社会福祉法人 理事会の決議事項6つと理事長の報告【2026】
「決裁印、うちは私が全部押してますよ」
名古屋市内の社会福祉法人、A理事長がそう言ったのは、会食の席でのことでした。自慢でも愚痴でもなく、当たり前の事実として口にされたのが、かえって引っかかりました。
全部見ている法人ほど、法律上どうしても理事会で決めなければならない事項が抜けます。理事長の目が細部に届いているぶん、機関決定の線引きが後回しになるからです。
理事会でなければ決められない、6つ
社会福祉法第45条の13第4項は、理事会が理事に委任できない事項を6つ列挙しています。条文の言い方は「次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を理事に委任することができない」です(社会福祉法/厚生労働省 法令等データベース)。
- 重要な財産の処分及び譲受け
- 多額の借財
- 重要な役割を担う職員の選任及び解任
- 従たる事務所その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
- 理事の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他の体制の整備(内部管理体制)
- 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第114条第1項の準用による、理事の責任の免除
ここで理事長の決裁がどれだけ丁寧でも、代わりにはなりません。決裁は執行の話で、この6つは機関決定の話だからです。線が違います。
5つ目の内部管理体制については、事業規模が政令の基準を超える法人(特定社会福祉法人)では、理事会が決定しなければならないと定められています。その基準は、経常的な収益の額が30億円を超えること、または負債の合計額が60億円を超えること(社会福祉法施行令第13条の3)。分園や事業所を増やしてきた法人は、自分がどちら側にいるのかを一度確かめてください。
名古屋市の80件、指摘が最も集中したのは理事会だった
名古屋市が公表した令和7年度の社会福祉法人指導監査の結果を見ます。所管226法人のうち実施は80件。そのうち74件(92.5%)に文書指摘がありました。文書指摘は合計317件、1法人あたり平均は約4.0件です(前年度は約4.9件)。
内訳の上位はこうなっています。
- 評議員会の招集・運営 57件
- 評議員の選任 48件
- 理事会の審議状況 40件
- 会計管理の規程・体制 39件
- 会計処理 31件
そして主な指摘一覧には、この一文が並んでいます。「理事会の決議を要する事項について、もれなく決議を行うこと。」(令和7年度社会福祉法人指導監査の結果について(資料2)/名古屋市)
もれなく、という言葉が使われている意味は重いと思っています。手続きを間違えたのではなく、そもそも議題に上げていないという指摘だからです。理事長が判断して前に進めた。それ自体は誰も止めない。ただ、議事録には何も残らない。
三月に一回。ここを飛ばすと、決裁の正しさを誰も証明できない
もうひとつ、同じ指摘一覧に置かれているのが理事長の報告義務です。社会福祉法第45条の16第3項は、理事長と業務執行理事について「三月に一回以上、自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない」と定めています。定款で毎会計年度に4月を超える間隔で2回以上と定めた場合だけが例外です。
名古屋市の指摘は、さらに一歩踏み込んだ書き方をしています。「定款の定めに基づき、必要な回数以上、実際に開催された理事会において報告すること。」
実際に開催された、の五文字です。決議の省略(いわゆる書面決議)で回数を埋めた法人が、それなりにあったということでしょう。年3回の理事会で回している法人は、報告の回数が定款の定めに届いているか、議事録の日付を並べて数えるだけで分かります。
この報告が積み上がっていない法人は、理事長がどれだけ正しく決裁していても、正しかったことを外部に示す材料を持っていません。監査で困るのはそこです。
理事長が見なくていいものを、先に決める
本部の業務負担を減らしたい、と相談をいただくとき、私はまず外注できる業務を探しません。決裁の線引きから入ります。順番が逆だと、外に出してはいけないものまで一緒に流れていくからです。
やることは3つです。
- 法定6事項と、定款で理事会付議とされている事項を1枚に書き出す。定款は法人ごとに上乗せがあります。法律だけ見ていると足りません。
- 直近1年の理事会議事録と突き合わせる。書き出した項目のうち、実際に決議された記録がないものに印を付ける。これが監査で名指しされる候補です。
- 残った事項を職務権限規程で下ろす。金額と種類で階層を切り、理事長の決裁を「上げる必要があるものだけ」に絞る。
3つ目まで終わって、はじめて本部業務のどこを外に出すかという話になります。事務長機能の外注も、経理のクラウド化も、線が引けていない法人に入れると混乱が増えるだけです。
全部押している、という状態は、責任感の表れであって、体制の説明にはなりません。次の理事会の議題を組む前に、議事録を一年分めくってみてください。抜けているものは、たいてい同じ場所に固まっています。
出典・参考情報
- 社会福祉法(昭和26年法律第45号)(厚生労働省 法令等データベースサービス、確認日:2026年9月11日)
- 社会福祉法施行令(昭和33年政令第185号)(厚生労働省 法令等データベースサービス、確認日:2026年9月11日)
- 令和7年度社会福祉法人指導監査の結果について(資料2)(名古屋市健康福祉局、確認日:2026年9月11日)
- 社会福祉法人指導監査(名古屋市健康福祉局、確認日:2026年9月11日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度・様式は改正されることがあります。実際の手続きは所轄庁の最新の案内をご確認ください。
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