処遇改善加算Ⅰロ 算定要件と様式差替 実務対応3点【2026年7月】

28.7%── これが訪問介護事業所で処遇改善加算Ⅰロを算定できたときの加算率だ。 サービス収入の28.7%相当が、職員の賃金原資として毎月上乗せで入ってくる計算になる。 令和8年6月から始まったこの「Ⅰロ」という新区分、うちのクライアントの中でも対応が済んでいる法人とそうでない法人で、すでに経営数字に差が出はじめている。 今週、厚生労働省からさらに動きがあった。7月8日と14日の2回にわたって、処遇改善加算の実績報告書Excelに差し替えが入った。計算式の誤りが見つかったためだ。旧様式のまま書類を作っている事業所は、今すぐ差し替え版に切り替える必要がある。

令和8年6月から「Ⅰロ」が始まった──気づかずに旧区分のままの事業所がある

処遇改善加算は令和6年10月に3種類が一本化された。それが令和8年度改定で、もう一段変わった。6月以降の加算には「Ⅰ(イ)」と「Ⅰ(ロ)」という2つの区分が生まれ、ロを選ぶと加算率が上がる仕組みになった。 4月・5月は令和7年度と同じ加算率で請求しつつ、6月以降の算定にあたっては新区分のどちらを取るかを決める必要がある。届出の変更が必要になるケースもあるため、法人の事務担当者が「うちは6月で何か変わったか?」を未確認のまま放置しているとそのまま低い加算率が続く。 うちのクライアントで確認した限り、5月末に届出を修正して6月請求からⅠロに切り替えた法人は複数いる。一方、「6月から変わっていると聞いていなかった」という事務長もいた。

「Ⅰロ」を取るための2つの条件──どちらかを満たせばいい

Ⅰロへの移行条件は、サービス種別によって2パターンある。
  • 通所・訪問サービス等の場合:ケアプランデータ連携システムへの加入と実績報告
  • 施設・居住系サービスの場合:生産性向上推進体制加算Ⅰ又はⅡの取得と実績報告
ケアプランデータ連携システムは、居宅介護支援事業所との間で利用票・提供票を電子で交換する仕組みだ。訪問介護や通所介護の事業所が加入するには、国保中央会が運用するシステムへの登録が必要で、月額費用がかかる。 「コストをかけてまで加入すべきか」という相談をクライアントから受けることがある。私の見立てでは、月1〜2万円程度のシステム費用であれば、Ⅰロに上がることで増える加算額が多くの場合でそれを上回る。訪問介護なら1.7ポイント、通所介護なら0.9ポイントの上乗せがあり、月の報酬規模次第で毎月数万円から十数万円の差になる(試算値。実際の額は各施設の月間サービス収入・地域単価により異なる)。 ただし、生産性向上推進体制加算を取得していない施設系(特養・老健・グループホーム等)については、まずその加算の届出が前提になる。書類と体制を整えずにⅠロへ移行することはできない。

サービス種別で加算率はこれだけ変わる──主要3種の比較

令和8年6月以降の主要サービス別加算率(介護職員等処遇改善加算)を整理すると以下のとおりだ(参考:のどか会計事務所 加算率一覧(令和8年度対応))。
  • 訪問介護:Ⅰイ=27.0% / Ⅰロ=28.7%
  • 通所介護:Ⅰイ=11.1% / Ⅰロ=12.0%
  • 介護老人福祉施設(特養):Ⅰイ=16.3% / Ⅰロ=17.6%
訪問介護の加算率が突出して高いのは、報酬単価が相対的に低い中で職員の賃金を手厚くする制度設計になっているためだ。月間の報酬収入が500万円の訪問介護事業所なら、ⅠイとⅠロの差(1.7ポイント)で月に約8.5万円変わってくる計算になる(試算値)。 「うちは訪問介護じゃないからそんなに変わらない」と言う通所介護の事務長がいるが、それでも0.9ポイントの差だ。月300万円の報酬収入の事業所なら月2.7万円、年間32万円以上の差になる(いずれも試算値)。 ちなみに、令和8年度から訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅介護支援も処遇改善加算の対象に加わった。訪問看護は加算率1.8%、居宅介護支援は2.1%と、介護保険の他サービスに比べると低率ではあるが、これまで加算がなかったサービスにとっては新しい財源になる。

7月8日と14日、様式の差し替えが2回起きた──何が問題だったのか

厚生労働省は7月8日に介護保険最新情報Vol.1522を発出し、処遇改善加算の実績報告書(別紙様式3)のExcelを差し替えた。理由は「計算式などの改善・修正のため」で、令和7年度分・令和8年度分の通常版と大規模版(2000行版)の4ファイルが対象だった(介護保険最新情報Vol.1522(厚生労働省))。 その6日後の7月14日、今度は令和8年度の実績報告書が再び差し替えられた。厚生労働省の令和8年度介護報酬改定ページには「令和8年7月14日に差し替えています」と明記されている(令和8年度介護報酬改定について(厚生労働省))。 1週間に2回の差し替え。事務の現場からすると「どっちが最新?」と混乱する。整理すると:
  • 7月8日(Vol.1522):令和7年度・8年度分の様式に計算式の誤りがあり差し替え
  • 7月14日:令和8年度分についてさらなる修正があり再差し替え
令和8年度分の実績報告書を使う場合は、7月14日以降のファイルが「最新」になる。厚労省サイトの令和8年度介護報酬改定ページから直接ダウンロードしたものを使うのが確実だ。古いファイルをそのまま使っている事業所は計算が合わない可能性がある。 なお、7月8日以前にすでに旧様式で実績報告を提出済みの事業所については、「差し替え前の様式のまま提出可能、その旨をメール本文に記載すること」という案内が一部自治体から出ている。すでに提出が完了している場合はそのまま保持し、念のため担当の指定権者(都道府県・市区町村)に確認しておくことを勧める。

今週月曜に確認すべき3つのこと

話を整理すると、今週確認すべきことは3つに絞られる。
  1. 令和8年6月以降、ⅠイからⅠロへの届出変更が必要かどうか確認する
    ケアプランデータ連携システムへの加入状況と、施設系の生産性向上推進体制加算の取得状況を確認。まだ移行できていなければ7月分の請求前に動き始める。
  2. 実績報告書を使う予定の事業所は7月14日以降の最新Excelを確認する
    厚労省の令和8年度介護報酬改定ページから最新版をダウンロードし、既存のファイルと差し替える。特に大規模版(2000行版)を使っている法人は確認必須。
  3. 令和8年度分の処遇改善計画書(別紙様式2)の内容と実績との整合性を確認する
    6月以降の加算区分変更がある場合、計画書の記載内容と実際の支給配分が合っているかを再確認する。加算区分が変わっていれば、計画書の変更届が必要なケースもある。
うちに相談に来るクライアントの中には、「様式の差し替えがあったことを知らなかった」という事業所が今月に入ってから3件あった。制度の変更情報をキャッチアップするだけで精一杯で、様式の細かい更新まで追えていないのが現場の実態だと思う。 これを読んでいる経営者・管理者の中で、処遇改善加算の書類管理を誰に任せているかもう一度確認してほしい。Ⅰロへの移行ができているかどうかで、今後12か月の加算収入に数十万円から百万円超の差が出る。放置するには大きすぎる金額だ。 気になる点があれば、うちのほうで書類の現状確認や届出サポートを行っている。詳しくはじむちょー君のページから。 また、処遇改善加算の6月改定の全体像についてはこちらの記事(令和8年6月 通所介護の処遇改善改定3点)も参照してほしい。採用力との連動については介護人材確保の実態(3.97倍の市場)でも触れている。

出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度改正等により内容が変更になる場合があります。最新情報は厚生労働省の公式ページで必ずご確認ください。


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