も、行政への提出履歴も、加算の届出をいつ出したかも、その人の頭の中にしかない。退職の申し出があった瞬間、法人は引き継ぎ資料のない状態でゼロから採用をやり直します。この「やり直し」の費用は、比較表に一度も載りません。

豊橋の理事長も、まさにこれを一度やっていました。3年前に採った事務職員が1年半で辞め、そこから本部業務が理事長の机に戻ってきた。半年止まっていたのは、金額の問題ではなかったわけです。


これだけは外に出せない

とはいえ、全部を外注できるかというと違います。社会福祉法人の場合、線を引いているのは法律です。

社会福祉法第45条の13第2項は、理事会の職務として「社会福祉法人の業務執行の決定」「理事の職務の執行の監督」「理事長の選定及び解職」を定めています。さらに同条第4項は、理事に委任できない事項を列挙しています(e-Gov法令検索・社会福祉法)。

一 重要な財産の処分及び譲受け 二 多額の借財 三 重要な役割を担う職員の選任及び解任 四 従たる事務所その他の重要な組織の設置、変更及び廃止

ここは外注先が代行できる領域ではありません。逆に言えば、それ以外の作業は外に出せる余地があるということです。給与計算の入力、請求データの突合、加算届の書類作成、行政提出物のスケジュール管理。判断ではなく手を動かす部分は、法人の外にあっても成立します。

切り分けの基準はシンプルです。理事会や理事長の決裁が要る仕事か、決裁の材料を作る仕事か。後者を紙に書き出すと、想像より長い一覧になるはずです。


判断を止めているのは、たいてい金額ではない

採用と外注の比較で本当に見るべきなのは、月あたりの支払額ではありません。その業務が止まったとき、翌月の請求と給与が出せるかどうかです。

1名採用は、うまくいけば人件費456万円で本部が回ります。ただし、その1名が抜けた瞬間に業務がゼロへ戻る構造を同時に買うことになる。外注は月額が見えやすい代わりに、社内に知見が残りにくい。どちらにも穴があります。

うちがよく提案するのは、決裁の材料を作る作業を外に出し、法人には決裁と最終確認だけを残す形です。理事長が握り続けるのは第45条の13が求める部分だけにする。3年求人を出して応募が2件だった歯科のように、採用の入口自体が塞がっている法人なら、選択肢はさらに絞られます。

豊橋の事務室は、いま理事長の机の上が半分空いています。積んであった稟議は残っていて、給与と請求の束だけがなくなった。半年止まっていた判断は、外注か採用かではなく「どこまでを自分の仕事と決めるか」で動きました。

あなたの法人の本部は、いま何人で回っていますか。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度・料率は改定される場合がありますので、実務判断の際は必ず最新の公式情報をご確認ください。本文中の金額は年収400万円と仮定した試算値であり、実額を保証するものではありません。


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