歯科衛生士 採用 復職者層を狙う3つの求人設計【2026】

新卒採用に毎年お金をかけ続けるのは、実は歯科診療所の採用戦略として構造的に正しくない。 理由は単純だ。毎年7,000人前後しか生まれない新卒市場に、全国の歯科診療所10万件弱が群がっている。どれだけ求人票を磨いても、採れる枠はそもそも限られている。 一方、潜在層には出産・育児・結婚・体調を理由に離職した歯科衛生士が相当数いる。彼女たちは「戻りたい気持ちはある」が、戻れる職場を見つけられていない場合が多い。今日はこの「復職者層を狙う求人設計」を3つに絞って書く。

就業者が毎年増えているのに採用難が深刻化する理由

厚生労働省の令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者の概況)では、就業歯科衛生士数が令和6年末時点で149,579人と報告されている(日本歯科衛生士会 就業者数ページでも確認済み)。令和4年末の145,183人と比べると4,396人の純増だ。 数字だけ見れば増えている。なのに現場の採用担当から「全然集まらない」という声が絶えないのはなぜか。 歯科診療所で就業する135,499人(全就業者の90.6%)が担っているのは、クリニック数でいえば約10万軒の診療に相当する需要だ。診療所は廃業より開業が多い傾向が続いており、需要の絶対値が増え続けている。つまり「就業者が増えているのに、診療所1件あたりの確保が難しい」という構造になっている。 新卒市場が1万人を切っている中で需要増に対応しようとすれば、どこかで「別の層」を狙うしかない。

免許保有者の「半数超」は潜在層。M字カーブが生む採用チャンス

歯科衛生士の復職に関する調査(Apotool)によると、免許の登録数が298,644件に対し就業者は142,760人という時点の数値が示されており、「免許を持っていながら就業していない人が半数以上を占める」と報告されている(直近の令和6年末時点でも同様の傾向は続いていると各媒体が報告している)。 この未就業層の離職理由トップ3は、同調査で以下のとおりだ。
  • 出産・育児:12.4%
  • 結婚:8.4%
  • 自身の健康:6.3%
出産・育児と結婚を合わせると20%超。かつ年齢分布では「50歳以上の就業者が全体の28.4%を占める」という実態がある(日本歯科衛生士会調べ、令和6年末)。 これは何を意味するか。25〜35歳で一度離職し、子育てが落ち着いた30代後半〜40代で非常勤として復職するM字カーブが、歯科衛生士の就業者構造に刻み込まれているということだ。 クリニック側からすると、このM字カーブの「谷の時期」にいる人たちに響く求人票を作れれば、新卒市場の競争から半歩外に出ることができる。

求人設計①「シフトの壁」を可視化して取り除く

復職を妨げる最大の要因として、各調査が一貫して指摘するのは「勤務時間の問題」だ。子育て中の30代・40代が求人票を見たとき、「週◯日、◯時〜◯時固定」という掲載では「自分には無理そう」と離脱する。 うちが支援している歯科診療所のいくつかで実際に改善した求人票の変え方はシンプルだ。「週2〜4日、9〜17時の中で相談可」ではなく、もう一歩踏み込む。
  • 子の学校行事は事前申告で休暇取得可
  • 時短勤務実績あり(◯名在籍)
  • 扶養内パート可(週3日・6時間から)
「相談可」と「実績あり」では、求職者の受け取り方がまったく違う。前者は「交渉次第かな」、後者は「ここなら本当に動ける」になる。求人票に載せるのは「希望」ではなく「実績」だ。 数字で言い切れるなら言い切る。「産休・育休取得実績◯名」「時短勤務中スタッフ現在◯名在籍」が最も強い。スタッフが1人もいない段階なら、面接でシフト例を紙で見せる方がまだ誠実だ。

求人設計②「スキル不安」を求人票で先に解消する

復職を踏みとどまらせる2つ目の壁が、「ブランクへの不安」だ。特に5年以上のブランクがある方は、「SRP(スケーリング・ルートプレーニング)やPMTC、自分まだできるのか」「デジタルレセプトって当然のように求められるんじゃないか」という心理的ハードルがある。 求人票でよく見る「経験者優遇」という一行が、復職層にとっては「経験が最近じゃないとダメかも」と読めてしまう。 実際に採用につながっている診療所の求人票では、次のような文言が入っている。
  • 3ヶ月の院内研修あり(基本手技から復習可)
  • ブランク5年以上の方の採用実績あり
  • レセコンはクラウド型を使用。未経験でも半日で慣れます
要は「あなたを受け入れる準備がある」と求人票の中で先に言い切ることだ。これを言えるクリニックが少ない。だから少し言うだけで差別化になる。 研修体制が本当に無い場合は、つくることから始めた方がいい。「最初の2週間はシャドウ(見学)で、3週目から少しずつ手を動かしてもらう」という流れを院長が明文化するだけでいい。それを求人票に書けば言葉になる。

求人設計③「令和8年度ベースアップ」を給与の根拠に使う

2026年6月に施行された歯科診療報酬改定では、令和8年度ベースアップ評価料(厚生労働省)が歯科でも算定できるようになっている。政府目標としては令和8〜9年度で年率約3%台のベースアップが想定されている。 この制度をそのまま求人票の「給与根拠」として使えるクリニックは多くない。ほとんどの院長は「制度があることは知ってるけど、求人票でどう使うか考えていない」状態だ。 やるべきことは一つ。求人票の給与欄の下に、こう書くだけでいい。 「令和8年度診療報酬改定に基づくベースアップ評価料を算定済み。給与は制度に連動して継続的に見直し予定。」 これだけで「このクリニックは、制度の動向を見ながら真剣に給与を上げていこうとしている」という姿勢が伝わる。復職候補の歯科衛生士は、以前の職場で「頑張っても給与が変わらなかった」という経験を持っている方が多い。だから「ここは違う」と思わせるメッセージが、小さくても刺さる。 日本歯科医師会の復職支援事業では、全都道府県の歯科医師会が無料の求職者紹介・研修会を運営している。「自院で採用活動をする前に、まずここに相談する」という選択肢も一手だ。

まとめに代えて

3つの設計をまとめると「シフトの実績を出す」「研修の言葉を先に置く」「給与の根拠を制度に紐付ける」になる。どれも大きな費用はかからない。求人票の文章を書き直すだけだ。 ただ、うちの経験上、これが一番難しい。院長が自分の診療所の「運用実態」を正確に把握していないと、「実績あり」と書けないからだ。まず院内の現状を1枚の紙に棚卸しするところから始めてほしい。 歯科衛生士の採用は「競争から外れる設計」をした診療所が勝つ。

出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度改定等により内容が変更される場合があります。最新情報は各公式サイトをご確認ください。


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