事務長業務の外注 任せてはいけない3つ【2026】
火曜の17時、岡崎市の訪問介護事業所の事務室。D社長が、法人の実印と通帳の入ったクリアケースを、デスクの上で私のほうへ滑らせてきました。
「事務長の仕事、全部まとめてお願いできますか」
私はケースに手を伸ばさずに、こう答えました。外に出せる仕事と出せない仕事の線は、法律がもう引いています。その線の内側だけなら、全部引き受けます。
事務長業務の外注は、うちの本業です。だからこそ契約の前に、任せてはいけないものを先に決めます。届出に名前を載せる前の最後の確認。働き方のルールを決めること。預けた個人データを見に行くこと。この3つです。
責任を負う名前は、法律が先に決めている
介護保険法の第75条を読むと、主語がはっきりしています。事業所の名称や所在地など、厚生労働省令で定める事項に変更があったとき、10日以内に都道府県知事へ届け出るのは「指定居宅サービス事業者」です。事業を廃止・休止するときは、その日の1月前までに届け出る。これも事業者の義務として書かれています。
現場の側も同じです。指定居宅サービス等の基準の第28条は、指定訪問介護事業所の管理者に、従業者と業務の管理を「一元的に」行うよう求めています。医療機関なら医療法の第15条第1項です。病院や診療所の管理者は従業者を監督し、管理と運営について必要な注意をしなければならない、と定めています。
どの条文にも、外部の事務長という言葉は出てきません。
作業は外に出せます。名前と判断は外に出せない。D社長のデスクの上のクリアケースは、その名前そのものでした。
1つ目。届出に名前を載せる前の、最後の確認
変更届の作成、添付書類の収集、提出期限の管理。ここまではうちが毎月やっている仕事です。様式は自治体ごとに少しずつ違いますし、どの変更が届出の対象になるかの判断にも慣れが要ります。外の人間に任せたほうが早い領域です。
任せてはいけないのは、その手前の一点です。書類に書かれた事実が、本当にいまの事業所の姿と合っているか。管理者は誰で、いつから勤務しているのか。サービス提供責任者の名前は合っているか。
これを確認できるのは、毎日その事業所にいる人だけです。外の事務長は、渡された情報で書類を作ります。渡された情報が古ければ、きれいな書類が間違ったまま提出される。
10日以内という期限は、確認を後回しにする余裕をくれません。うちでは下書きを渡すときに、社長に読んでほしい箇所へ印を付けて、そこだけは自分の目で確かめてもらっています。押印はその後です。
2つ目。働き方のルールを決めること
残業のルールも同じ構造です。労働基準法の第36条第1項が定める、残業や休日労働のための協定です。結ぶのは使用者と、労働者の過半数で組織する労働組合です。組合がなければ、労働者の過半数を代表する者が相手になります。形式は書面による協定で、結んだ協定は行政官庁に届け出ます。
協定書の様式を整えること、届出の段取りを組むこと、毎月の残業時間を集計して上限に近い職員を知らせること。この作業は外に出せます。うちもやります。
月に何時間まで残業を認めるのか。繁忙期をどう扱うのか。その数字を決めて協定に書くのは使用者です。外から月に一度来る事務長が決めてよいことではありません。決めた数字と現場の実態がずれたとき、その理由を説明するのも使用者です。
上限の考え方は労基署の指導と残業上限の記事に書きました。本部の人を雇うか外に頼むかの比較は採用と外注のコスト比較にまとめています。
3つ目。預けた個人データを、見に行くこと
3つ目は、外注そのものが生む義務です。
個人情報保護法の第25条は、個人データの取扱いを委託する事業者に、委託先への必要かつ適切な監督を求めています。事務長業務を外に出せば、利用者の氏名も職員の給与データも委託先の手元に渡ります。
医療・介護向けには、個人情報保護委員会と厚生労働省のガイダンスがあります。平成29年4月14日に出され、令和8年4月にも一部改正されました。ここには、診療報酬や介護報酬の請求に係る事務を委託する場合も監督の対象だと書かれています。監督には、安全管理の内容を契約に盛り込むことのほか、業務が適切に行われているかを定期的に確認することも含まれるとあります。
さらに二つ、経営者として覚えておいてほしい記述があります。
- 委託先がさらに再委託し、再委託先が不適切な取扱いをして問題が起きた場合、医療・介護関係事業者が責めを負うこともあり得る
- 委託中に漏えい等の報告対象事態が起きた場合、原則として委託元と委託先の双方が報告する義務を負う
外に出したから責任も外に出た、とはならない。ガイダンスはそう読めます。
そして、委託先を監督する仕事は、当の委託先には任せられません。うちに「うちの管理状況を確認しておいてください」と頼まれても、それは確認になりません。私は契約のときに、社長がうちの作業の様子とデータの置き場所を見に来る日を、先に決めてもらうようにしています。
線を引くと、任せられる仕事はむしろ増える
3つを手元に残すと、外に出せるものがかえってはっきりします。
外に出せる仕事
- 変更届・加算届の作成と添付書類の収集、提出期限の管理
- 介護報酬・診療報酬の請求事務
- 勤怠と残業時間の集計、上限に近い職員の通知
- 就業規則や協定書の改訂案づくり
手元に残す仕事
- 届出に書かれた事実の確認と押印
- 残業の上限など、働き方のルールの中身を決めること
- 委託先の作業とデータの扱いを、自分の目で確認すること
手元に残るのは、どれも短い時間で済む判断です。ただし、代わりの人はいません。
あの日、クリアケースはD社長の鞄に戻りました。翌週、最初の変更届の下書きを持っていくと、D社長は印の付いた箇所に赤ペンで一つ書き込みをしました。管理者の勤務開始日が、私の手元の情報と一日ずれていたのです。
出典・参考情報
- 介護保険法(第75条)(e-Gov法令検索、確認日:2026年10月09日)
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(第28条)(e-Gov法令検索、確認日:2026年10月09日)
- 医療法(第15条)(e-Gov法令検索、確認日:2026年10月09日)
- 労働基準法(第36条)(e-Gov法令検索、確認日:2026年10月09日)
- 個人情報の保護に関する法律(第25条)(e-Gov法令検索、確認日:2026年10月09日)
- 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(個人情報保護委員会・厚生労働省、確認日:2026年10月09日)
- 個人情報保護関係(掲載ページ)(厚生労働省、確認日:2026年10月09日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。届出の様式や運用は指定権者ごとに異なる場合があるため、最新の情報は各自治体の案内をご確認ください。
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