退職手当共済 見直しの方向性 法人本部が確認する3点【2026】

11月4日、水曜の夕方。名古屋市内の社会福祉法人の本部事務室で、D事務長がデスクに厚労省の資料を広げていました。11月2日の検討会で配られた、退職手当共済の「見直しの方向性」です。赤ペンの線は「計算基礎額の上限(36万円)」の一行で止まっています。

「これ、来年の退職金規程の見直しに入れるべきですかね」

私はすぐには答えられませんでした。資料に並ぶのは「〜してはどうか」という案ばかりで、まだ何も決まっていないからです。それでも、決まる前に本部で数えておける数字はある。その日2人で書き出した3点を残しておきます。


11月2日の資料で、5つの論点に「方向性」が付いた

対象は、社会福祉法人が加入する社会福祉施設職員等退職手当共済制度です。福祉医療機構が運営する、職員の退職金を加入法人の掛金で支え合う仕組みですね。厚労省の在り方に関する検討会(第5回)が令和8年11月2日に開かれ、資料1「これまでの御意見を踏まえた見直しの方向性について」が出ました。

5月の記事は検討会の立ち上げと掛金の話でした。今回は給付の中身にも案が付いています。本部に直結するのは次の5つです。

  • 支給対象:今の「加入1年以上」から加入年数の引上げを検討
  • 計算基礎額の上限:36万円を、近年の賃金上昇を踏まえて見直しを検討
  • 役職を降りた職員の計算:給与が下がる前の期間は、減額前の給与で算定する案
  • 加入期間の合算:退職後3年以内の復帰という要件の延長を検討
  • 財政均衡期間:おおむね5年間から、2040年頃までを見据えた設定へ

どれも確定ではありません。参考資料4のスケジュールでは、取りまとめは福祉部会に報告するとされています。介護ニュースJointは、法改正を念頭に検討が進み、取りまとめは当初の秋ごろから今冬にずれ込む見通しだと報じました。

では、決まっていない段階で本部は何を数えておけばいいのか。1つ目は、早く辞める職員の扱いです。


1つ目の確認:加入1年で辞める職員に退職金を払う規程のままでいいか

今の制度では、被共済職員となった日から1年未満で退職した場合は不支給です。資料1は、人材定着の観点と民間企業の状況を踏まえて、支給対象となる加入年数を引き上げる検討を提案しました。

何年にするかは未定です。構成員の意見には、「支給に必要な最低勤続年数を3年~5年以上にすることはやむを得ない」というものもありますが、意見の一つにすぎません。

今いる職員には経過措置の案があります。施行日の前日に退職したと仮定した場合の支給額を保障する、という中身です。

本部で見ておきたいのは、法人の退職金規程と求人票です。規程に「退職金は退職手当共済制度による」とだけあれば、共済の支給要件が変わった時点で法人の条件も動きます。加入1年以上5年未満で辞めた職員の数を過去3年分数えておくと、改正が決まった日の職員説明の土台になります。

1年目の線引きより、もっと金額が動くのは50代後半の職員です。


2つ目の確認:役職定年の前に「一旦退職」させていないか

退職手当金の計算基礎額は「退職前6か月の本俸平均額」がもとになります。役職を降りて給料が下がると、最後の6か月の低い数字で計算されてしまう。そのため減額前に一旦退職して退職手当金を受け取る実態がある、という指摘があったと資料1は書いています。

D事務長が顔を上げたのは、この段落でした。「うちも去年、それで相談を受けました」。資料を読んでいた私の手も、そこで止まりました。

資料1の案は、役職を降りて給与が下がる場合、それまでの期間は減額前の給与で算定するというもの。これが入れば、退職金のために一旦退職させる理由はほぼなくなります。

他の法人と比べる材料もあります。参考資料2は全国社会福祉法人経営者協議会の調査(令和8年4月1日時点)がもとです。定年制度や役職定年制度等の導入状況と、役職定年等の後に賃金がどれだけ減るかをまとめています。自法人がどこに当てはまるか、一度照らしておくと話が早い。

本部でやることは2つです。2年以内に役職定年や再雇用への切り替えを迎える職員を一覧にする。その職員を今の運用で一旦退職させる予定があるかを書き出す。施行日は未定なので、運用を慌てて変えなくていい。対象者が見えていれば、決まった日に迷わない。

辞めた職員が戻る場合も同じ表に載せられます。今は退職手当金を請求せず3年以内に被共済職員へ戻れば、加入期間を合算できます。資料1はこの3年以内という要件の延長を検討するとしました。参考資料1によると、令和6年度の退職者95,958人のうち合算を申し出たのは3,748人。退職面談で合算制度を案内しているか、一度確かめておきたいところです。

ここまでは給付の話でした。本部の財布に一番響くのは3つ目です。


3つ目の確認:1人148,500円の掛金が来年度も同じとは限らない

令和8年度の単位掛金額は49,500円で、特定介護保険施設等職員はその3倍です。参考資料5では、職員1人あたりの掛金は年額148,500円(公費助成のある保育所等は49,500円)。公費助成のない職員が50人いれば、年742万5,000円(148,500円×50人の試算値)。

掛金を下支えしてきた支払準備金は、令和3年度末の505億円から令和6年度末の294億円へ減りました。引上げを抑えるため、令和4年度以降に取り崩してきた結果です。

資料1の案では、財政均衡期間(掛金で収支を合わせる期間)を、今のおおむね5年間から2040年頃までを見据えた設定に延ばします。足りない年は福祉医療機構からの借入も使う。掛金の引上げ幅の平準化も検討するとしました。資料1の冒頭には、一定の掛金負担の増加や給付水準の見直しも視野に入れると書かれています。急な跳ね上がりは避けたい、でも上がらないとは誰も言っていない。私はそう読みました。

納付は今のままと見ておく方が安全です。5月末までの一括納付を分割にする案も出ましたが、支払準備金が十分でないと資金不足が生じるおそれがあるとして、資料1は慎重な検討が必要ではないかとしています。

本部の仕事は、来年度予算の掛金を「今年と同額」で置かないこと。職員数×148,500円を基準にして、上振れの幅を2パターン置き、5月末の一括納付に向けた資金繰り表にも入れておく。負担を理由に契約を解除しても、納めた掛金は返らず、職員に退職手当金も出ません。脱退は最後の選択肢です。


取りまとめは今冬。年内に作っておくのはA4の表1枚でいい

D事務長とは、A4横1枚の表を作ることで話が落ち着きました。行は3つです。

  • 加入1年以上5年未満で辞めた職員の数(過去3年分)と、退職金規程の書き方
  • 2年以内に役職定年や再雇用を迎える職員と、今の運用(一旦退職させるかどうか)
  • 来年度の掛金(148,500円×職員数)と上振れ2パターン、5月末の納付資金

表があれば、取りまとめが出た日に差し替える数字がすぐ分かる。なければ資料の読み直しから始まります。年明けの理事会資料づくりと重なると、かなりきつい。

帰り際、D事務長は赤ペンのキャップを閉めながら「36万円の上限、上がるといいんですけどね」と言いました。上がれば、長く勤めた職員には朗報です。その分を誰がどう負担するのか。今冬に出る見通しの取りまとめで、そこまで書かれるかどうか。あなたの法人の表は、それまでに埋まりそうですか。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。最新情報は各公式サイトでご確認ください。


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