歯科 口腔機能管理料 ─ 改定後に届出を見直す3点【2026】
金曜の19時、都内の小さな歯科診療所。歯科のC先生は閉院後のカウンターで、A4の届出書類を1枚ずつめくり直していた。机の端にはコーヒーが置いてあるが、もう湯気は立っていない。「点数表が変わったのは知ってる。でも、うちは何を出し直すんだ?」── C先生の最初のひとことは、ここから始まった。
これは私の知人の話だが、6月に入ってから歯科の経営者からの相談が増えている。共通しているのは「改定後の運用が、まだ自分の言葉になっていない」という感覚だ。今夜は、その夜の続きとして書く。
「点数が分かれた」だけでは経営判断にならない
令和8年度(2026年度)の診療報酬改定で、口腔機能管理料の枠組みが整理し直された。一次情報は 厚生労働省 保険局医療課「令和8年度診療報酬改定の概要【歯科】」 にまとまっている。歯科関係者の多くが3月以降に目を通したはずの資料だ。
改定の方向性は明確で、ライフコースを通じた口腔機能管理を推進するという大きな筋が示された。口腔機能低下症の患者を中心に、検査の実施や指導の記録、研修を受けた歯科衛生士の関与など、「誰が・何を・どこに残したか」が以前より細かく問われる構造になっている。
ただ、ここで院長や事務長が陥りやすい誤読がある。「点数が複数に分かれた」=「うちの取り扱いが楽になった」と捉えてしまうことだ。実態は逆で、区分が増えるほど、カルテと文書の根拠を「どの区分で算定したのか」と紐付ける手間が増える。算定そのものが楽になるのではなく、算定の根拠を残す事務が増える。
では具体的に、48時間以内に手を動かすべきポイントはどこにあるのか。
経営者が48時間で確認すべき3点
うちが歯科クライアントの月次顧問の場で実際に確認している順番で書く。専門誌の解説と被るところもあるが、経営者の視点だけに絞った3点だ。
1. 届出区分を「現状の算定実績」に揃え直す
改定後、施設基準の届出書類は 地方厚生局の届出一覧(令和8年度版) に並んでいる。やるべきは、まず「自院が現実に何件算定しているか」をレセプトコンピュータの集計で出すこと。届出と実態がずれていれば、その時点で経営判断のスタートラインを失う。
院長が「たぶんこの区分」と感覚で答えてはいけない。レセコンの月次集計を1枚プリントして並べるだけで、議論の質が一段上がる。
2. 研修受講者の名簿を「物理的に1枚」にまとめる
口腔機能に関わる管理・指導の算定では、研修を受けた歯科衛生士の関与が要件として組み込まれている区分がある。ここで毎年詰まるのが、「受講証は誰がどこに保管しているか」という事務の話だ。
研修を受けた本人のロッカーに眠っていたり、前任の事務長のファイルから出てこなかったり。届出の根拠書類は「ある」だけでは足りない。監査や指導で1分以内に提示できる状態にして、ようやく要件を満たしている。
うちのクライアントには、研修受講者の氏名・受講日・主催団体・証書PDFのリンクを1枚のスプレッドシートにまとめて、医院長と事務長の2人で更新する運用をお願いしている。地味だが、これだけで届出の更新がほぼ事故らない。
3. カルテ記載の「文言テンプレート」を院内で揃える
細分化された算定区分は、カルテ記載と紐付いて初めて「監査で耐える」状態になる。検査を実施したのか、指導内容は何だったのか、文書はいつ患者に渡したのか。担当の歯科衛生士ごとに記録の粒度がバラバラだと、年に一度の自主点検で必ず指摘が出る。
テンプレートは長文でなくていい。1区分につき3〜5行の定型を院内で決めて、レセコンの文書貼り付け機能に登録するだけで、書き手の差はかなり減る。
「届出を出し忘れる」歯科が、これから増える
正直に書く。改定の年は、毎回「届出が間に合わなかった歯科」が一定数出る。理由は知識不足ではなく、ほぼ100% 事務の段取りの問題だ。
背景にあるのは、歯科診療所の事務体制が「医院長+医院長の家族+パート」で回っている構造そのものにある。改定の年だけ事務量が跳ね上がっても、追加の人手は急に湧かない。だからこそ、改定の翌月までに 「届出・名簿・カルテ」の3点セットを固める時間を経営者が意図的に確保する 必要がある。
もし「届出は3月に出した、それで終わり」と思っているなら、6月の今が点検の最後のチャンスだと思ったほうがいい。改定後の最初の指導が秋以降に動き始めるからだ。
夜の歯科で、もう一度
冒頭のC先生は、その金曜の夜から3週間かけて、届出と名簿とカルテの3点を整理し直した。電話の最後で言われた一言は「思ったよりやる気が出た」だった。
制度が変わる年は、経営者が動くタイミングを引き直す年でもある。点数表をめくり直すより、まず「自院の事務の段取り」を点検する。改定の本当の影響は、点数の差ではなく、その段取りの差に出る。
あなたの歯科は今、点数表とレセコンと届出書類のどれを最初に開きますか。
出典・参考情報
- 令和8年度診療報酬改定の概要【歯科】(厚生労働省 保険局医療課、確認日:2026年6月28日)
- 診療報酬改定(厚生労働省)(厚生労働省、確認日:2026年6月28日)
- 基本診療料の届出一覧(令和8年度診療報酬改定)(東海北陸厚生局、確認日:2026年6月28日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。最新情報は各リンク先で必ず確認してください。
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