適時調査の指摘事項 診療所が9月までに直す3点【2026】

いちばん返還金が出ているのは、個別指導でも監査でもありません。適時調査です。私はずっと逆だと思っていました。

令和6年度の返還金額は全体で48億5,333万円。うち適時調査によるものが22億9,921万円で、指導による17億2,536万円を5億円以上うわまわっています(厚生労働省「令和6年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況」)。

そして適時調査で何を見られたのかは、毎年公表されています。読める資料が出ているのに、読まれていない。


返還金48億円、内訳の順番が逆だった

指導と監査、それに適時調査。この3つのうち、いちばん怖いのはどれかと聞かれたら、たいていの院長先生は「監査」と答えます。私も最初はそう思っていました。

数字は違いました。令和6年度の返還金額の内訳はこうです。

  • 適時調査による返還分:22億9,921万円
  • 指導による返還分:17億2,536万円
  • 監査による返還分:8億2,876万円

監査は最も重い手続きですが、対象になる件数がそもそも少ない。令和6年度に保険医療機関等の指定取消・指定取消相当となったのは、全国で23件です。一方で適時調査は同じ年度に2,729件、うち医科が2,722件で実施されています。

件数が多くて、金額も大きい。日常的に当たる可能性が高いのは、監査ではなく適時調査のほうでした。


1件あたりに直すと、差は4倍になる

もう少し踏み込んでみます。

令和6年度の個別指導は2,494件、新規個別指導は5,989件。合わせて8,483件(2,494+5,989)に対して、指導による返還分は17億2,536万円でした。1件あたりに割り戻すと、およそ20万円になります(試算値)。

適時調査は2,729件で22億9,921万円。1件あたりでおよそ84万円です(試算値)。

約4倍。件数が少ないほうが、1件あたりでは重い。

理由ははっきりしています。指導は診療内容や請求の妥当性を個別に見ますが、適時調査が見るのは施設基準です。施設基準は「届け出た時点から要件を満たしていなかった」となれば、そこから先の算定分がまとめて返還対象になる。1回の指摘が、月単位ではなく年単位で効いてくるわけです。

ちなみに集団的個別指導は令和6年度に15,506件。個別指導の実施件数は、医科・歯科・薬局ごとの類型区分ごとに全保険医療機関等の4%程度を実施することとされています(東海北陸厚生局「集団的個別指導及び個別指導の選定の概要について」)。呼ばれるかどうかを気にする時間があるなら、施設基準の中身を見直したほうが早い。


東海北陸厚生局が挙げた、診療所でも起きる3つの指摘

東海北陸厚生局は、令和6年度の適時調査で改善を求めた主な指摘事項を公表しています(東海北陸厚生局「令和6年度に実施した施設基準等に係る適時調査において保険医療機関に改善を求めた主な指摘事項」)。愛知・岐阜・三重・静岡ほかを所管する厚生局の資料です。うちのクライアントにも直接あてはまります。

このなかから、無床の診療所でそのまま起きうる3つを挙げます。

1. 届出事項が変わったのに、届け出ていない

資料には「届出事項に変更が生じた場合は、速やかに東海北陸厚生局長へ届け出ること」とあり、対象として診療時間、保険医の異動、保険医の勤務形態、診療科目の変更が名指しされています。

診療時間を30分だけ延ばした。非常勤の先生の曜日が変わった。常勤が週4日勤務になった。どれも院内では「ちょっとした変更」で処理されがちですが、施設基準の要件そのものに触る変更です。

先日も岐阜市の内科の先生から、「4月に外来の受付時間を変えたが、届出は出していない」と相談を受けました。カルテにも掲示にも反映されている。厚生局にだけ届いていない。よくあります。

2. 院内掲示が、届出どおりになっていない

同じ資料に、届け出た施設基準について「名称が誤っている例、一部掲示されていない例又は届出をしていない事項を掲示している例」が見受けられたと書かれています。届出のとおりにすべて掲示すること、と。

3種類あることに注意してください。名称の誤り、掲示漏れ、そして届け出ていないものを掲示しているケース。3つ目がいちばん危ない。届出のない加算名が壁に貼ってあれば、算定していなくても説明を求められます。

あわせて、療養の給付と直接関係ないサービス等の費用徴収について、同意の確認を文書で行っていない例も指摘されています。文書代や診断書の実費まわりです。

3. ベースアップ評価料の算出を、9月にやり忘れる

ここが今いちばん近い期限です。

資料には、当該評価料を算定する保険医療機関は毎年3、6、9、12月に所定の算出を行い、区分に変更が生じた場合は算出を行った月に変更の届出を行うこと、と明記されています。そのうえで、令和6年9月および同年12月に所定の算出を行わなかったことにより区分変更の届出が行われなかったことが判明した、という指摘が実例として載っています。

年4回。3月・6月・9月・12月。次は9月です。

この算出は、忘れていても誰からも連絡が来ません。届出は「変更が生じたときだけ」出すものなので、算出そのものをやらなければ、そもそも変更に気づかない。気づかないまま算定を続けて、適時調査で遡られる。実際にそうなった医療機関が、令和6年度の指摘として記録されているわけです。


9月が来る前に、誰がやるかを決める

この3つに共通しているのは、難しさではありません。担当者が決まっていないことです。

届出事項の変更は、勤務シフトを組む人と届出を出す人が別なら、まず抜けます。院内掲示は、貼った人がその後見ていません。ベースアップ評価料の算出は、給与計算と施設基準の両方をまたぐので、どちらの担当も「相手がやっている」と思っている。

だから対策も1つです。9月に入る前に、次の3つを紙に書いて決めてください。

  • 年4回の算出を、毎回誰が起票するか(3月・6月・9月・12月の月初にリマインド)
  • 診療時間・保険医の異動・勤務形態・診療科目が変わったとき、誰に情報が集まるか
  • 院内掲示と届出内容の突き合わせを、年に何回・誰がやるか

院内でやりきれるなら、それがいちばん安い。ただ、無床の診療所で事務が2〜3人という体制だと、この3つは「誰かの余力」に乗ってしまう。余力は真っ先に消えます。

うちが事務長アウトソーシングでお預かりする範囲も、まさにここです。毎月の請求業務ではなく、年に数回しか発生しないのに漏れると高くつく作業。月1回からでも、算出月のリマインドと届出の突き合わせだけを外に出す形は組めます。

返還金22億9,921万円のうち、どれだけが「担当が決まっていなかった」で説明できるのか。厚生局の資料を読んでいると、そう思わずにいられません。

9月まで、あと半月ちょっとです。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の詳細および最新の取扱いは、必ず所管の地方厚生局にご確認ください。


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