機能強化加算のBCP 日医ひな形を使う3条件【2026】
先週の金曜、名古屋市内の無床診療所。事務長のDさんは、デスクに手引きのPDFを2種類並べたまま、どちらを開いても手が止まっていた。業務継続計画を、どこから書き起こすか。
「これ、全部うちで埋めるんですか」。事務室に入って最初に出てきたのが、その一言だった。
その3日前、厚生労働省は「日本医師会のひな形を参考にしてもよい」と明記した事務連絡を出している。Dさんはまだ、それを知らなかった。
9月2日、厚労省が答の中にURLまで書いた
厚生労働省保険局医療課が2026年9月2日付で発出した「疑義解釈資料の送付について(その12)」。令和8年6月1日から実施されている診療報酬改定の取扱いについて、別添1から別添4までをまとめたものです。
その別添1に、【機能強化加算、在宅療養支援診療所・病院】という見出しの問7があります。
質問はこうです。機能強化加算及び在宅療養支援診療所・病院で新たに策定することが要件となった業務継続計画について、これまで示されていた参考資料は2つでした。基本診療料の側(令和8年3月5日 保医発0305第7号)が「医療機関(災害拠点病院以外)における災害対応のためのBCP作成の手引き」、特掲診療料の側(同 保医発0305第8号)が「BCP策定の手引き」。この2つ以外に、日本医師会が作った診療所用のひな形を参考にしてもよいか、と。
答は、参考としてもよい。しかも珍しいことに、答の本文に日本医師会のページURLがそのまま書き込まれています。国の事務連絡が、業界団体の様式を名指しでリンクした。
そのページには、2026年8月12日付で3点が掲載されています。
- 業務継続計画BCP(白紙様式)
- 業務継続計画BCP(外来診療のみ実施する医療機関向けの記載例)
- 業務継続計画BCP(在宅医療を実施する医療機関向けの記載例)
無床診療所なら、外来診療のみの記載例が土台になります。在宅を回している診療所は、もう一方。Dさんがにらんでいた手引きは、どちらも「作り方の解説書」でした。今回参照が認められたのは、解説書ではなく埋める前の様式そのものです。この差は、着手までの時間で言えば数日分あります。
そのまま出して通るのか。答の後段に条件が3つある
ひな形が使える、で読むのをやめると危ない。答には続きがあります。
なお、いずれを用いた場合も、各医療機関や地域の特性、市町村の個別避難計画等を踏まえて、必要に応じて追加・削除等した上で記載するとともに、作成した計画を職員に適切に周知すること。また、作成した業務継続計画は定期的に更新することが望ましい。
ここから、診療所側に残る宿題が3つ読み取れます。
- 地域の特性と市町村の個別避難計画を踏まえて、追加・削除する。ひな形は全国共通なので、浸水想定も、停電時の想定も、その土地の話は入っていません。自院の所在地のハザードマップと、市町村が作っている個別避難計画。この2つを開かずに埋めた計画は、地域の実情を聞かれた瞬間に止まります。
- 作成した計画を職員に適切に周知する。ここは「望ましい」ではなく言い切りです。院長と事務長だけが中身を知っている状態は、周知したことになりません。
- 定期的に更新する。こちらは「望ましい」。ただし望ましいと書かれた項目ほど、後から確認されたときに何も出てこない。
うちが支援に入っている診療所には、周知の記録を1枚だけ残してもらっています。配った日付、参加した職員名、説明に使った資料。A4で1枚です。計画本体を100点にするより、この1枚がある方が説明できる。
逆に言えば、施設名と院長名だけを差し替えて提出した計画は、提出という行為が終わっただけです。要件を満たしたかどうかは、そのあとの運用で決まります。
同じ事務連絡に、診療所が落としやすい問がもう2つ
その12は業務継続計画だけの通知ではありません。無床診療所の日常業務に直接ぶつかる問が、あと2つ入っています。
健診と同じ日に、保険診療の検査を出したとき
別添1の問10。同一日に1回の受診で健診等と保険診療を実施し、健診の一環として採血した血液を保険診療の検査に回した場合、検体検査料等をどう算定するか。
答は明快です。健診等の一環として実施する検体採取の手技について、診断穿刺・検体採取料は算定できない。検体検査実施料と検体検査判断料も、原則として算定できない。
ただし例外が2つ、条文の形で示されています。
- 健診等を実施した保険医療機関で、当該受診日より前から診療中の疾患に関する継続的な疾病管理の一環として、健診等の受診の有無にかかわらず、予め保険診療として実施を予定していた検査
- 健診等の検査結果を踏まえ、治療方針を確立する必要が生じたため、別途追加で保険診療として行う検査
「前から診ている疾患か」「健診結果を受けて必要になったか」。この2軸で分かれます。秋から冬にかけて健診の枠を増やす診療所ほど、レセプト前に一度整理しておく価値があります。
常勤がいない診療所の、常勤換算数
別添2の問1。ベースアップ評価料等の対象職員について、常勤職員がおらず非常勤職員のみで運営している場合、常勤換算数をどう出すか。
答は、非常勤の対象職員の1週間における所定労働時間の合計を「32時間」で除する。32という数字が明示されました。自院の就業規則上の所定労働時間ではありません。
常勤の看護職員や事務職員を置かず、パートだけで回している診療所は珍しくない。分母を勘違いしたまま届出を出していると、評価料の区分がずれます。
作るのは1日。詰まるのは、そのあとの運用だ
ひな形が公認された今、業務継続計画そのものは1日あれば形になります。外来のみの記載例を落として、自院の連絡網とハザードマップを差し込む。そこまでは事務長ひとりで届く。
止まるのは、周知と更新です。誰がいつ配るのか。人が入れ替わったら誰が説明するのか。年1回の見直しを、誰のカレンダーに置くのか。ここを決めずに提出した計画は、1年後には誰も置き場所を思い出せなくなる。私が見てきた中では、これが一番多い。
もう1つ。疑義解釈は、その11が令和8年7月30日、その12が今回の9月2日と、6月の改定後も出続けています。6月に一度確認して終わり、という運用では追いつかない。
月に1度でいい。厚生労働省の疑義解釈のページを開いて、自院に関係する加算の名前でPDF内を検索する。それだけで、Dさんのように3日遅れで知ることはなくなります。
そして、そこで見つけた宿題を誰が処理するのか。院長が診療の合間に読むのか、事務長が閉院後に読むのか、外に出すのか。決めるのは、今日でもできます。
出典・参考情報
- 疑義解釈資料の送付について(その12)(令和8年9月2日 事務連絡)(厚生労働省保険局医療課、確認日:2026年9月9日)
- 令和8年度診療報酬改定について(疑義解釈資料 掲載ページ)(厚生労働省、確認日:2026年9月9日)
- 診療所用 業務継続計画(BCP)のひな形について(日本医師会、確認日:2026年9月9日)
- 疑義解釈資料の送付について(その11)(令和8年7月30日 事務連絡)(厚生労働省保険局医療課、確認日:2026年9月9日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の詳細および最新の取扱いは、必ず一次情報および所管の地方厚生(支)局へご確認ください。
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