令和9年度介護報酬改定 基本的な視点5点と適正化【2026】

「うちが何年もかけて取ってきた加算、次は減らされる側なんですか」

10月1日の朝7時過ぎ、名古屋市内で訪問介護と居宅介護支援を営む法人のB社長から、LINEでこの1行が届きました。添付は厚労省のPDFの最後のページのスクリーンショットで、一文にだけ赤線が引いてありました。私は「まだ何も決まっていません」と打ちかけて、消しました。決まっていないのは単位数だけで、向かう方向はもう紙に書いてあったからです。

B社長が送ってきたのは、9月30日に出たばかりの令和9年度介護報酬改定の「基本的な視点(案)」です。あの朝の質問に答える順番で、中身を開いていきます。


9月30日、厚労省は次の改定の骨組みを5点にまとめて出した

令和8年9月30日、第268回 社会保障審議会 介護給付費分科会に、資料1として「令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」が提示されました。冒頭にはこれまでの経緯が書かれています。

令和9年度介護報酬改定に向けて、本年4月以降、計9回にわたり社会保障審議会介護給付費分科会において、各サービスや横断的課題について議論を行うとともに、関係団体等と3回の意見交換会を行った。

半年分の議論を、厚労省は「概ね次の5点に集約されるものと考えられる」としてまとめました。並びはこうです。

  • 第1の視点 物価・賃金の上昇等への対応と処遇改善
  • 第2の視点 人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築
  • 第3の視点 地域包括ケアシステムの深化
  • 第4の視点 職場環境の改善と生産性の向上を通じたサービスの質の向上及び介護人材の確保
  • 第5の視点 制度の安定性・持続可能性の確保

位置づけも明記されています。令和9年度から始まる第10期介護保険事業計画期間は、85歳以上人口が増える2040年を見据えた取組を本格化させていく時期だ、と。単位数も改定率もまだ白紙です。それでも、この5行から外れた加算が新しく生まれることは、まずありません。

ただ、5点を同じ重さで読むと読み違えます。


第1の視点だけを読んで安心すると、来年の4月に慌てる

報道の見出しになったのは第1の視点でした。資料1は、令和7年度介護事業経営概況調査で全サービスにおける赤字事業者の割合は約4割になっていると書いています。介護サービスは公定価格なので、物価や賃金の上昇によるコストの増加を事業者自らサービス価格に反映することが困難だ、とも認めました。

そのうえで第1の視点は、物価や賃金の上昇等を介護報酬に適切に反映し、他職種と遜色のない処遇改善を実現すると続きます。現場からすれば、ようやく国が言葉にしてくれた、という話です。処遇改善加算そのものの行方は9月15日の記事で書いたので、ここでは繰り返しません。

B社長が引っかかっていたのは、そこではありませんでした。最後のページ。第5の視点です。


第5の視点の一文に、減る側の加算が書いてある

原文をそのまま引きます。

必要な介護サービスを確保しつつ、サービス提供の実態等をきめ細かく把握した上で、介護報酬の評価の適正化・重点化を進めるとともに、報酬体系の整理・簡素化を図ることにより、介護保険制度の安定性・持続可能性を確保していくことが必要である。(資料1)

その直前には、近年は特に現役世代を中心に保険料負担の増加に対する懸念が示されていると書かれています。上げる話と絞る話が、同じ資料に同居しているわけです。

私はこの一文を3つの動詞に分けて読んでいます。適正化は、実態に比べて手厚すぎる評価を下げること。重点化は、上げる先を絞ること。整理・簡素化は、加算の数や区分を減らすこと。どれも厚労省がそう定義したわけではなく、Reliefとしての読み方です。

見落とされがちなのが「サービス提供の実態等をきめ細かく把握した上で」という前置きでした。どこを下げるかは、データを見て決めると言っているに等しい。事業者がいま国に出している経営情報が、その材料の1つになると私は見ています。報告の再開と期限は9月21日の記事にまとめました。

じゃあ、B社長の法人は減らされる一方なのか。そうとは限りません。


在宅系の事業所にも、「取りにいける側」の席が用意される

第4の視点には、「居宅系サービスも含めた AI 等の介護テクノロジーの活用」という言葉が入りました。介護助手などへの業務の振り分けとあわせて生産性向上を進め、職員の負担を軽くする、という筋立てです。

テクノロジーの活用を後押しする評価は、これまで施設系サービスが中心でした。介護ニュースJointは、訪問介護や通所介護・居宅介護支援などの事業所を対象に生産性向上の取り組みを介護報酬で後押しできないか検討する方針だと報じています。同じ記事によれば、8月の審議会で評価のあり方が今後の論点として示されていて、講じる施策のアウトラインは年内に固める方針です。

B社長の事業所は、訪問記録の大半がまだ紙とFAXで回っています。新しい加算の要件が出たとき、いちばん困るのはこういう事業所です。

第3の視点の書きぶりも、同じ方向を向いています。状態の維持・改善や生活の質の向上につながる介護を推進し、その成果を適切に評価するとともに、LIFEの一層の活用等を通じた科学的介護を推進する。成果で評価するという言い回しは、重点化の行き先を示すヒントだと私は読んでいます。

第2の視点にも、在宅系の経営者が確認すべき箇所があります。中山間地域の加算のあり方の見直しが、名指しで書かれました。中山間地域の加算を算定している事業所は、他人事で済ませないほうがいい。


年内のアウトラインまでに、経営者が手を付けておく3つ

単位数が出てから表を作り始めると、届出の準備と重なって手が回りません。数字が決まっていない今だからこそ、できることがあります。

  1. 算定中の加算を、5つの視点のどれに紐づくかで仕分ける。処遇改善や生産性向上につながる加算は重点化の側、算定率が高く実態との差を問われそうな加算は適正化の側。事業所別に1枚の表にしておけば、改定案が出た日に影響額を試算できます。
  2. 居宅系なら、テクノロジーを入れている業務を書き出す。記録と請求、ヘルパーとの連絡、ケアプランの共有。どこが紙で、どこが端末か。要件が「何を導入しているか」で決まるなら、この1枚で判定がつきます。
  3. 国に出している自法人の数字を、自分の言葉で説明できるようにする。経営情報の報告内容と決算の数字がずれていないか。適正化の議論の材料になるなら、出した数字は自分たちを守る根拠にもなります。

B社長には、その日の昼に長めの返信を送りました。減らされるかどうかは、まだ誰にも分かりません。ただ、減らされたときに「何がいくら減るか」をその日のうちに言える法人と言えない法人の差は、もう今月から開き始めています。

あなたの法人で、いま算定している加算を5つの視点に仕分けたら、いちばん多く並ぶのはどの視点でしょうか。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度・統計の内容は改定される場合がありますので、最新情報は各公式サイトでご確認ください。


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