運営指導の準備 通知後では間に合わない3つの記録【2026】
運営指導の準備は、通知が届いてから始める。この常識のままでは間に合いません。
見られるのは前年度から直近1か月前までの記録で、通知が届いた日には、その大半がもう書き終わっているからです。名古屋のデイサービスで先月見た光景と、うちが支援先と毎月回している3つの点検の話をします。
名古屋市内で通所介護を2か所運営しているC理事長の事務所に伺ったのは、運営指導の通知が届いて5日後でした。会議室の机に、利用者ファイルが30冊ほど積んである。管理者と事務員の2人が、付箋を片手に1冊ずつめくっていました。
「1か月あれば、揃えられますよね」
C理事長にそう聞かれて、私は「揃えることはできます。中身は変えられません」と答えました。言い方がきつかったかもしれない。それでも、そこを曖昧にすると準備の方向そのものを間違えます。
見られる記録の期間は、国のマニュアルで決まっている
厚生労働省の介護保険施設等運営指導マニュアル(令和4年3月策定・令和6年7月改訂)には、通知の時期と確認する記録の範囲がはっきり書かれています。
通知は、緊急時などを除き、実施予定日のおおむね1月以上前までに届きます。確認の対象は「運営指導を行う年度の前年度から直近(おおむね1月程度前まで)の実績」です。今年度の運営指導なら、昨年度の4月分の記録から見られる可能性がある、ということになります。
名古屋市の場合、時間はもっと短い。名古屋市の案内では、通知が届いたらサービス種別ごとの自己点検シートに記入し、運営指導の概ね7日前までに提出するよう求めています。地域密着型通所介護も、通所介護の自己点検シートを使います。通知から当日までの約1か月のうち、最後の1週間はもう手が離れている計算です。
マニュアルには、もう一つ重い一文があります。保存すべき文書がないといった不明点が見つかれば、それより過去までさかのぼって確認せざるを得なくなる。そうなれば法令違反や不正の可能性があるため、監査を実施する必要があると書かれています。
通知後の1か月でできるのは、すでにある記録を探して並べることです。書かれていない記録を、後から正しく作ることはできません。日付をさかのぼって書き足すのは、準備ではなく別の問題を作る行為です。
では、膨大な記録のどこを見られるのか。ここで多くの理事長が安心しすぎます。
選ばれるのは利用者3名分。その3名は選べない
マニュアルは、利用者の記録を確認する対象を、特に必要と判断する場合を除き原則として3名以内としています。居宅介護支援事業所は、介護支援専門員1人あたり1名から2名です。
3名なら何とかなる、と考えたくなります。けれど誰の記録を見るかを決めるのは事業所ではありません。マニュアルには、その3名程度の確認で不明な点が多く見つかれば、他にも問題がある可能性が高いとして監査の実施も考えられるとあります。3名は「3名だけ整えればいい」ではなく、事業所全体の縮図として扱われるわけです。
通所介護の場合、国の確認項目及び確認文書(マニュアル別添)に並ぶのは、たとえば次のような書類です。
- 通所介護計画(利用者又は家族の同意があったことがわかるもの)
- アセスメントの結果がわかるもの、モニタリングの結果がわかるもの
- サービス提供記録と、送迎記録がわかるもの
- 勤務体制一覧表などの勤務実績、タイムカードなどの勤怠記録、資格証の写し
C理事長の事業所で付箋が一番多く貼られていたのは、モニタリングでした。計画の見直し時期は過ぎているのに、結果の記録が半年分抜けている利用者が数名いた。どの3名が選ばれても大丈夫、とは言えない状態です。
そしてもう一つ、確認文書の一覧だけを見て準備すると外れる領域があります。
加算だけは、確認文書の一覧の外まで見られる
マニュアルは運営指導の範囲を絞っています。確認項目以外の項目は特段の事情がない限り確認せず、確認文書以外の文書は原則求めない。事業所の負担を減らすための決まりです。
例外が加算です。各種加算の請求については、人員体制に関するもの等の他は確認文書に限定せず、それぞれの要件にかかる文書等を求めると書かれています。算定している加算の数だけ、見られる書類が増えるということです。
要件の理解を誤って一つでも満たしていなかった場合は、その加算について自己点検の上、過誤調整を行うよう指導されます。不正ではなくても、返還の話になる。この点は運営指導 加算の返還リスクが残る3つの理由で詳しく書きました。
C理事長の事業所で、算定している加算の一つについて要件書類を一覧にしようとしたら、事務員さんの手が止まりました。どの書類が要件のどこに対応しているのか、誰も通しで説明できなかった。担当者が一昨年に退職していたからです。
記録は通知の後では直せない。加算の書類は一覧の外まで見られる。だとしたら、点検は通知と関係なく回すしかありません。
通知を待たずに、毎月回している3つの点検
マニュアルも、事業所自身による自己点検が望ましいとし、法令遵守責任者の指揮の下で自己点検を行うことが期待されると書いています。うちが事務支援に入っている法人では、月末に次の3つを回しています。
1. 利用者3名をくじで選び、記録を通しで読む
名簿からくじで3名を選びます。居宅サービス計画と通所介護計画の同意から始めて、アセスメントとモニタリングを経てサービス提供記録と送迎記録まで1人ずつ通しで読む。選ぶ人を事業所側が決めないのがポイントです。1か月に3名なら、1時間あれば終わります。
2. 算定中の加算ごとに、要件と書類の対応表を1枚作る
加算の要件を1行ずつ書き出し、その横に「どの書類のどこで確認できるか」を書く。対応する書類が空欄の行が、運営指導で一番困る行です。担当者が辞めても説明できる状態にしておくのが目的なので、1回作れば毎月の更新は数分で済みます。
3. 勤務表とタイムカードと資格証を、月1回だけ突き合わせる
人員基準は、勤務体制一覧表の上では満たしていても、タイムカードとずれていることがあります。有休や急な欠勤の穴埋めが記録に残っていない月は、特に要注意です。資格証の写しは、新しく入った職員の分が抜けやすい。
3つとも、通知が届いてからやると1か月では終わりません。毎月やれば、1回あたりは半日もかからない。
C理事長の事業所は、運営指導の当日を何とか乗り切りました。文書指導が2点。どちらもモニタリングの記録でした。翌月から、くじ引きの箱が事務所の棚に置いてあります。
次の通知がいつ届くかは、事業所の側では分かりません。分かっているのは、そのとき見られる記録の多くが、今月と来月に書く記録だということくらいです。
出典・参考情報
- 介護保険施設等運営指導マニュアル(令和4年3月策定・令和6年7月改訂)(厚生労働省、確認日:2026年10月08日)
- 介護保険施設等運営指導マニュアル 別添 確認項目及び確認文書(厚生労働省、確認日:2026年10月08日)
- 介護保険施設等運営指導マニュアル(掲載ページ)(厚生労働省、確認日:2026年10月08日)
- 自己点検シート(名古屋市 介護・障害情報提供システム、確認日:2026年10月08日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の運用は自治体ごとに異なる場合があるため、最新の情報は指定権者の案内をご確認ください。
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