「同期がいないんです」

「同期がいないんです。辞めたいとかじゃなくて、聞ける人がいなくて」

小さな職場の新卒は、大きな職場の倍以上の割合で辞めていきます。日曜の夜11時すぎ、豊橋市で内科クリニックを開いているB院長からこのセリフ付きのLINEが届いたとき、私の頭に浮かんだのはその数字でした。

春に採った新卒の医療事務さんが、面談でぽつりと言ったそうです。スタッフは8人、事務は1人きり。院長のLINEは「どう返せばいいですかね」で終わっていました。

2日前の10月23日、厚生労働省が令和5年3月に卒業した人の離職状況を公表しています(新規学卒就職者の離職状況(令和5年3月卒業者))。今日はその表と、私がB院長に返した中身の話です。


医療・福祉の大卒新卒は、3年で39.1%が辞めている

まず全体です。就職して3年以内に辞めた割合は、高卒が36.9%で前年より1.0ポイント低下、大卒が31.2%で2.6ポイント低下でした。数字としては、少し落ち着いた年です。

医療・福祉は違います。離職率の高い上位5産業に、高卒・大卒ともに入りました。高卒49.4%(前年差+0.2ポイント)、大卒39.1%(同▲1.7ポイント)。高卒はほぼ2人に1人です。大卒は前年より下がったとはいえ、全体の31.2%より7.9ポイント高い。

ここまでは毎年見る景色かもしれません。

私が手を止めたのは、同じページにあるもう1つの表でした。


5人未満の職場は58.2%。差をつけているのは業種より人数だった

事業所の規模別に並べた表です。大卒は5人未満が58.2%、5〜29人が50.6%。1,000人以上になると24.2%まで下がります。高卒も同じ形です。5人未満61.3%、5〜29人53.3%、1,000人以上24.4%。

いちばん小さい職場といちばん大きい職場で、2.4倍から2.5倍の開きがあります(公表値からの試算)。医療・福祉と全体の差(大卒で7.9ポイント)より、ずっと大きい。

断っておくと、この規模別は全産業の数字で、医療・福祉だけを切り出したものではありません。それでも、診療所やグループホーム、訪問看護ステーションの多くは5〜29人の帯に入ります。B院長のクリニックも、ちょうどここです。

病院の数字も1つ置いておきます。日本看護協会の「2025年病院看護実態調査」では、2024年度の新卒採用看護職員の離職率は8.4%で、前年から0.4ポイント減りました(JILPT 国内労働情報)。こちらは病院だけの、1年以内の数字です。看護管理者が挙げた新卒の離職理由は「健康上の理由(精神的疾患)」が54.6%で最も多く、自分の看護職員としての適性への不安が46.6%、自分の看護実践能力への不安が44.2%と続きます。上司・同僚との人間関係は27.0%でした。

上位に並ぶのは、人間関係より「自分はこの仕事でやっていけるのか」という不安です。大きな病院なら、同じ春に入った同期が何人もいます。8人のクリニックには、いません。

では、小さな職場も教育体制を厚くすればいいのか。私は、そこが落とし穴だと思っています。


大病院の新人研修をまねても、8人の職場では続かない

立派な研修マニュアルを作った法人を、何度か見てきました。3か月後には、誰も開いていません。教える側も1人で現場を回しているからです。

小さな職場が持っていないのは、研修の量ではなく「聞ける相手」と「先の見通し」です。この2つなら、人数が少なくても用意できます。


来年4月に新卒を迎えるなら、11月中に決めておく3つ

1. 職場の外に、聞ける相手を1人つくる

同期がいないなら、法人の外に借ります。同じ地域の医師会や事業者団体の研修会で、同じ年次の人と顔をつなぐ。系列の施設があるなら、そこの2年目と月1回話せる場をつくる。院長や施設長には聞きにくいことのほうが多いのです。

2. 1年目は月1回、15分の面談を先に予定へ入れる

何かあってから話すのでは遅い。業務の話は半分にして、残りは「最近なにが不安か」を聞く時間にします。日付は4月の時点で12回分を決めてしまう。B院長には、まずこれを返しました。

3. 育成方針と教育訓練計画を、紙1枚に書く

1年目に何ができればいいかを、本人が読める形にします。これは厚生労働省のユースエール認定の要件でもあります(ユースエール認定制度)。対象は常時雇用する労働者が300人以下の事業主で、「人材育成方針」と「教育訓練計画」の策定、直近3事業年度に正社員として就職した新卒者等の離職率20%以下などが求められます。ページの注記には、採用者数が3人または4人なら離職者1人以下で可、とあります。メンター制度の有無は公表項目の1つです。

認定を取るかどうかは別として、紙1枚があるだけで、新卒は「来年の自分」を思い描けるようになります。

B院長からは翌朝、「面談、来週から入れます」と返ってきました。

あなたの職場の新卒は、困ったとき誰に聞いていますか。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度・数値は公表元の最新情報をご確認ください。


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