保育所の虐待防止 制度化の検討で先に動く3点【2026】

保育所の虐待防止委員会は、国の制度が決まってから作れば間に合う。でも私は、この考え方に反対です。

通報を受けて事実確認まで進んだ889件のうち、537件は「虐待に該当しない」と判断されています。その537件にも、自治体の事実確認は入っています。日頃の取り組みを紙で見せられるかどうかは、制度ができる前から問われているわけです。

材料は、10月26日にこども家庭庁の分科会へ出された半年分の数字です。


通報1,059件のうち、虐待と判断されたのは85件だった

令和7年10月1日、改正児童福祉法(令和7年法律第29号)が施行されました。保育所等の職員による虐待を受けたと思われるこどもを見つけた人には、都道府県や市町村への通報義務があります。通報を受けた自治体は事実確認を行い、都道府県は虐待の状況を公表する仕組みです。対象は認可保育所だけでなく、幼保連携型認定こども園や小規模保育事業、認可外保育施設まで含まれます。

ここで言う虐待は、法律で4つに定義されています。

  • 身体的虐待:こどもの身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行
  • 性的虐待:わいせつな行為をすること、又はさせること
  • ネグレクト:著しい減食や長時間の放置、他のこどもによる虐待行為の放置など
  • 心理的虐待:著しい暴言や著しく拒絶的な対応など

施行から半年分の集計が、第16回 子ども・子育て支援等分科会(令和8年10月26日、持ち回り開催)の資料3「保育所等における虐待防止の強化について」に載りました。令和7年10月から令和8年3月までの「保育所や幼稚園等における虐待対応状況等調査」で、令和8年10月2日時点の結果です。

  • 通報件数:1,059件
  • 事実確認を行った件数(要対応件数):889件
  • 虐待に該当:85件
  • 非該当:537件
  • 判断不可:85件
  • 調査継続中:182件

虐待と判断された85件で、被害を受けたこどもは合わせて175人。クラス別で最も多かったのは1歳児クラスの36人でした。まだ言葉で訴えられない年齢。

85件という数字に目が行きがちですが、経営者として見てほしいのは537件のほうです。非該当の側。


「非該当」で終わった園にも、事実確認は入っている

要対応件数とは通報を受けた自治体が事実確認を実施した件数のことで、非該当の537件も自治体が事実を確かめたうえで「該当しない」と結論を出した事案です。

その確かめ方について、分科会の議事概要(委員提出意見)に気になる記述があります。倉石哲也委員の意見書には、通報のあった保育所の全職員を対象にした聞き取りやアンケートを情報収集の段階から求める都道府県があると聞いている、と書かれています。

全国認定こども園連絡協議会も、「教育・保育として必要な適切な指導」と「不適切な指導(虐待)」の定義と判断基準を明確にしてほしい、と意見を出しました。現場の線引きがまだ揺れている、ということです。揺れている間も、通報は待ってくれない。

国の虐待防止等ガイドラインは、令和7年8月の改訂で「不適切な保育」という概念を使わず、「虐待」を軸に整理し直しています。そのうえで、一つ一つは虐待に当たらない行為でも振り返りと改善がなければ繰り返しの末に虐待になり得る、と書いています。日々の行為の延長に虐待がある、という整理です。

経営側の私が一番怖いのは、聞き取りの場で「うちは普段こうしています」と口で答えるしかない状態です。研修を受けた記録も、職員同士で保育を振り返った記録もない。それでは非該当で終わったとしても、保護者に何を説明するのか。答えに詰まります。

では、その「普段」をどんな形で残せばいいのか。国はすでに手本を示しています。


国が並べたのは、障害と介護ですでに義務になっている仕組みだった

資料3の「今後の方向性」には、こう書かれています。調査の結果やこども性暴力防止法の施行を踏まえ、虐待の発生や再発の防止の取組に関する制度的な対応の在り方を検討する必要がある。そのすぐ下に並んでいるのが、障害福祉と介護の運営基準でもう義務になっている次の3つです。

  • 虐待防止委員会の設置
  • 従業者への研修の実施
  • 虐待の防止等のための責任者の設置

障害分野では、これが令和3年4月1日に施行されました。経過措置は1年です。もう5年以上前の話です。参考頁に抜粋された障害分野の通知では、委員会の役割は3つ。虐待防止の計画づくりと、虐待が起こりやすい職場環境のチェック、それに発生後の検証と再発防止策の検討です。研修は年1回以上と新規採用時に必ず行い、実施内容を記録する。

先に断っておくと、保育所に同じ形で義務を課すとは、資料のどこにも書かれていません。時期も示されていない。

それでも、国が比較対象としてこの3つを並べた意味は軽くない。加えて、職員向けの研修資材が令和8年度中を目途に公表される予定です。ガイドラインも、こどもの権利擁護に詳しい第三者を加えた「検証・改善委員会」の設置を例に挙げています。方向は見えています。


決まる前に、私なら今月この3つを園で決める

先月、名古屋市内で認可保育所を運営するE理事長に「うちは何も起きていないから、制度が出てからでいいよね」と言われました。私の答えはノーでした。何も起きていない園ほど、仕組みが一番軽く作れるからです。

担当者を名前で決め、通報先を職員室に貼る

まず虐待防止の担当者を1人、名前で決めます。主任保育士を担当に、施設長を責任者に。この分け方が一番回しやすい。

あわせて、通報の窓口を貼り出します。愛知県の案内では、保育所と幼保連携型認定こども園の所管は県です。ただし指定都市と中核市(名古屋市・豊橋市・岡崎市・豊田市・一宮市)にある施設は、それぞれの市が所管します。小規模保育事業や事業所内保育事業は市町村の所管ですが、所管がわからなくても県と施設のある市町村のどちらでも対応する、と明記されています。名古屋市内なら、窓口は名古屋市の通報ページ。職員からも保護者からも相談を受け付けています。

通報した職員は、通報を理由に解雇などの不利益な扱いを受けません。改正児童福祉法第33条の12第6項の規定です。これも同じ紙に書いておきます。

月1回の振り返り会を「委員会」として記録する

新しい会議を増やす必要はありません。既存の職員会議の最後の30分を、虐待防止の振り返りに充てて「委員会」と呼べば足ります。

障害分野の通知が示す流れは、報告の様式を整えて集まった事例を委員会で集計と分析にかけ、結果を職員に周知するというものです。保育所なら、ヒヤリとした関わりを書き込む1枚の用紙があれば始められます。議事録は日付と出席者と議題の3行でいい。続けることが先です。

研修は年1回と採用時、受講記録をファイルに綴じる

研修は年1回以上と新規採用時。障害分野と同じ物差しを、先に自分たちで当てておきます。教材は、国の研修資材が令和8年度中に出るまでの間、ガイドライン本文の読み合わせで十分です。

都道府県や指定都市などが実施する保育所等虐待防止対策支援事業には、施設長など指導的立場にある人向けの研修を支援するメニューもあります。令和9年度概算要求額は1.7億円で、補助率は国1/2です。愛知県や名古屋市での開催の有無は、各自治体の案内で確認してください(要確認)。

12月25日にはこども性暴力防止法も施行されるので、研修と記録の仕組みを今つくればそちらの準備とも重ねられる。二度手間を省けます。

制度化の案が分科会に出たとき、あなたの園の職員室には、何枚の記録が綴じてあるでしょう。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。最新情報は各公式サイトでご確認ください。


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