2棟目だけ、単価が違う

土曜の昼、豊橋市の住宅街。2棟目のグループホームになる予定の一軒家で、A理事長が床に間取り図を広げている。日当たりのいい南側の部屋を誰に使ってもらうか、もう頭の中では決まっているらしい。

「年内に指定を取りたいんです」。その一言で、私は図面から顔を上げました。令和8年6月1日以降に新規指定を受けた共同生活援助は、基本報酬が所定単位数の1000分の972になります。同じ法人でも、1棟目と2棟目で単価が違う。

この話をすると、たいてい「えっ、そんなの聞いてない」と返ってきます。6月にもう施行されている話なのですが、開設を検討している段階の法人ほど、届いていない。


令和8年6月1日で、線が引かれた

順番に置いていきます。障害福祉サービス等報酬改定検討チーム(第53回)でまとめられた令和8年度障害福祉サービス等報酬改定の概要には、こう書かれています。

「収支差率が高く、かつ、事業所が急増しているサービス類型について、サービスの質を担保しつつ、制度の持続可能性を確保する観点から、新規事業所に限り、令和9年度報酬改定までの間、応急的な報酬単価(一定程度引き下げた基本報酬)を適用する。【告示改正・令和8年6月施行】」

名前は「応急的な報酬単価の特例」。対象になったサービスは4つです。

  • 就労継続支援B型
  • 共同生活援助(介護サービス包括型・日中サービス支援型)
  • 児童発達支援
  • 放課後等デイサービス

この4つがどうやって選ばれたかも、同じ資料に書いてあります。「年間総費用額全体に占める割合が1%以上で、令和6年度の収支差率が5%以上あるサービスのうち、事業所の伸び率が過去3年間5%以上の伸びを続けているサービス」。費用が大きく、利益が出ていて、事業所が増え続けている。3つ揃ったところが選ばれた、ということです。

そして肝心の線引きが「令和8年6月1日以降に新規指定された事業所(既存事業所については従前どおり)」。すでに動いている事業所は対象外で、これから指定を受けるところだけが対象になります。

法人単位ではありません。事業所単位です。だからA理事長の1棟目は従前の単価のまま、2棟目だけが下がる。なお、合併・分割・事業譲渡による指定については「その前後で事業所が実質的に継続して運営されると認める場合は、既存事業所と同様の扱い」とされています。事業譲渡でGHを引き継ぐケースは、新規扱いにならない可能性がある。ここは自治体に確認する価値があります。

で、下げ幅です。4サービスで同じではありません。


972、984、988、982

同じ資料の単位数の頁に、サービスごとの数字が並んでいます。

  • 共同生活援助(介護サービス包括型・日中サービス支援型):所定単位数の1000分の972
  • 放課後等デイサービス:所定単位数の1000分の982
  • 就労継続支援B型:所定単位数の1000分の984
  • 児童発達支援:所定単位数の1000分の988

いちばん深く下げられたのが共同生活援助です。1000から972を引けば28。就労継続支援B型は16、児童発達支援は12ですから、倍以上の開きがある。

「その程度か」と思われるかもしれません。ただ、効いてくるのは基本報酬の総額に対してです。GHを1棟、通年で回す前提の事業計画があるなら、その計画書の売上欄に0.972を掛けたものが実際に入ってくる金額になる。金融機関に出した計画書がそのままなら、初年度から差が出ます。

しかも期間の書き方が「令和9年度報酬改定までの間」。次の改定でどう扱われるかは、この資料には書かれていません。恒久的に下がったわけでもないし、必ず戻ると決まっているわけでもない。今わかっているのはここまでです。

ただ、利用者全員分が一律に下がるかというと、そうでもない。


「従前どおり」に乗れる区分がある

同じ資料には、配慮措置として「以下の基本報酬については従前の報酬単価を適用する」と明記された区分があります。共同生活援助でいうと、重度障害者への配慮として挙がっているのがこちらです。

  • 重度障害者支援加算(Ⅰ)(Ⅱ)、医療的ケア対応支援加算、医療連携体制加算(Ⅳ)を算定する利用者に係る基本報酬
  • 視覚・聴覚言語障害者支援体制加算(Ⅰ)(Ⅱ)、高次脳機能障害者支援体制加算を算定する事業所に係る基本報酬

利用者単位で見るものと、事業所単位で見るものが混ざっている点に注意してください。前者はその利用者の分だけが従前単価、後者は事業所全体が従前単価という読み方になります。

地域への配慮もあります。「離島・中山間地域(特別地域加算の対象地域)にある事業所に係る基本報酬」と、「自治体が客観的に必要であるとして設置する事業所に係る基本報酬」の2つ。後者にはさらに但し書きがついていて、「公募によりサービスが不足する地域に設置する事業所」「自治体から補助等の経済的支援を得て設置する事業所」が挙げられています。

市から「この地域にGHが足りないので」と声をかけられて手を挙げた。あるいは市の整備補助を使って建てる。そういう開設の仕方をしているなら、配慮措置の側に立てる可能性があるということです。

ここまで読んで、勘のいい方は気付いたはずです。これ、請求ソフトが勝手に判定してくれる話ではない。


効いてくるのは、指定申請のタイミングだけ

こども家庭庁の令和8年度障害福祉サービス等報酬改定のページに、実務側の書類がまとまって置かれています。並んでいるタイトルを見れば、運用の設計思想がわかります。

  • 【別紙3】応急的報酬単価の配慮措置適用に係る指定申請時の確認と伝達手順について(障害福祉サービス)+参考様式
  • 【別紙4】応急的報酬単価と配慮措置の請求時の審査手順について(障害福祉サービス)
  • 【別紙1】【別紙2】同じ組み合わせの障害児通所支援版

「指定申請時の確認と伝達手順」。配慮措置に該当するかどうかを確認して伝えるのは、請求のときではなく、指定申請のときだと書かれている。参考様式まで用意されているということは、口頭のやりとりで済ませる建て付けではないということです。

開設準備は、物件と人員と重説と、やることが多い。そのなかで指定申請の書類は「出せば通るもの」として、いちばん機械的に処理されがちです。今回の特例は、その機械的に処理される場所に効きます。

私がA理事長に伝えたのは、3つだけでした。

  1. 2棟目が新規指定である以上、基本報酬は1000分の972で計画を引き直す
  2. 入居予定者のなかに重度障害者支援加算や医療連携体制加算(Ⅳ)の対象になる方がいるか、事前に洗い出す
  3. 市の公募や整備補助を使う予定があるなら、その事実を指定申請の時点で担当課に伝える

3番は、補助金の担当課と指定の担当課が別だと、法人側から言わないと繋がりません。同じ庁舎の別のフロアで止まる話です。

なお、令和8年度改定については厚生労働省の概要ページが親資料の掲載元で、こども家庭庁側にはQ&A VOL.2(令和8年7月13日)も出ています。読むなら、この2つを開いてからにしてください。

あなたの法人が来年度に予定している新規指定は、何事業所ありますか。その計画書の売上欄は、0.972を掛けたあとの数字になっているでしょうか。


出典・参考情報

※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の内容は改正される場合がありますので、最新の情報は各公式サイトでご確認ください。


あわせて読みたい


株式会社Reliefのサービスで、事業運営を強力サポート!

株式会社Reliefは、医療機関や介護・福祉・保育施設の運営をトータルサポートする専門企業です。
業界特化型のオンラインアシスタント「セレナ」
月一回からはじめる事務長アウトソーシング「困ったときのじむちょー君」
バックオフィスの業務改善・効率化、MoneyForwardクラウドICT・クラウドDX導入支援
経営課題の解決や業務効率化を実現し、貴社の発展を全力でサポートいたします。

現場の事務負担を減らす自社開発アプリも無料で公開しています。
PC・ソフトの台帳づくりを自動化するIT資産管理ツール
社用車・送迎車の記録を一元管理する車両管理アプリ
最新情報のお知らせは公式LINEでお届けしています。お気軽にご登録ください。