診療所の立入検査(医療監査)当日の準備【2026】

88病院中、55病院。令和6年度に厚生労働省が立入検査に入った特定機能病院のうち、指摘事項等があった施設の数です(特定機能病院に対する立入検査結果(令和6年度))。

医療安全の体制がいちばん厚いはずの病院群で、この数字が出ている。そして同じ医療法第25条第1項に基づく検査は、職員5人の無床診療所にも来ます。

私は普段、クリニックのバックオフィスを外から回す仕事をしています。立入検査の前月に「何を出せばいいのか分からない」と相談が入るのは、毎年この時期です。今日は、令和8年度の通知と名古屋市の実施方針を突き合わせて、診療所が実際に何を準備することになるのかを整理しておきます。


令和8年度の通知は病院向け。ただし診療所も名指しされている

厚生労働省医政局長は令和8年6月12日付で「医政発0612第10号」を出しました。毎年度更新される、立入検査の実施通知です。

この通知は建て付けとしては病院向けです。ただし本文にこう書かれています。

本通知を参考に立入検査を実施していただき診療所についても検査の必要性に基づいて適宜対応をお願いします。

つまり「病院向けの中身を、診療所にも必要に応じて当てる」という構造。診療所側から見れば、病院と同じ論点で聞かれる可能性があるということになります。

もうひとつ、今年度の通知で押さえておきたい点が2つ。

  • 立入検査要綱等の改訂は令和9年度を予定と明記されている。令和8年度は現行要綱のまま、来年度に枠組みが動く
  • オンライン診療について「自由診療の場合も含め、病院又は診療所に加え、オンライン診療受診施設についても、報告徴収・立入検査を行い、また、是正命令等を行うことが重要である」と書かれている

オンライン診療を回している診療所は、診療計画を定めて2年間保存することが通知上の求めになっています。ここは検査の場で紙を出せるかどうかがそのまま結果になる論点です。


指摘の中身は、設備ではなく書類と体制に寄っている

冒頭の令和6年度の結果をもう少し開きます。88病院のうち指摘事項等があったのが55病院、なかったのが33病院。口頭指摘事項は合計114件でした。

内訳の上位はこうなっています。

  • 事故等報告書の作成、登録分析機関への提出等 ── 27件
  • 医療の安全管理のための体制の確保 ── 15件
  • 医薬品、医療機器の安全管理のための体制の確保 ── 13件
  • 院内感染対策 ── 12件

建物の話ではありません。指針があるか、研修をやったか、記録が残っているか。全部、事務の話です。

特定機能病院には専任の医療安全管理部門があります。それでもこの件数が出る。専任がいない無床診療所で同じ論点を突かれたとき、何が起きるかは想像がつくはずです。


名古屋市の22項目。診療所が落とすのはこのあたり

自治体はこの通知を受けて、自前の実施方針を作ります。名古屋市の令和8年度名古屋市無床診療所立入検査実施方針は、基本的検査項目を(1)から(22)まで並べています。根拠として引いているのは愛知県保健医療局長通知(令和7年8月4日付け、7医務第1118号)です。

22項目を全部覚える必要はありません。うちで見ていて「当日に慌てる」のは、だいたい次の4つに寄ります。

健康診断が非常勤・派遣まで届いていない

方針にはこう書かれています。「職員(非常勤職員や派遣職員も含む)について定期的な健康診断を行う等適切な健康管理体制が確立されていること」。常勤だけ回して、週2のパート看護師が抜けている。これがいちばん多い。

諸記録の保存年限を勘違いしている

処方せん・検査所見記録・エックス線写真等の保存について、方針は「保存期間は、病院の基準に準じて最低2年間の保存が望ましい」としています。カルテ5年と混ぜて覚えていると、検査の場で説明が止まります。

サイバーセキュリティ対策チェックリストを埋めていない

(21)は「医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」に提示されている項目により、管理者が遵守すべきとされている必要な措置を講じているか確認する、という書き方です。厚労省のチェックリストがそのまま検査の物差しになっている。埋めていなければ、当日に埋めることはできません。

美容系の自由診療をやっている場合

(18)には「特に、美容系の自由診療を行っている診療所については、開設者及び非営利性に関して十分な確認をすること」とあります。保険診療の横で自由診療のメニューを増やしてきた診療所は、開設者と運営実体の関係を説明できる状態にしておいたほうがいい。


当日、会場に並べる書類は6分類。印刷しなくていいものがある

名古屋市は当日準備書類の様式まで公開しています(立入検査実施時に検査会場に用意していただく書類等について)。分類は6つ。

  1. 従事者等に関すること(出勤簿、免許証の写し、臨床研修修了登録証の写し、健康診断記録)
  2. 医療安全等に関すること(各種指針・マニュアル、研修記録、個人情報保護の規定ほか)
  3. 諸記録に関すること(カルテ、処方せん、検査所見記録、麻薬帳簿ほか)
  4. その他管理に関する書類(委託契約書、マニフェスト、開設届の控えほか)
  5. 診療用放射線に関すること(指針、照射録、個人被ばく線量測定結果ほか)
  6. 医師の働き方改革(追加的健康確保措置)チェックリスト関連

ここで見落とされがちな3点を挙げます。

ひとつ。カルテは「5名分程度」、照射録は「5枚程度」と分量が指定されています。全部積む必要はない。

ふたつ。「電磁的記録の場合は、画面での確認をさせていただきますので、印刷する必要はありません」と明記されています。電子カルテの中身を紙束にする作業は、そもそも要りません。

みっつ。サイバーセキュリティ対策チェックリストは「事前提出不要」、働き方改革の書類は「面接指導対象医師が無い場合は準備不要」。該当がなければ用意しなくていい、と様式のほうが先に言っています。

毎年ここを読まずに全部揃えようとして、事務が1週間潰れる。逆です。様式を先に読めば、やらなくていい作業のほうが先に確定します。


準備を「検査の月だけ」やるから、毎年しんどい

立入検査の準備は、突き詰めると「日常の記録が残っているか」の確認作業でしかありません。指針は一度作れば残る。研修は年間計画に入れれば残る。健康診断は雇用時に台帳へ入れれば残る。

しんどくなるのは、検査通知が届いてから1年分をさかのぼるからです。

うちが診療所に入るときは、22項目を月次のチェック単位に割り直します。指針・規定のような一度作れば済むものは年1回の棚卸し、研修と健康診断は実施月を固定、記録類は月末に所在だけ確認する。この形にすると、検査月にやることは「並べる」だけになります。

名古屋市の無床診療所向けページは毎年4月頃に様式が更新されます。令和8年度分はすでに出ています。通知が来てから読むのではなく、様式を先に見て、足りない項目を今月中に1つ埋める。それだけで来年度の負荷は変わります。

令和9年度には要綱そのものの改訂が予定されています。枠組みが動く前に、記録の置き場所を整えておく年だと考えています。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度・様式は改正される場合がありますので、実務では必ず最新の公表資料と所管保健所の指示をご確認ください。


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