保育所BCP 策定率55%と制度化検討の動き【2026】

先週の水曜、岐阜市の認可保育所で、B園長が事務室の棚から緑色のファイルを引っ張り出した。

「業務継続計画、うちはもう作ってありますよ」。表紙の日付は令和5年3月。ページをめくると、災害時の連絡先一覧に、去年の春で退職した主任の名前がまだ残っていた。携帯番号もそのままだ。

この「作ってある」と「使える」のあいだにある溝が、2026年8月19日、こども家庭庁の第15回 子ども・子育て支援等分科会で正面から議題に上がりました。資料3のタイトルは「保育所等における業務継続計画(BCP)の策定等について」。私はこの9ページを読んで、B園長の緑のファイルを思い出しています。


55.3%という数字より、私が引っかかったのは別のところ

分科会に出された調査結果は、こうでした。自然災害の発生時を想定した業務継続計画について、保育所(回答数5,408)は策定済みが55.3%、策定中が12.8%、策定していないが23.4%、わからないが8.4%。認定こども園(回答数2,534)は策定済み53.9%、策定中17.6%、策定していない22.5%、わからない6.0%です(こども家庭庁 資料3)。

策定中まで含めれば7割弱。数字だけ見れば、そこまで悪くない。

ただ、同じ調査には「自然災害発生時以外」の業務継続計画についての結果も並んでいます。保育所は策定済み39.2%、策定中12.0%、策定していない37.0%、わからない11.8%。認定こども園は策定済み37.6%、策定中15.7%、策定していない38.5%、わからない8.2%。

自然災害以外というのは、感染症の集団発生や、停電・断水・通信の途絶を指します。この10年で保育を止めた原因として実際に多かったのは、地震よりむしろこちらではないか。私はそう受け止めました。

もうひとつ。「わからない」が保育所で8.4%、災害以外だと11.8%ある。園長や主任が回答している調査で、自分の園に計画があるかどうか答えられない。これは未策定より重い話です。あるかもしれないが、どこにあるか誰も知らない。B園長の緑のファイルと、たぶん同じ状態にある。


努力義務のままなのに、なぜ8月に議題へ上がったのか

保育所のBCPは、いまも義務ではなく努力義務です。根拠は児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(昭和23年厚生省令第63号)の第九条の三。

第九条の三 児童福祉施設は、感染症や非常災害の発生時において、利用者に対する支援の提供を継続的に実施するための、及び非常時の体制で早期の業務再開を図るための計画(以下この条において「業務継続計画」という。)を策定し、当該業務継続計画に従い必要な措置を講ずるよう努めなければならない。(e-Gov 法令検索

第2項で職員への周知と定期的な研修・訓練、第3項で定期的な見直しを求めています。幼保連携型認定こども園は、平成26年内閣府・文部科学省・厚生労働省令第1号の第十三条でこの第九条の三を準用しているので、扱いは同じです。

努力義務が努力義務のまま置かれている制度は、たいてい静かに放置されます。今回それが動いたのは、資料3の結びに一行あるからです。

こうしたことを踏まえ、保育所等の業務継続に関する制度的な対応の在り方について検討する必要。

同じページには、令和8年熊本地震を踏まえて保育所等の防災機能・対策の強化を一層進める、とも書かれている。介護分野が令和3年度改定で予告し、令和6年度から完全義務化した流れを見てきた身としては、この書き方は「そのうち義務化の話が出る」と読むのが自然です。


「去年作りました」が、いちばんあぶない

仮に制度的な対応が入るとして、そのとき問われるのは策定の有無ではありません。第九条の三が求めているのは3つで、策定と措置、職員への周知と研修・訓練、そして定期的な見直しです。紙が1冊あることは、3つのうちの1つでしかない。

国が公表している児童福祉施設向けの業務継続ガイドラインも、構成を見ると同じことを言っています。第2章「BCP策定にあたって事前に検討すべき事項」がP10からP22までの13ページ、第4章「BCPの策定/検証」がP34からP36で、実施すべき訓練その他の事項にあてられている。策定はゴールではなく、途中の章に置かれている。

B園長の園でいえば、退職した主任の携帯番号が残っていた時点で、第3項の見直しは動いていなかったことになります。悪意はまったくない。年度末に一度でも名簿と突き合わせる手順が、誰の仕事にもなっていなかっただけです。

それと、令和7年度には自然災害やサイバー攻撃で電力・通信・交通といった主要インフラが寸断された場合を想定した実態把握も行われています。停電で登降園システムが止まったときに、誰がどの紙で出欠を取るのか。うちが支援している園でも、ここを書き足せていないところが多い。


締切は、10月と令和8年度中の2つある

資料3には、今後の予定が2つ明記されています。

  • 保育所における感染症対策ガイドライン(令和5年5月一部改訂 こども家庭庁)に、感染症集団発生時における保育の継続等に関する対策の記載を新たに設ける予定【本年10月頃を目途】
  • 令和8年度に児童福祉施設等の対応策や対策の水準を検討し、業務継続ガイドラインの改訂等を行う予定【令和8年度中を目途】

つまり、いま手元のBCPを一から書き直すのは、少し早い。10月に感染症側の記載が出て、年度内にガイドライン本体が改訂される。全面改訂はその後で十分です。

先に手を付けるべきなのは、改訂を待たなくても陳腐化している部分のほうです。連絡先、職員体制、備蓄の期限、参集ルール。ここは10月を待つ理由がない。

予算面の動きも一応押さえておくと、令和8年度予算では施設機能強化推進費加算について、複数の事業実施等の要件の廃止や、居宅訪問型保育事業を対象に追加する充実が図られています。医療的ケア児を受け入れている園なら、令和6年6月に周知された「保育所における医療的ケア児の災害時対応ガイドライン」にBCPの雛形が示されているので、そちらを土台にしたほうが早い。


日曜の夜に、5分でできること

園に行かなくても、いまできる確認が3つあります。

  • 手元のBCPを開いて、連絡先一覧に退職者が残っていないか。1人でもいたら、見直しの手順が存在しないということです
  • 令和7年度に、BCPを使った訓練の記録が残っているか。避難訓練の記録とは別物です
  • 感染症の集団発生を扱った章があるか。無ければ10月のガイドライン改訂を待って追記する、と決めてしまう

B園長には、まず1つ目だけをお願いしました。名簿の突き合わせは事務担当で完結するし、30分で終わる。制度の議論がどう転んでも、無駄になりません。

うちが保育所や認定こども園のバックオフィスに入るとき、BCPは「作る仕事」ではなく「毎年3月に触る仕事」として運用表に載せます。義務化されてから慌てて作った計画は、だいたい2年で同じ状態に戻る。緑のファイルは、そうやって生まれます。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度内容は今後の検討・改訂により変わる可能性があるため、実務判断の際は必ず最新の一次情報をご確認ください。


あわせて読みたい


株式会社Reliefのサービスで、事業運営を強力サポート!

株式会社Reliefは、医療機関や介護・福祉・保育施設の運営をトータルサポートする専門企業です。
業界特化型のオンラインアシスタント「セレナ」
月一回からはじめる事務長アウトソーシング「困ったときのじむちょー君」
バックオフィスの業務改善・効率化、MoneyForwardクラウドICT・クラウドDX導入支援
経営課題の解決や業務効率化を実現し、貴社の発展を全力でサポートいたします。

現場の事務負担を減らす自社開発アプリも無料で公開しています。
PC・ソフトの台帳づくりを自動化するIT資産管理ツール
社用車・送迎車の記録を一元管理する車両管理アプリ
最新情報のお知らせは公式LINEでお届けしています。お気軽にご登録ください。