令和8年度 障害福祉サービス等報酬改定の衝撃 ─ 経営者が今すぐ取るべき3つの行動

月曜の朝、大阪にある就労継続支援B型の事業所。A施設長が国保連からの給付費通知を開いた瞬間、手が止まった。4月請求分の単価が、3月より明らかに下がっている。 令和8年度 障害福祉サービス等報酬改定が、数字として現場に着地した朝の話だ。 「想定していたとはいえ、実際の通知を見ると頭が痛くなる」と、A施設長は私との電話でそう言った。こうした声は、今年度に入ってからうちに届く相談の中で、確実に増えている。

令和8年度、どのサービスの単価が下がったのか

令和8年度(2026年度)の障害福祉サービス等報酬改定では、就労継続支援B型を含む就労系サービスの基本報酬区分が見直された。また、障害児通所支援においても同様の見直しが行われている。 根拠となる法律は障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)だが、今回の改定はその運用レベルでの単価調整という色彩が強い。 なぜこうなったのか。答えは一つじゃない。 背景には、障害福祉の総費用が近年急増していたという事実がある。新型コロナウイルス感染症の流行時に設けられた特例措置を「都合よく解釈して、十分な支援実態もないのに在宅支援として多くの報酬を請求するような事業者」(全国介護事業者連盟・障害福祉事業部会 中川亮会長)が存在し、業界全体の信頼と健全性を損なっていた。 財政当局からすれば、「費用が膨らんでいるなら適正化する」という判断になる。適正化の標的として、一部のサービスが基本報酬の引き下げを受ける形になったわけだ。 ただし、影響を受けるのは「すべての事業所」ではない。就労継続支援B型については、基本報酬区分の届出が重要になっている。令和8年3月31日付で発出されたQ&A VOL.1には、就労継続支援B型の基本報酬区分に関する届出書式の様式が明示されており、算定区分の届出を怠ると不利な単価が適用される可能性がある。

「強引な改定だった」── 業界団体トップが語った本音

全国介護事業者連盟・障害福祉事業部会の中川亮会長は、2026年5月18日付の介護ニュースJointのインタビューで、今回の改定について率直にこう述べている。
「我々にとっても衝撃でした。率直に申し上げて、その決定プロセスに強い違和感を覚えています。本来、報酬改定の議論は精緻な経営実態調査の結果などに基づいて、建設的な対話のなかで進められるべきものです。しかし今回は、そうした十分な調査が必ずしも行われていない状況下で、一部の限られたデータをもとに『総費用が膨らんでいるから下げる』という結論が先行していました」
これは業界団体のリーダーが公式の場で「強引」と表現した、相当に重い発言だ。同時に、中川会長は「我々も業界に一定の課題があることは認めている」とも述べており、不正・悪用があったこと自体を否定はしていない。 問題は、真摯に利用者と向き合っている大多数の健全な事業所が、一部の悪質な事業者と同じルールで引き下げの影響を受けることだ。 この構造は、介護報酬改定でも繰り返されてきたパターンとよく似ている。制度の隙間を利用した事業者が現れ、業界全体の費用が膨らみ、次の改定で一律に締め付けられる。そのたびに割を食うのは、誠実に現場を回してきた小規模の事業所だ。 もっとも、中川会長の訴えかけが一定の効果をもたらした面もある。重度者・医療的ケアが必要な利用者を多く支援している事業所に対して、「激変緩和策」として応急的報酬単価と配慮措置が設けられた。 今年度限りの救済措置だ。見逃すな。

激変緩和措置、あなたの施設は申請したか

「応急的報酬単価の配慮措置」は、自動的に適用されるものではない。申請が要る。 厚生労働省がQ&A VOL.1と同時に発出した別紙(障害福祉サービス向けと障害児通所支援向けの2系統)では、指定申請時の確認と伝達手順が詳細に規定されている。要件を満たす事業所は、所管の自治体窓口を通じて配慮措置の適用を求めることができる。 確認すべき主なポイントは以下だ。
  • 自施設が配慮措置の対象要件を満たしているか(重度者・医療的ケア対象者の割合等)
  • 指定申請に際して必要な書類が揃っているか(別紙の参考様式を活用)
  • 報酬請求時の審査手順を都道府県・市区町村の担当窓口と事前に確認しているか
実際、私がA施設長に確認したところ、「配慮措置の存在は知っていたが、手続きが煩雑そうで放置していた」とのことだった。こういうケースは少なくない。煩雑に見えても、一度手順を整理すれば申請自体は難しくない。今からでも遅くない。 就労継続支援B型についてはさらに、基本報酬区分の算定基準自体が見直された。工賃実績や就労移行支援体制加算の関係も変わっているため、従来のやり方で算定区分の届出をそのまま継続している事業所は、一度算定区分と届出内容の棚卸しをしておく必要がある。

2027年改定で「次の引き下げ」は来るのか

中川会長は「来年度の報酬改定に向けた各方面との意見交換はすでに始まっている」と明言した。これは、2027年度の障害福祉サービス等報酬改定の議論がすでに動き出していることを意味する。 財政当局の姿勢が厳しいままであれば、次の改定でも費用の抑制を求める動きが出てくる可能性は否定できない。一方で、中川会長は「職員の十分な賃上げの実現と、物価高などの影響を反映させた基本報酬の引き上げを強く求めていく」とも語っている。 現場の経営者として考えると、「次の改定がどうなるか」を読もうとするのは自然だが、そこに経営の軸を置くと消耗する。制度は変わり続ける。読んでも外れる。 むしろ今やるべきなのは、報酬の多寡に左右されにくい経営の基盤をつくること。具体的には、収支構造の見える化・事務コストの削減・サービスの質による選ばれる理由の構築という3点だ。 財務省が経営実態調査のデータを根拠にして報酬を引き下げようとするなら、自施設の経営数字を常時把握していることが交渉の前提になる。月次決算のサイクルを速め、資金繰りの見通しを立てておくだけで、窓口での交渉力が変わる。

生き残る事業所と消える事業所、その差は1つだけだ

中川会長がインタビューで最も力を込めて語ったのは、テクノロジーについてだった。
「ICTやAIなどのテクノロジーを積極的に活用していくことは、もはや『やっておいたほうがいいこと』ではなくなりました。事業所が生き残るための『最低条件』になったと捉えるべきです」
「最低条件」という言葉は重い。これはプラスアルファの話ではなく、やっていなければ生き残れないという宣言だ。 実際、私がクライアントの就労支援事業所と話をすると、記録・計画書・請求業務を手作業で行っているところが多い。月次の事務量が膨大で、管理者が本来やるべき利用者支援の質向上や職員マネジメントに時間を使えていない。 ここにある問題は単純だ。事務に時間を使っている限り、「質の高いサービス」は実現しない。そして今の改定の方向性は、量から質への転換を明確に求めている。 事務の効率化は、制度対応の最前線でもある。 今、うちに相談に来る障害福祉事業者の多くが抱えているのも、まさにこの事務負担の問題だ。記録ソフトの選定から請求業務の代行、月次の数字管理まで、外部のサポートを使って「管理者が本当にやるべき仕事」に集中できる体制を整えることが、令和8年度以降を乗り越える最短ルートだと思っている。

出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の詳細・最新情報は必ず各省庁の公式情報をご確認ください。


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