退職手当共済の見直し議論が動き出した──社会福祉法人経営者がこの夏やる3つの確認
148,500円。これが、特定介護保険施設で職員1人を1年雇うために、退職手当共済制度に積まなければならない掛金の額だ。
社会福祉施設等の職員なら 49,500円。同じ法人内でも、施設の種類で3倍ちがう。
そして本日2026年5月29日、この掛金の出し方そのものを議論する厚労省の検討会が、第2回の配布資料を公開した。社会福祉法人を経営している人は、夏が終わる前に一度、自法人の負担を棚卸ししておいたほうがいい。
「48,000円問題」では済まない、3倍の重み
うちのクライアントには、社会福祉法人格を持つ介護事業者がいる。理事長と人件費の話をすると、必ず出るのが「退職手当共済の掛金、年々重い」というぼやきだ。職員100人規模の特定介護保険施設なら、単純計算で 1,485万円。これを毎年、独立行政法人福祉医療機構(WAM)に納める。
令和8年度の単位掛金は、WAMが公表している通り、次の3区分に分かれている。
- 社会福祉施設等職員:49,500円
- 特定介護保険施設等職員:148,500円
- 申出施設等職員:148,500円
同じ法人で複数事業をやっていれば、職員ごとにこの3区分のどれにあたるかが変わる。経理担当者にとっては、毎年「掛金は事業区分別に正しく出ているか」を確認する作業がしれっと発生している、あの仕組みだ。
そして、その仕組みの根っこそのものを国が見直そうとしている。問題は「いくら見直すか」より、「どの方向に変えるか」だ。
第2回検討会が、本日 配布資料を公開した
厚生労働省の「社会福祉施設職員等退職手当共済制度の在り方に関する検討会」は、第1回が 2026年4月23日 に開催された。場所はTKP新橋カンファレンスセンター、ライブ配信は行われたが、傍聴は報道関係者のみ、という比較的静かな立ち上がりだった。
その第2回の配布資料が、本日 2026年5月29日付で 厚労省の新着一覧 に掲載された。新着の最上段に「審議会等」として並んでいるので、社会・援護局からの案件として動いているのがわかる。
第1回の配布資料の構成を見ると、資料4「現状及び課題」、資料5「検討の視点」 という2本柱で議論が組まれている。資料3には「今後の検討会のスケジュール(案)」もあり、年内には複数回の議論が積まれていく構えだ。
つまり、もう「動くか動かないか」のフェーズではない。「どう変わるか」を見に行く段階に入っている。
88万人と256万人——この数字をどう読むか
制度のいまを示す数字を、ひとつだけ拾っておきたい。
WAMの公表資料によれば、本制度の加入者は 令和7年4月時点で約88万人。創設からの累計支給人員は 延べ約256万人。社会福祉施設職員等退職手当共済法(昭和36年法律第155号)に基づき、半世紀以上続いてきた仕組みだ。
支給イメージも、WAMの普通退職支給例を引いておく。
- 5年勤務:約49万6千円
- 10年勤務:約114万8千円
- 15年勤務:約269万7千円
- 20年勤務:約572万5千円
20年務めた職員には、約572万円が出る。職員から見れば、長く働くほど確実に積み上がる「もう一段の退職金」として機能している。だから経営者が「掛金が重い」とだけ言うのは、半分しか正しくない。退職金原資の外出しでもあるから、自前で内部留保するより会計的に固いという顔も持っている。
この両面を踏まえないと、見直し議論の論点が見えてこない。
検討の視点が向いている先は、どこか
第1回の配布資料には「検討の視点」という資料5があり、ここに議論の枠組みが置かれている。資料そのものはPDFで公開されているので、社会福祉法人経営者は一度目を通したほうがいい類のものだ。
私の見立てを正直に書くと、この検討会で議論されるテーマは、大きく次の3つに集約されていく可能性が高い。
- 給付水準と掛金水準のバランス——加入者数の動きと支給実績に照らして、現行の単位掛金(49,500円/148,500円)が持続可能か
- 事業区分の整理——特定介護保険施設等とそれ以外で掛金が3倍違う構造を、どこまで温存するか
- 制度の役割の再確認——民間の退職金制度(中退共・確定拠出年金等)が広がるなかで、本制度ならではの存在意義をどう定義するか
1つ目と2つ目は、経営者の人件費負担に直結する。3つ目は、社会福祉法人ならではの公的補助とセットになっているので、財源論として国会まで届きうるテーマだ。
どの方向に転んでも、月次の人件費試算を組み直すタイミングが、来年のどこかで必ずやってくる。
この夏、経営者が必ず確認しておく3つのこと
検討会の結論が出るまでには時間がかかる。だからといって、何もしないでいいわけではない。経営者として今のうちに手元で済ませておけることが、3つある。
1つ目。自法人の掛金実額と、事業区分の内訳を出しておく。年間掛金の総額を、社会福祉施設等職員ぶんと特定介護保険施設等職員ぶんで分けて出す。経理担当者がいるなら30分で出せる作業だが、理事長の手元にそれが「数字として」存在していない法人は意外と多い。
2つ目。支給実績の試算を回しておく。直近5年で何人が退職し、共済からいくら出たか。WAMの支給例と照らせば、当法人の運用実態が「平均より長く勤めて辞めている」のか「短期離職が多い」のかが、ぼんやり見えてくる。掛金は払うのに、給付に届かず辞める職員が多いなら、それは別途の人事課題の信号だ。
3つ目。退職金規程と、退職手当共済の関係を整理しておく。自前の退職金規程で約束している額と、退職手当共済から出る額。両者が重なって出るのか、相殺関係にあるのか、規程の文言で読み取れるようにしておく。検討会で給付水準の話が動いたとき、慌てて規程を読み直すことになる。
3つとも、検討会の結論を待つ話ではない。結論が出る前にやっておいたほうが、出てからの判断が速くなる類の準備だ。
動き出した議論を、追いかける側で見ておく
検討会は今日、第2回を回した。年内にいくつかの論点が固まり、来年度のどこかで方向性が見える。社会福祉法人経営者にとって、これは「制度が変わってから対応する」テーマではない。議論の途中から座って見ておくほうが、対応コストはずっと低い。
うちでも、社会福祉法人格を持つクライアントには「検討会の配布資料が出るたびに、1ページだけでも目を通してください」とだけ伝えている。それで十分だ。資料の柱と用語さえ追っておけば、最終とりまとめが出たときに、何が変わったかは1時間で読み解ける。
逆に、議論を完全にスルーしていると、結論が出てから「うちには関係あったのか」を調べるところから始めることになる。1日仕事になる。
掛金148,500円の重みは、急には変わらない。ただ、その148,500円の根拠が動こうとしている。動く前から見ておく。それだけのことだ。
出典・参考情報
- 「社会福祉施設職員等退職手当共済制度の在り方に関する検討会」(第1回)を開催します(案内)(厚生労働省、確認日:2026年5月29日)
- 社会福祉施設職員等退職手当共済制度の在り方に関する検討会(第1回)配布資料(厚生労働省、確認日:2026年5月29日)
- 厚生労働省 新着情報(第2回検討会 配布資料 掲載確認)(厚生労働省、確認日:2026年5月29日)
- 社会福祉施設職員等退職手当共済制度について(独立行政法人福祉医療機構、確認日:2026年5月29日)
- 社会福祉施設職員等退職手当共済法(昭和36年法律第155号)(e-Gov 法令検索、確認日:2026年5月29日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。最新情報は各発行元の公式サイトをご確認ください。
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