3年出して、応募は2件です

8月の頭、名古屋市内の歯科医院に伺いました。院長のデスクの端に、求人媒体の請求書が3枚重ねてありました。「3年出して、応募は2件です」。

この院長の出し方が下手だったわけではありません。歯科衛生士の採用は、求人の書き方を工夫してどうにかなる段階を、すでに越えています。

令和8年6月、全国歯科衛生士教育協議会が養成校の調査結果を公表しました。その数字を読んでから、私は歯科の採用相談への答え方を変えました。


入学者が1年で537名減りました

調査は一般社団法人 全国歯科衛生士教育協議会「歯科衛生士教育に関する現状調査の結果報告」(令和8年6月)です。対象185校のすべてから回答を得た、回収率100%の全数調査になります。

令和8年度の全国の入学定員は9,856名。これに対して入学者数は7,876名で、前年と比べて537名減りました。入学定員充足率は79.9%です。

定員割れを起こした養成校は74.5%。この調査が始まって以降で最も高い割合だと報告書は書いています。志願者倍率も0.95倍と、1倍を割りました。

定員が埋まらないのではありません。応募が定員に届いていない。

入口が細っています。

この状況で2年後3年後に世の中へ出てくる歯科衛生士の数は、養成校の入学者数の推移がそのまま天井になるので、個々の医院がいま求人にいくら投じても増やしようがありません。動かせない前提として置くしかない、というのが私の見方です。


求人人数倍率23.1倍は「順番待ち」ではありません

同じ報告書に、就職側の数字も載っています。令和7年度の卒業者数は7,249名、就職者数は6,616名、就職率91.3%。求人件数は83,850件、求人人数は152,550名で、就職者に対する求人人数倍率は23.1倍でした。

23.1倍という数字を、順番が回ってくる待ち行列だと受け取ると読み違えます。1人の就職者に対して23の席が用意されていて、22は誰も座らないまま年度が終わる、という意味です。

そして報告書は、求人倍率を地区別に比較すると東海と関東/甲信越が高かった、と書いています。うちの本拠地である東海圏は、全国平均よりさらに椅子が余っている側です。

一方で、働いている人の総数は減っていません。厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」によれば、令和6年末現在の就業歯科衛生士は149,579人で、前回(令和4年)に比べ4,396人、率にして3.0%増えています。うち診療所勤務が90.6%、人数にして135,499人です。

増えている。それでも足りない。

理由は分母です。厚生労働省「医療施設動態調査(令和8年5月末概数)」では、歯科診療所は65,057施設あります。診療所で働く135,499人を65,057施設で割ると、1施設あたり約2.1人(試算値)。

2人の職場から1人が抜ければ、診療体制は半分です。求人倍率がどうという以前に、歯科医院というのは1人の離職がそのまま売上とチェアの稼働に直撃する規模で回っている、ということになります。

そこが問題の芯だと思っています。


採用単価を上げても届かない層がある

採用がうまくいっていない医院ほど、次の一手として求人媒体の掲載枠を上げます。気持ちはよく分かります。私も何度も相談を受けてきました。

ただ、勝負の場所として不利です。

医療施設動態調査の開設者別の表を見ると、歯科診療所65,057施設のうち、個人が開設しているものが46,654施設。医療法人は17,686施設です。7割が個人開設という業界で、掲載単価の競り上げを続けて勝ち残れる医院は多くありません。

年齢構成も見ておく価値があります。歯科衛生士で最も多い年齢層は25〜29歳の13.4%、20,043人。この層は、給与の絶対額だけで職場を決めていません。結婚・出産・転居が重なる時期で、勤務時間の読みやすさと持ち帰り業務の少なさが効いてきます。

給与テーブルを1万円動かすには、資金繰りの見直しと院内の合意が要ります。持ち帰り業務を1つ減らすのは、来週からできる。

採用に使える武器のうち、金額でない部分は、まだほとんどの医院で手つかずです。


あの院長に私が勧めたのは、採用の話ではありません

名古屋の院長には、求人原稿の直し方を提案しませんでした。代わりにお願いしたのは、衛生士が1週間で何をしているかを書き出すことです。

手順は3つだけにしました。

  1. 衛生士の1日の動きを1週間分、時間帯つきで書き出す(診療の合間の作業も全部)
  2. そのうち歯科衛生士の資格が要らない業務に線を引く
  3. 線を引いた業務から、事務職へ移すものと外に出すものを決める

実際に書き出してみると、レセプトの入力補助、材料の在庫発注、リコールのはがき作成、求人応募への一次返信、シフト調整の連絡がずらりと並びます。どれも国家資格は要りません。

衛生士でなくてもできる。

うちがバックオフィス支援に入るときも、最初にやるのはこの棚卸しです。契約書を交わす前に、まず何を渡せるのかを一緒に線引きする。渡せる業務が見つからなければ、外注する意味はないと申し上げます。

採用をやめろと言っているのではありません。募集は続けてください。

ただ、養成校の入口が細り、東海圏の求人倍率が全国より高い状況で、次の1人が来るまでの期間は長くなります。その間に今いる衛生士が疲れて辞めれば、振り出しどころか後退です。

採用で人を増やすまでの時間を、今いる人が辞めない状態で買う。日曜に考えるなら、私はこちらを先に決めることをお勧めします。

あの院長は結局、リコールのはがきと在庫発注を先に外へ出す判断をしました。求人はまだ埋まっていません。それでも、辞めたいという相談は止まっているとうかがっています。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度・統計は更新される場合がありますので、最新情報は各公式サイトでご確認ください。


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