障害者虐待の83%は経済的虐待 医療福祉が最多【2026】
障害者虐待は、暴力の話ではない。
厚生労働省が9月11日に公表した令和7年度の集計では、虐待が認められた障害者610人のうち521人、つまり83.1%が「経済的虐待」だった。手を上げた事業所ではなく、賃金を払い切れていなかった事業所が、いちばん多く数えられている。
業種別の最多は、製造業でも飲食でもない。「医療、福祉」の102事業所。うちのクライアントが並んでいる業界そのものだった。
殴っていない事業所が、いちばん多く数えられた
数字から先に置く。厚生労働省「令和7年度使用者による障害者虐待の状況等」によると、令和7年度に通報・届出があったのは1,663事業所、対象となった障害者は1,953人。このうち実際に虐待が認められたのは421事業所、610人でした。
認められた虐待の種別(延べ627人)の内訳がこうです。
- 経済的虐待 521人(83.1%)
- 心理的虐待 62人(9.9%)
- 身体的虐待 31人(4.9%)
- 放置等による虐待 9人(1.4%)
- 性的虐待 4人(0.6%)
経済的虐待という言葉は、障害者虐待防止法(障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律)第2条第8項第5号で「障害者の財産を不当に処分することその他障害者から不当に財産上の利益を得ること」と定義されています。財産を取り上げる、という語感が強い。ところが実務で何が起きているかというと、もっと地味な話です。
労働局が令和7年度に講じた措置は計658件。そのうち労働基準関係法令に基づく指導等が561件(85.3%)を占め、うち最低賃金法に基づく指導等が207件(31.5%)ありました。措置全体のおよそ3割が、最低賃金にまつわる指導だったということです。
公表資料の事例5には、こう書かれています。労働基準監督署が監督指導で発見した事案で、「障害者の約定賃金が地域別最低賃金額を1時間当たり約600円下回っていたもの」。賃金台帳を確認したところ最低賃金額以上を払っていなかった事実が認められ、差額を支払うよう指導された、と。
時給が600円足りない。それが統計上は「経済的虐待」として数えられます。
業種別の1位が、この記事を読んでいる業界だった
虐待が認められた421事業所を業種で並べると、順番はこうなります。
- 医療、福祉 102事業所(24.2%)
- 製造業 87事業所(20.7%)
- 卸売業、小売業 58事業所(13.8%)
- 宿泊業、飲食サービス業 46事業所(10.9%)
規模別も見てほしい。5〜29人が168事業所(39.9%)で最も多く、5人未満が70事業所(16.6%)。大企業の話ではありません。数十人規模の法人が、いちばん多く名前を挙げられている。
虐待を行った使用者の内訳は計429人で、事業主が359人(83.7%)。所属の上司は45人(10.5%)にとどまります。現場の誰かが暴走した、という構図ではない。法人の側、つまり給与を決めて振り込む側で起きているということです。
就労形態別だと、パート・アルバイトが272人(44.6%)、正社員が203人(33.3%)。時給で働いている人が半数近い。ここも最低賃金と直結します。
名古屋市内で放課後等デイサービスを運営するA理事長と、この資料を一緒に開いたときのことを書いておきます。最初の反応は「うちは虐待なんてしていない」でした。しばらくして、就業規則の写しを出しながら「時給の人、まだいたな」と言い、その場で電話をかけていた。血の気が引いた、という表情。悪意があったわけではない。単に、障害のある職員を雇っているという認識と、賃金改定の作業が、頭の中でつながっていなかっただけです。
労基署に指導されて終わり、ではない
ここからが本題です。最低賃金割れは労働基準監督署の指導で終わる話だと思われがちですが、使用者による障害者虐待の場合、情報の流れが違います。
障害者虐待防止法第24条に基づき、都道府県から労働局へ報告が上がる経路がある。逆に、労働局から都道府県へ返る流れもあります。公表資料の事例5には、労働局が差額支払いを指導したあと「処理終了後、労働局は都道府県に対して情報提供を行った」と明記されています。
都道府県は、障害福祉サービス事業所にとっては指定権者です。介護保険サービスなら県や市が指定権者になる。つまり賃金の話が、労働行政の中だけで閉じない。指定や運営指導を担当している側にも、事実として渡ります。
さらに同法第28条は、厚生労働大臣が毎年度この状況を公表すると定めています。今回の資料がまさにそれです。個別の法人名は出ませんが、「医療、福祉が業種別最多」という形で、業界単位の評価としては毎年積み上がっていく。
労基法違反の是正勧告と、性質がまったく違う。ここを取り違えている経営者が、正直、多いと思います。
10月1日までに、賃金台帳より先に開くもの
時期の話をします。厚生労働省の9月3日公表によると、全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました。全国加重平均額は1,177円(昨年度1,121円)で、56円の引上げ。47都道府県で54円から65円の引上げとなり、令和8年10月1日から令和8年12月2日までの間に順次発効される予定です。
10月に入った瞬間、今の時給のままだと最低賃金を下回る職員が出る法人がある。ここまでは毎年やっている作業だと思います。
今年やってほしいのは、その前に1本、名簿を作ることです。
公表資料の注釈に、見落とされやすい一文があります。障害者の定義について「障害者手帳を取得していない場合も含まれます」と書かれている。障害者基本法第2条第1号の定義に基づくため、手帳の有無で線を引いていません。雇用率にカウントしていない職員でも、この統計の対象になり得るということです。
だから、順番はこうしてほしい。
- 時給で働いている職員の一覧を出す(パート・アルバイト、期間契約を含む)
- そのうち、障害のある職員を把握する。手帳の有無ではなく、採用時や配置転換の際に本人から申告があった人まで含めて確認する
- 10月以降に適用される自県の改定額で、その人たちの時給を先に検算する
3番だけやっている法人が多い。1番と2番を飛ばすと、いちばん指摘されやすい層が最後まで確認されないまま10月を迎えます。
うちが事務代行で入っている法人では、賃金改定の作業に入る前に必ずこの名簿を突き合わせます。特別なことはしていません。エクセル1枚です。それでも、改定前に気付くのと、年度末に監督署から言われるのとでは、まるで別の話になる。
あなたの法人の賃金台帳に、時給で働いている障害のある職員は何人載っていますか。その数字が即答できないなら、10月1日までに開くべきは台帳ではなく、名簿のほうです。
出典・参考情報
- 「令和7年度使用者による障害者虐待の状況等」の結果を公表します(厚生労働省、令和8年9月11日公表、確認日:2026年09月12日)
- 令和7年度使用者による障害者虐待の状況等(公表資料本体・別添1〜参考2)(厚生労働省、確認日:2026年09月12日)
- 全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました(厚生労働省、令和8年9月3日公表、確認日:2026年09月12日)
※ 上記リンクは掲載時点のものです。制度の内容は改正される場合がありますので、最新の情報は各公式サイトでご確認ください。
あわせて読みたい
株式会社Reliefのサービスで、事業運営を強力サポート!
株式会社Reliefは、医療機関や介護・福祉・保育施設の運営をトータルサポートする専門企業です。
業界特化型のオンラインアシスタント「セレナ」
月一回からはじめる事務長アウトソーシング「困ったときのじむちょー君」
バックオフィスの業務改善・効率化、MoneyForwardクラウドICT・クラウドDX導入支援
経営課題の解決や業務効率化を実現し、貴社の発展を全力でサポートいたします。
現場の事務負担を減らす自社開発アプリも無料で公開しています。
PC・ソフトの台帳づくりを自動化するIT資産管理ツール
社用車・送迎車の記録を一元管理する車両管理アプリ
最新情報のお知らせは公式LINEでお届けしています。お気軽にご登録ください。
