歯科技工所ベースアップ支援料 算定漏れ4つと実績報告【2026】
木曜の夜8時、岡崎市の歯科医院の待合室。月1回の定例ミーティングで、受付リーダーのBさんが技工所の請求書を4か月分、長椅子に並べています。「支援料がどこに入っているのか、紙を見ても分からないんです」。
6月から算定している歯科技工所ベースアップ支援料(技工所で働く歯科技工士の賃上げを、歯科医院の診療報酬から後押しする仕組み)の話です。合計額は確かに増えていました。けれど15点ぶんがどの行に含まれているのか、請求書のどこにも書かれていない。
これは困ります。
私が事務を見ている歯科医院でも、届出が受理されたあとは算定をレセコン任せにしているところがほとんどです。届出から4か月。確認しておきたいことは3つあります。請求書の書き方の不備、レセプトに出てこない算定の取りこぼし、そして令和9年に来る2つの山です。
請求書に支援料の行がない。それだけで根拠書類が欠ける
まず骨格から。点数は1装置につき15点で、装着(M005またはN008)の算定時に算定します。院内の歯科技工士が作った補綴物は対象外です。
施設基準の通知には、はっきりこう書かれています。「当該支援料を全て歯科技工所への委託費の増額に充てること」。受け取った点数は、全額を技工所への支払いに上乗せするのが条件です。
では、技工料とひとまとめに払ってよいのか。この点は疑義解釈(その4・令和8年4月21日)の問4に答えがあります。まとめて払うこと自体は差し支えない。ただし、支援料が含まれていると分かる請求書等を、算定の書類として保存することが求められています。ここが落とし穴でした。
Bさんの医院で欠けていたのは、まさにこの「分かる」の部分でした。支払いの総額は増えていても、請求書の上で支援料が見えなければ、全額を充てたことを紙で示せません。
その場で決めたことは2つ。来月分から技工所に「うち歯科技工所ベースアップ支援料相当額」の1行を入れてもらうこと。過去4か月分は、内訳を書いた書面を技工所からもらって請求書と一緒に綴じること。この書類は算定する年度の終了後3年間の保管が必要です。
取りこぼしやすい算定は4つ。答えはどれも疑義解釈にある
書類を直したあと、同じ席でレセプトも見直しました。厚労省の疑義解釈で「算定できる」と示されているのに、受付やレセプト担当が迷った末に外してしまいがちなケースは、私が見てきた範囲では次の4つに集中しています。
- 患者さんが来なくなった補綴物。完成しているのに装着できない場合でも、未来院請求時に算定して差し支えないとされています。
- 届出前に製作が始まっていた補綴物。疑義解釈(その9・令和8年6月26日)で対象になると示され、装着時に算定できます。
- 磁性アタッチメントの義歯。キーパー付き根面板と有床義歯は別装置なので、それぞれの装着料の算定時に支援料も算定できます(疑義解釈その5・令和8年5月8日)。
- 鉤と義歯修理をあわせて算定するとき。義歯修理の装着料の算定時に、支援料を算定して差し支えないとされています。
逆に、算定できないと明示されたものもあります。鉤の製作に係る技術料と材料料だけを算定する場合は対象外です。帯環を含む固定式矯正装置は同一装置の扱いで、算定は1回だけ。
もう1つ見落としやすいのが算定日です。装着の費用が含まれる支台築造や暫間歯冠補綴装置、3次元プリント有床義歯などは、各区分の算定日に算定すると整理されています。装着日を待っていると、ずっと算定されないまま残ります。要注意です。
Bさんの医院では、6月以降の未来院の補綴物が1件見つかりました。たった1件です。けれど、その15点も技工所に渡すべきお金です。
15点の行き先は1つだけ。院内に残せる分はない
ここは院長の判断が要る部分です。医院の収入は増えません。全額を技工所への委託費の増額に充てるのが施設基準なので、医院の手元には残らない設計です。
増額に伴って増える消費税分については、支援料を充てても差し支えないとされています。消費税の扱いで迷って支払いを止めている医院があれば、まずここを確認してください。
技工所の側も、この制度を注視しています。日本歯科技工士会など歯科技工関連の三団体は、2026年4月8日に日本歯科医師会へ要望書を提出し、支援料の適切な運用と会員歯科医師への周知を求めました。
うちが勧めているのは、月1回の突合です。レセコンから支援料の算定回数を出し、技工所の請求書にある支援料相当額と並べる。ずれていたら、その月のうちに技工所へ連絡する。15分もかからない作業です。やらずに放っておくと、1年分の請求書を引っ張り出して算定回数と突き合わせる羽目になり、そのツケは来年8月の報告書作成のときにまとめて回ってきます。
令和9年は6月と8月に山が来る
1つ目は6月。令和9年6月以降は所定点数の100分の200に相当する点数で算定します。点数が今の2倍になれば、技工所へ上乗せする金額も2倍。月の補綴物が多い医院ほど、支払いの増え方は大きくなります。技工所との取り決めは、春までに見直しておくべきです。
2つ目は8月の実績報告です。東海北陸厚生局の案内では、支援料は令和8年度においては実績報告書・中間報告書ともに提出不要とされていました。今年の8月に何も出していなくても問題はありません。出さなくて正解です。
初回は令和9年8月で、令和8年度の賃金改善の支援状況を報告します。その翌年、令和10年8月には令和9年度分です。算定期間は6月から翌年5月で区切られています。
報告の時期になってから10か月分の請求書を掘り返すのは、かなりつらい作業になります。支援料の行が入った請求書と、月1回の突合表。この2つが揃っていれば、来年8月の報告は転記で終わります。
定例ミーティングの翌朝、Bさんは技工所の担当者にメールを1通送っていました。件名は「請求書の書式について」です。
出典・参考情報
- ベースアップ評価料 特設ページ(厚生労働省、確認日:2026年10月17日)
- 令和8年度診療報酬改定の概要【歯科】(抜粋)(厚生労働省保険局医療課、確認日:2026年10月17日)
- 特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(令和8年3月5日保医発0305第8号)(抜粋)(厚生労働省、確認日:2026年10月17日)
- 疑義解釈資料の送付について(その4_令和8年4月21日事務連絡)(抜粋)(厚生労働省、確認日:2026年10月17日)
- 疑義解釈資料の送付について(その5_令和8年5月8日事務連絡)(抜粋)(厚生労働省、確認日:2026年10月17日)
- 疑義解釈資料の送付について(その9_令和8年6月26日事務連絡)(抜粋)(厚生労働省、確認日:2026年10月17日)
- 令和8年6月以降に初めてベースアップ評価料の算定を始める歯科診療所(歯科技工所)(厚生労働省、確認日:2026年10月17日)
- 歯科技工所ベースアップ支援料届出様式の書き方(2026年4月版)(厚生労働省、確認日:2026年10月17日)
- ベースアップ評価料の届出について(東海北陸厚生局、確認日:2026年10月17日)
- 歯科技工関連三団体が日本歯科医師会へ要望書を提出(日本歯科技工士会、確認日:2026年10月17日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。施設基準の取扱いは地方厚生局により運用の細部が異なる場合があるため、最終的な判断は管轄の地方厚生局へご確認ください。
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