病院立入検査 指摘1位は医療法許可事項の変更【2026】

火曜の夕方、電話が鳴りました。愛知県内の民間病院で事務長をしているBさんからです。「来月、立入検査なんですけど、うちは医師数が足りてるんで、まあ大丈夫ですよね」。受話器の向こうは、もう半分終わった話のような口ぶりでした。

そのとき私の手元には、金曜に出たばかりの数字がありました。


7,620病院を調べて、いちばん引っかかったのは人ではなかった

厚生労働省が令和8年9月18日(金)に公表した医療法第25条第1項の規定に基づく病院に対する立入検査結果について(令和6年度)。令和6年度の実施率は94.4%で、8,073病院のうち7,620病院に検査が入っています。前年度は93.2%でしたから、ほぼ全数に近づいた。

人員の適合率は、Bさんの言うとおり高い水準でした。

・医師数の適合率 ・・・ 6年度97.9%(5年度97.9%)
・看護師・准看護師数の適合率 ・・・ 6年度99.3%(5年度99.4%)
・薬剤師数の適合率 ・・・ 6年度97.7%(5年度97.7%)

問題は、その先にありました。別添の集計資料には「適合率の低い項目」のワースト10が載っています。そこに並んでいる大項目の名前を上から読むと、管理、管理、管理、管理、管理、管理、業務委託、管理、管理、管理。

10項目のうち9項目が「管理」です。医療従事者数は1つも入っていません。立入検査で落ちるのは、人の頭数ではなく、書類と手続きのほうだった。


1位の項目だけ、前年度とまったく同じ数字だった

ワースト1位は「医療法許可事項の変更」。検査を受けた7,428施設のうち、適合は6,883施設で92.7%です。

気になったのは隣の列でした。前年度適合率も、92.7%。

他の項目は動いています。2位の「サイバーセキュリティの確保」は91.1%から92.8%へ。3位の「職員の健康管理」は92.1%から94.1%へ。5位の「放射線の安全利用に係る研修の実施」にいたっては93.8%から96.3%と、2.5ポイント上がりました。大項目の「管理」全体も97.8%から98.0%へ改善しています。

全体が上向いているなかで、許可事項の変更だけが1年かけて小数点以下まで同じところに留まった。つまりこれは、現場の意識が低い項目ではなく、意識しても落ちる構造の項目だということです。

許可事項が変わるのは、たいてい何かが動いた後です。管理者が代わった。病床の種別を組み替えた。診療科を足した。建物に手を入れた。そのどれもが、事務長ひとりの裁量では起きません。決まったあとに事務室へ降りてくる。降りてきた時点で、手続きの起点はもう過ぎている。


精神科病院では、1位と2位が入れ替わっている

同じ資料の再掲部分に、精神科病院だけを抜き出した表があります。こちらのワースト1位は「サイバーセキュリティの確保」で、1,104施設中1,007施設の91.2%。前年度の89.5%から1.7ポイント上げて、なお9割そこそこです。

2位が「医療法許可事項の変更」の92.5%。こちらは前年度93.2%からむしろ下がっています。

病院全体と精神科病院で、詰まっている場所が微妙にずれる。自院がどちらの表を見るべきかは、病床の種類で決まります。両方に目を通しておいて損はありません。


愛知306病院のうち4。東海の数字が隠していること

資料の末尾に、医師の充足状況を都道府県別に並べた参考表があります。東海圏を拾うと、こうなります。

  • 愛知:立入検査306病院、充足302、不適合4、適合率98.7%
  • 岐阜:94病院、充足93、不適合1、適合率98.9%
  • 静岡:170病院、充足170、不適合0、適合率100.0%
  • 三重:92病院、充足90、不適合2、適合率97.8%

地域別で見ても東海は98.9%で、全国平均の97.9%を1.0ポイント上回っています。数字だけ見れば優等生です。

ただ、同じ表の右側にもう一列あります。「常勤医師のみで充足している病院」。愛知は204病院で66.7%、静岡は123病院で72.4%、全国では4,867病院の63.9%です。資料の注記には、常勤換算した非常勤医師数を除いて機械的に集計したものだとあります。

裏を返すと、残りの病院は非常勤の常勤換算を足してようやく基準線に届いている。医師の数え方ひとつで結果が変わる位置にいる病院が、それだけあるということです。Bさんの「医師数は足りてる」は、たぶん正しい。ただ、どう足りているかまでは確認しておいたほうがいい。


次の立入検査までに、事務室でやること3つ

資料を読み込むより、手を動かすほうが早いです。

  • この1年で変わったものを、紙に書き出す。管理者、病床、診療科、構造設備。変わった日付を入れて、それぞれ手続きが済んでいるかを1件ずつ潰します。ワースト1位の項目が2年続けて92.7%のまま動いていない、というのはそういう意味です
  • 研修と健診の記録を、年度単位で先に揃える。サイバーセキュリティ、職員の健康管理、放射線の安全利用に係る研修。この3つは全国的に改善が進んだ項目です。周りが上がった分、自院が去年のままだと相対的に目立ちます
  • 自院の検査実施機関がどこかを確認する。検査をするのは都道府県、保健所を設置する市、特別区です。県だと思っていたら市の保健所だった、という取り違えは、問い合わせ先を間違えるところから始まります

3つめについては、医療法の条文がそのまま答えになっています。

都道府県知事、保健所を設置する市の市長又は特別区の区長は、必要があると認めるときは、病院、診療所若しくは助産所の開設者若しくは管理者(中略)に対し、必要な報告を命じ、又は当該職員に、病院、診療所、助産所(中略)に立ち入り、その有する人員若しくは清潔保持の状況、構造設備若しくは診療録、助産録、帳簿書類その他の物件を検査させることができる。(医療法第25条第1項)

3つとも外注しなくてもできます。できるんですが、許可事項の変更は理事会や院長の判断が出た直後に動かないと間に合わず、研修記録は部署ごとに散らばっていて集めるだけで半日溶け、しかもそれを日々のレセプトや人事の締切と並行して事務長ひとりで回すことになる、というのが多くの病院の実情です。検査の本番は現場を見せることであって、書類を探すことではないはず。

立入検査そのものの当日の流れは診療所向けに書いた記事で整理しています。届出まわりで期限が動いている話としては、協力医療機関の経過措置や病床数適正化の第2回締切もこの秋に重なっています。

Bさんには、電話の最後に「変えたもののリストだけ、先に作っておいてください」と伝えました。来週、その紙を見せてもらう約束になっています。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の取扱いは自治体により運用が異なる場合があるため、最終的な判断は都道府県・保健所設置市・特別区の担当課へご確認ください。


あわせて読みたい


株式会社Reliefのサービスで、事業運営を強力サポート!

株式会社Reliefは、医療機関や介護・福祉・保育施設の運営をトータルサポートする専門企業です。
業界特化型のオンラインアシスタント「セレナ」
月一回からはじめる事務長アウトソーシング「困ったときのじむちょー君」
バックオフィスの業務改善・効率化、MoneyForwardクラウドICT・クラウドDX導入支援
経営課題の解決や業務効率化を実現し、貴社の発展を全力でサポートいたします。

現場の事務負担を減らす自社開発アプリも無料で公開しています。
PC・ソフトの台帳づくりを自動化するIT資産管理ツール
社用車・送迎車の記録を一元管理する車両管理アプリ
最新情報のお知らせは公式LINEでお届けしています。お気軽にご登録ください。