保育所の監査 標準様式で変わる準備3点【2026】

保育所の監査は自治体ごとにやり方が違うから、事前に備えようがない。この常識は、もう外れています。

こども家庭庁が全国標準の監査調書一覧と自己点検票を整えました。しかも「本標準様式は、令和8年度にシステムへの実装を行う」と明記されています。様式が国で揃うということは、指摘の付き方も揃うということです。

園長が読むべきは様式そのものではありません。そこに埋め込まれた「指摘のランク分け」のほうです。


「うちの市はこう」が通じなくなる、その理由

標準化の出発点は、行政側の困りごとでした。こども家庭庁「保育所等の監査業務の標準化に関する補足説明資料」には、こう書かれています。

自治体毎に監査調書の項目等に差分があるという課題を踏まえ、標準的な監査調書等を整備すべく、各様式の検討を実施した。本標準様式は、令和8年度にシステムへの実装を行う。

用意されたのは3点セットです。監査調書一覧、事務フロー、そして自己点検票(標準様式)。狙いも資料に書いてあります。「監査に係る事務手続の簡略化を実現し、保育業務ワンスオンリーを目指す」。同じ情報を何度も出させない、という意味です。

令和8年度は各様式をエクセルで使う移行期、令和9年度以降は保育業務施設管理プラットフォーム上での運用に切り替わる。つまり園にとっては、来年度が最後の助走期間になります。

そして助走期間のあいだに掴んでおくべき情報が、様式の中にひとつ隠れています。


指摘には3つのランクがある。改善報告書が飛ぶのはどれか

ここが本題です。標準の監査調書一覧では、各項目にあらかじめ評価区分が振られています。3種類あります。

  • 文書指摘事項:関係法令・関係通知等に違反する場合は原則これ。改善報告書の提出を要する
  • 口頭指摘事項:改善が見込まれる場合、自治体の判断で文書指摘から変更できる。改善報告書は不要
  • 助言指導事項:努力義務規定違反、口頭指摘に至らない軽微な指摘、水準向上のための助言

これまで園側から見えにくかったのは、真ん中の線引きでした。同じ不備でも報告書が要るのか要らないのか、担当者の胸ひとつに見えていた。標準様式は、その判断の観点を2つ書き下しています。

ひとつは軽微な違反の観点。「単発的な事務処理のミス等で、修正が容易又は、指摘時点での修正対応が可能な場合」。もうひとつは経過措置の観点。「施設の開設初年度等で初めての監査実施であり、実際の運営や安全に大きな支障がない、かつ、再発リスクが低い場合」。

読み替えると、こうなります。単発のミスで、その場で直せて、繰り返していない。この3条件を満たす不備は口頭で終わる余地がある。逆に言えば、常態化した不備や安全に関わる不備は、初回だろうと文書指摘です。

では、この線引きを味方につけるには、監査当日に何を準備すればいいのか。答えは、当日ではありません。


勝負は事前提出の欄で、すでに終わっている

自己点検票(標準様式)施設監査(A)保育所を開くと、末尾に【事前提出書類】と【事前提出情報】という2つの欄があります。

事前提出書類として挙がっているのは、給食献立表、運営規程、要覧・入園のしおり、建物の平面図、勤務シフト表、全体的な計画、長期的な指導計画、短期的な指導計画。私立保育所ならこれに会計書類が加わります。

事前提出情報のほうが重い。専用設備の面積に加えて、「児童の数と担当する職員の数」を監査実施前月の1日時点から直近12か月分書かせる欄がある。月ごとの0歳児から5歳児までの人数と、各年齢を担当する保育士の常勤・非常勤の数です。

これを監査通知が来てから12か月分さかのぼって埋めるのは、率直に言って地獄です。うちが支援している園でも、この手の遡及集計は現場を何日も止めます。逆に、毎月の締めのついでに1行ずつ足していれば、提出は数分で終わる。

自己点検項目そのものも軽くありません。保育所の標準様式は121番まであり、最後は「経理規程に従って会計処理が行われているか」で終わります。設備、職員、保育内容、給食、健康管理、会計と、園の全部が並んでいる。

そしてこの121項目、毎年ぜんぶ見られるわけではありません。ここに来年の負担を左右する仕掛けがあります。


去年の指摘が、来年の手間を決める

監査調書一覧には「毎年の確認を任意とする項目」という列があります。定義はこうです。

「直近の監査において指摘があった場合」又は「図面の変更有と回答があった場合」を除き、毎年の確認を任意とする項目。

裏を返せば、直近で指摘を受けた項目は翌年も必ず確認される。指摘を1件残すことは、来年の監査の確認項目を1つ増やすことと同じです。

事前提出情報の冒頭に「昨年度監査時からの図面の変更 有・無」というチェックがあるのも、同じ設計です。有と答えれば設備関係の確認が復活する。無と答えるなら、答えの根拠を園が持っていなければいけません。

そもそも実地監査の頻度自体、園ごとに変わり得ます。児童福祉行政指導監査の実施について(通知)は「原則として、年度ごとに1回以上、実地による検査を行うこと」としたうえで、例外的に実地によらない検査を認めています。その判断材料が、前年度の実地検査の結果、設置してからの年数(3年経過が目安)、都道府県の前年度の実施率が5割以上であること。

前年の結果が、翌年の扱いに効く。制度の設計思想はここで一貫しています。


令和8年度までに、園がやることは3つ

優先順位をつけるとこうなります。

1. 標準様式の自己点検票を、監査がない年にも1回通す。121項目を年1回自分で潰しておけば、監査通知が来てからの作業は差分だけになります。同じ通知は「あらかじめ自主点検表を提出させる等、指導監査の能率的な実施方法を併用して差し支えないこと」と書いており、事前点検は行政も想定内です。

2. 児童数と職員数の12か月表を、毎月更新する台帳に変える。監査のたびに作る資料ではなく、常時ある台帳にしてしまう。配置基準の自主点検にもそのまま使えます。

3. 前回の指摘事項を一覧化し、再発していないかを確認する。指摘が残っている項目は翌年も必ず見られる。ここを潰すのが、確認項目を減らす唯一の方法です。

3つとも、監査対応というより日常の運用設計の話です。年に一度の行事として身構えるから、毎回ゼロから資料を作ることになる。台帳と点検票を回しておけば、監査は台帳を印刷する日になります。

様式が全国で揃うということは、準備の型も全国で揃うということ。型が公開されている以上、備えていない理由のほうが説明しづらくなっていきます。


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